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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《下》
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行く末は見えずとも 9

 ギルフォードとメメが目的の会社までたどり着いたころには朝の九時を回っており、その頃になると人混みからくる吐き気を何とか飲み込んだメメが復活していた。

 ギルフォードとしてはメメの体調に気を配りながら駅前からずっと歩いていたが、会社自体は住宅地から少し離れた場所にあり、人通りは少ない。

 というより全く無いという不気味さをはらんでいた。

 駅前まではまだ人が多かったのだが、会社の周辺は全くと言っていいほどに人が居なくなっている。


「おかしくないか? 何故こうも人がない」

「この辺りは関連会社が多いので倉庫ばかりだと聞いていますが? 気のせいではありませんか?」


 ギルフォードととしては納得できない話では無かったが、人通りが全くなくなるというのは少々おかしいと思ってしまう。

 周辺への警戒を決して怠らないようにしながら会社の玄関口に佇んでいる警備員の男に話しかけるメメ。

 大人しく見える警備員は帽子を深めに被っていて表情が良く見えない。


「私達日本政府からの要請で動いております。これが許可証です」

「………上に聞いてみます」


 ギルフォードは先ほどの受け答えに違和感を感じてすぐにメメへと近づいて行く。


「なあおかしくないか? 普通政府からの要請が来たって聞けば驚くか動揺すると思うが。全くの無反応だったぞ」

「わ、私も流石に動揺すると予想していたのですが、全くの無反応で驚きました。でも……だからと言ってここで逃げるわけにも」

「それはそうだが…実際の所このまま突っ込んでいいのか…罠が張ってある可能性が高い」


 用心しながら進むしかないという覚悟の元警備員が戻ってくるのを待っていると、警備員は鉄の門を開けてくれ、二人は用心しながら先へと進んで行く。

 会社はいたって普通に見えてしまうが、ギルフォードやメメから見れば目が死んでいるようにも見えてしまい、正直全員が怪しく見えてしまう。

 本社の建物の玄関から入っていき、まずは社長に挨拶をしようと社長室へと入っていく過程すら注意深く周囲を探っていく。

 どの社員は普通に見えるが、やはり目は笑っていないし、顔も無表情で楽し気な会話をしている。

 どれも彼もが違和感だらけの会社というイメージしかない。


「なあ。メメ。ここの会社は事前の下調べの段階でもこんな感じだったのか? どう考えてもおかしい所だらけだぞ」

「事前の下調べでは多少裏を感じる程度の普通の会社です」

「多少裏を感じたら普通じゃないだろ。しかし、その裏だって怪しいぞ…いったい何があったんだ?」

「分かりません。社長室に行ってみれば分かるんじゃないかと…」


 社長室のドアをノックし中へと入っていった二人の目の前にニッコリ笑った中年の男性がスーツの上に会社のジャケットを羽織った姿で現れた。


「ようこそ。なんでも怪しい人物がいるとか?」


 笑顔だがまたしても笑っていないというイメージを持つ二人、実際の所この社長ですらまともに見えなかったが、ギルフォードは社長の首元に真新しい傷跡を見付けた。

 傷痕というよりは歯形。

 どうしよも無いほどに見つけてしまった痕跡にギルフォードはメメより前に出ていく。


「もう芝居は止めよう……ボウガン! お前何をしているんだ! こんな場所で!」


 社長は途端に無表情になりロボットのような口調で、ボウガンの声真似をするようにしゃべり始めた。


『眷属型の吸血鬼を造ってみたくてな。どうかな? もの凄い繁殖速度で増えていき、今やこの会社全員が吸血鬼だ。最も……太陽光を克服できた固体と出来なかった固体で分けてあるけどな』

「これだけの被害……お前は俺達を貶めるだけの為にここまでしたのか? それともここにはお前が核慕い何かがあるのか?」

『俺はどうでもいいさ。でも…放置しておいていいのか? 夜になれば吸血鬼は人の肉を求めて彷徨い歩く。まるでゾンビのようにな。本当の吸血鬼とは程遠くとも、ゾンビのような再生能力と繁殖能力は植え付けてある。まあ、これもメメントモリが用意してくれたクスリがあればこそだが』


