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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《下》
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行く末は見えずとも 7

 目を覚ましたギルフォードは予想以上に豪華な朝食にドン引きしてしまうが、金自体はギルフォードが出すわけじゃないという事もあり心配はしていなかったが、高すぎる食べ物を前にして少々めまいがするのは事実。

 レインは楽しそうにパンをちぎって口の中へと放り込み、チーズオムレツを切り分けて美味しそうに頬張る姿を見るとどうでも思えてきた。

 金額を出したメメはその姿を笑顔で見守り、その周囲ではイリーナや奈美がレインを挟んで食事をしている。

 ガルスは少し離れた場所で水を汲んできたり、周囲に常に気を配っていた。


「こんな所良いのか?」

「良いのです。これでもうちの一族は儲かっているのです」


 自信たっぷりの姿を見て内心「だったらおにぎりぐらい…」と思ってしまったギルフォードだが、突っ込んでもいい返事が期待できないので止めておき。

 食事をしようと右手を目の前に置かれているパンに伸ばそうとするが、どうしても食欲が出てこずまた引っ込める。

 夢で何かを見ていたような気がするが、全く覚えていないので気持ちが悪い。


「食べないのですか? 美味しいですよ。それとも小食でしたっけ?」

「そう言うわけじゃないが。イマイチ食欲がわいてこなくてな」

「これから戦うかもしれないのにそんな感じではいざという時に力が出ませんよ。そんな調子でボウガンに勝てるのですか?」


 ボウガンに勝てるのかと言われてしまうと食べなくてはという気持ちになるが、その一方で心の中には「本当にボウガンは敵なのか?」という気持ちが存在してしまう。

 夢で何かを見たからなのか、それとも…レインの後ろに不死鳥が見えるからなのか。

 他の人間には全く見えていない様でギルフォードも諦めて「気にしない」という方針を取る事にし、もう一度パンへと手を伸ばしてちぎって口の中へと放り込む。

 パンが口の水分を吸い取るので今度は右手で水の入ったコップに手を伸ばし、口の中を潤してからため息を吐き出す。


「ため息一回で幸せが一つ逃げていくそうですよ」


 なんてイリーナから言われてしまうと更にため息を吐き出してしまう。


「ならもう一生分の幸せが逃げ良そうだな。まあ…今更だが」


 自分を不幸だと思ったことは無いが、だからと言って幸せだとは絶対に思えなかった。

 家族を失って今に至る人生が決して幸せ何て絶対に思えなかった。

 そんなギルフォードへとレインが口いっぱいに方張りながらあっさりと告げる。


「お兄ちゃん…まだ不死鳥さんで悩んでいるの? もう諦めたら? 一生解決しないと思う」


 メメが前のめりになって詳しく尋ねると、全員がレインの後ろを気にするようになった。

 触れようとしていても通り抜けてしまうし、何より認識できていないのでまるで変化がない。


「私達にはまるで見えませんが……ここに?」

「お兄ちゃん。昨日からずっと気にしているから…もう諦めたら。不死鳥さん。きっとお兄ちゃんを見守っているんだよ」

「気楽でいいな。俺にはお化けが見えているようにしか思えん。ハァ…」

「また一つ幸せが逃げましたね」


 イリーナから言われてギルフォードはようやく自分が最近ため息が癖になっていると気が付いた。

 しかし、だからと言って今更急に駆けられるわけがなく、結果またため息。

 目の前に広がっている食事にもイマイチ食べる気が起きず、フォークでチーズオムレツを突いてみる。


「今はお化けは良いんだよ。そんな事より本当に今から行く会社に米軍の手がかりがあるのか? 無駄足は御免だぞ」

「分かっています。絶対にあります……多分ですが。その会社ぐらいしか怪しい所が無かったんです。間違いなくコンテナを使っての侵入に違いありません」


 メメは無い胸を張って確信に満ち溢れたような顔をしていた。

 ギルフォードからすれば虚勢も良い所だと思い、ため息を吐き出したところでレインが身を乗り出して両手でため息を捕まえる仕草を見せる。


「駄目だよ。幸せが逃げちゃうよ。チーズオムレツと一緒に返却!」


 そう言ってフォークでチーズオムレツを切り分けてギルフォードの口の中へと放り込む。

 口の中にチーズとタマゴの味わいが襲い掛かってきて、少々冷めているがそれでも自然と今まで以上に美味しく感じてしまった。


「考えても無駄でしょ? だったら受け入れようよ。きっとソラのお兄ちゃんならそうするよ」


 とレインが言う傍らで奈美は決して無表情の笑顔という言葉が似あう表情を造りながら同意する。


「諦めたような表情をしながらね。もう…何かに巻き込まれるの何て慣れているんだもん」

「奈美ちゃんは除け者にされるのが嫌なんだよね? 普段からそう言う所があるし…」

「違うもん! お兄ちゃんが勝手に動くのが気に食わないだけだもん」


 なんて言いながら空になったお皿に新しい朝食を取りに行く奈美について行くイリーナ、それを笑いながら見守るレイン。

 そしてギルフォードはなんとなくソラの強さの秘密がわかったような気持ちになってしまう。


「お兄ちゃんはこのまま仕事に行くんだよね? 私はどうしようかな…」


 レインをホテルでジッとさせるわけにも行かないし、何よりこんな所に一人でいさせたら間違いなくボウガンが動きそうだった。


「それでしたらお仕事をしている最中は我々が面倒を見させてもらいます。イリーナ様や奈美様もこの辺りをぶらつくとおっしゃられていたので」

「そうですか。お姉ちゃんたちと一緒にいるんだぞ? もし何かあったら携帯で俺に連絡するんだ」


 そう言いながら朝食を取りに戻ってきたイリーナと奈美、レインは美味しそうな食べ物に目を光らせてイリーナや奈美から分けてもらっている姿を見ているギルフォード。


「それより食事をする手が完全に止まっていますが?」

「分かっているさ…メメだってあまり食べていないように思えたが?」

「私は既にあなたが来る前にひとしきり食べました。ここの朝食は前に来た時からずっとお気に入りだったので。今日こそはと全コンプリートを」

「お前……そんなに食欲が旺盛だったか?」


 胸を張るメメにドン引きの目を向けるギルフォード。



 ボウガンは大阪の街を練り歩きながら大きなあくびを上げ、周囲に見える人影なんてものはまるで気にも留めない。

 彼からすれば周囲にいる人間なんてものは全て食料。


「さてと…カールのお仕事が終わるまでは正直暇だしなぁ。その辺の人間でも食っているか?」


 そう口に出していると頭の中に忘れかけていた記憶が鮮明に蘇り、吐き気が催してしまう。

 両親に生きて欲しいと願い吸血鬼にされ、身体が大きく変貌すると同時に気が付けば両親を喰らっていた。

 その傍らで微笑み佇む吸血鬼の女性、その女を千年以上に渡って恨み続けてきたボウガン。

 それは決して簡単に払しょくできることではないし、できたとしても無視出来ることでもなかった。


「ああ……イライラするな」


 吸血鬼になってしまった時からずっと心の奥に芽生えていた苛立ち、それは決して拭う事が出来ない。

 吸血鬼にとって人は主食であってそれ以上でもそれ以下でもない。

 するとボウガンの右肩にカラスが舞い降り、苛立ちを募らせるボウガンを諫める。


「悪いな。まあ、人間を喰っても解決に成らないか? それで? 何かあったのか?」


 カラスが思念で記憶を提供してくるのを黙って見ていると、ギルフォード達が米軍の侵入経路を特定しそうになっている現場だった。


「そうか……特定されそうか。折角カールがお膳立てしておいたというのに、自分たちの侵入経路がぐらいちゃんと潰しておけって話だ。仕方がない。見つかる前に…始末するか」


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