 薬の力で彼等は吸血鬼モドキとなり、一生をボウガンで使われるだけの人生になり果ててしまった。

 ギルフォードはそんな過酷な人生を終わらせようと双剣を取り出して構える。


「メメ。構えろ。きついかもしれないが。吸血鬼モドキを完全に排除する必要がある」

「分かっています……此処で始末をつけます」


 二つのクナイを両手に握りしめるメメ。

 吸血鬼モドキとの戦いの火ぶたは切って落とされた。



 ギルフォードとメメはまずは広い所へと移動していき、外へのドアを蹴り破るとそこには百を超えるような吸血鬼モドキが待ち構えていた。


『『『さあ。この数を相手にお前達は勝てるかな?』』』

「人の影に隠れてコソコソと…あなた恥ずかしくは無いのですか?」

『『『無いね。俺は吸血鬼……人間じゃない。こいつらも同じだ。全部化け物なのさ……』』』

「お前は………人に戻りたいんじゃないのか?」

『『『………さあね。知らねぇ。それよりタップリ遊んでやってくれよ』』』


 ボウガンはあくまでも高みの見物を決め込むつもりらしく、そう言って一方的に会話を打ち切りそのまま戦闘状態へと移行する。

 ギルフォードは双剣に蒼い炎を灯らせて一気に吸血鬼モドキを一掃する。


「メメ。お前は室内にいる吸血鬼モドキを頼む。それと同時に応援と事情説明」

「一片に片付けろと? 無茶苦茶を言いますね……やってみます!」


 そう言って駆け出していくメメを見送るギルフォード、百を超える吸血鬼との戦いの幕が上がった。

 同じ時ボウガンは建物の屋上から彼等の戦いを見守っており、カラスの背中を優しく撫でてやる。


「さてと…勝てると思うか?」


 カラスはボウガンの方をジッと見つめてくる。


「? あいつらが気になるのか? そうだな……かつての同胞だしな」


 カラスは途端興味を無くしたように目を細めてもっと優しく撫でろという意思を向け、ボウガンは撫でる手を自分なりに優しく撫でてやったつもりだったが、カラスは不満を爆発させる。

 思いっ切り大きな鳴き声を上げて不満を告げた。


「何!? 今優しく撫でたろ! え? 爪を立てた!? 立ててない!」


 爪を立てたと不満をぶつけたカラス、優しく撫でてやると今度こそ不満を告げることなく大人しくなる。

 ギルフォードが沢山の吸血鬼モドキをまるで無双ゲームのような勢いで吹っ飛ばしていき、その光景は遠くから見ているボウガンでもはっきりと分かってしまう。


「おお。凄い凄い。あいつだけ生きている世界間が別の世界……いやゲームだな。もうそう言う世界で生きていればいいのにな…いや…俺達こそそう言う存在なのかもしれないな。この世界に俺達が生きる場所なんて存在しないのさ…」


 カラスはそんな言葉を聞いて上を向きながらもう一度鳴く。


「? 自分もその中に入れろ? お前は不思議な奴だな。普通こんな化け物になれば怒り狂い俺に襲い掛かっていくのにな。お前は……俺を庇ってくれるんだな」


 次第にボウガンに対して少々失礼な感じが強くなっていくが、同時に感じるボウガンへの忠誠心。

 どんな命令だって確実にこなそうとするし、何よりもボウガンを心配している。


「お前は……俺を裏切らないでくれ。頼むよ…」


 優しく抱きしめるボウガンだが、カラスはそんなボウガンに「苦しいからやめろ」と遺志を伝えもう一度鳴きだす。

 人間と同じ意思を持ち、人間と違って吸血鬼になったカラスはそれでも……ボウガンを心配している。


「さてと……この実験はどう転ぶだろうな?」


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