行く末は見えずとも 5
真っ白の部屋に寂しく置かれている二つの椅子、椅子は対面に成るように配置されており一つはギルフォードが据わっており、もう一つは不死鳥が佇んでいる。
佇んでいるだけなのに威圧感タップリの存在感を発し、睨みつけるような目つきで在りながら畳んでいる羽から神々しさを発していた。
見ているだけなのだが、それだけで何か強い意思を感じさせる。
『我々は生まれる時から死ぬ時まで一緒の存在。妹も同じこと……お前の妹の運命…これに決してボウガンは他人事ではな』
「何故そこでボウガンが出てくる? どうして」
『……レインの身に宿った力と全く同じ才能を持っているのがボウガンだから。最もボウガンはそれを最適化させているが』
「待て! レインが宿らせた力は元々海洋同盟の地にあった巨大なエネルギーだったはずだ! それがレインに宿っただけ。なのにどうして同じ力が!」
海洋同盟の地で起きた魔王事死竜と闇竜の戦いの末、両者が各竜達から奪った力が海洋同盟の地に封じられていた。
これがレインに宿った結果レインに異能の原石が生まれるきっかけになったが、これは後天性の異能という事になる。
『どうして同じ異能が一つの世界にしか存在しないと錯覚する? 同じような異能が複数の世界に存在していてもおかしいことは無いと思わないか?』
そんな事を言われてもギルフォードには世界のメカニズムを理解しているわけでもない。
どうして世界が誕生したのかなんて言うのは誰にもわかりようもない事。
『ボウガンはレインが宿した異能の原石に千五百年前に宿したのだ。吸血鬼になった時に……彼が五歳の時に。でも五歳の子供にはその運命は…その宿命は過酷過ぎたのだ。だから彼は逃げ出した。それは恥ずべきことではない』
五歳の時に吸血鬼となり人を喰う生活を続けてきたボウガンは己の身に宿った異能の原石とその運命を受け入れられなかった。
『その時に君の妹が次の運命の対象へと選ばれた。君が家族を救えなかったあの時に既にソラ・ウルベクトを含めた運命は既に始まっていたんだ。あの時君が救えなかったときにボウガンを含めた三人の運命は既に動き出したんだ』
「俺の所為みたいに言うな!! あいつらが悪いんだ!」
ギルフォードは叫び声を上げて否定するが、不死者がそれを気にする事は全くなかった。
『運命何て見える者でもない。否定することは出来ない。否定しても、逃げてもいずれは追いかけられた受け入れざるおえない。レインに掛けられている運命とてもう…逃げられない』
ギルフォードは勢いよく立ち上がり不死鳥へと駆け寄っていく。
強く不死鳥を掴む。
「どうやればレインを救う事が出来る?」
『…簡単だ。君が死ねばいい。その場合……世界は救われず遠くない未来不死皇帝によって世界は屈することになる。運命を受け入れれば世界は救われ、苦労と苦しみの先に救われる』
ギルフォードは膝をつき「頼むよ…」と呟く。
「レインは……俺のたった一人の家族なんだ…妹なんだ。頼むよ」
『無理だ。何をどう言おうと君があの夜救えなかったとき既に運命は決していた。ソラ・ウルベクトすら巻き込む運命。ここのでの会話も起きれば忘れるだけのもの。何も出来ない』
「ナンデだ! 何で俺は…」
無力なんだとそう思ってしまうギルフォード。
『あの日お前は自分の行動をちゃんと考えていなかった。だから両親を妹を一族を救う事が出来なかった。私はお前達を通じてちゃんと見ていた。並行世界を通じて私という力は共通した意識を持っている。ボウガンの事も。今は信じることだ……レインを。あの子はお前が思う以上に強いのだ。信じているんだ。ソラが変えていく運命を……ボウガンすら変えられるとな。お前なら』
最後の言葉を前にギルフォードは俯いていた顔を上げて不死鳥の方をジッと見つめて返す。
『妹は信じているんだ。お前ならボウガンの心を救い前に向かせることが出来ると…』
「レインが…」
『あの子は知っているんだ。どんな結果になってもお前とボウガンは近い未来に戦う事を、その結果次第では世界はその後訪れる新たな災いに立ち向かう事が出来ると。そのカギとなっているのはお前なんだ。お前は主人公にはなれない。主人公とはソラ・ウルベクトやボウガンのような人間を指す。だが、まだボウガンは主人公としての決意がない。それを取り戻させることが出来るのはお前だけなんだ。お前がこの先に待ち受ける戦いや運命を前にして決して屈しず進み続ける。真実を知った時……お前の出す答えが重要なんだ』
「俺を買いかぶるな……お前の言う通り両親すら救えず。屈して生きてきたんだ」
『だからこそお前はどんな壁を前にしても変わることが出来る。そう妹は信じているんだ。ここでの事を忘れていてもこれだけは覚えていればいい……妹はお前を信じているんだ。ボウガンの心を救えるとな』
ボウガンの心は今だ凍てつき、誰が何を言っても還られることは無い。
しかし不死鳥は知っている……かつて別の人間を通じて見ていたから、聖竜の告げた言葉の本当の意味を。
ボウガンの本当の願い。
それを叶えることが出来るのは多くの人の想いを背負い、絆を紡ぐことが出来る者だけ……ソラ・ウルベクトとその仲間達『竜達の旅団』だけなのだと。
『誰だって最初はその運命を知れば屈してしまうだろう。ボウガンのように。だが、一人ではない…皆と一緒なのだと分かった時、人は運命を超える力を得る。運命に立ち向かい変えていける力となるんだ。そこに魔導や呪術は愚か異能ですら通用しない力となる』
誰でも屈してしまう事はある。
ボウガンのように一人なら立ち向かう事が出来ない様な強すぎる運命も、ソラのように多くの人の絆を紡ぐことが出来る人間なら一緒に乗り越えることが出来る。
『ソラ・ウルベクトがどんな戦いも超えることが出来たのは多くの人の力があったからこそです。一人で蹲っていても引っ張ってくれる人……友人や親類と呼ばれるような家族がいたからこそです。この絆は世界や時間すら超える強大な力です。あなたはそれがなんとなくわかるのではありませんか?』
ソラが魔王という力の中でレインを助けることが出来たのはその中にあった多くの人の意思が時間や空間を超えて力を与えたから。
研究都市の時にアンヌを救う事が出来たことすらも。
ソラは一人ではない。
そう言う自覚があるからこそ…それこそがソラがアックス・ガーランドから受け継ごうとしているかけがえのない力。
『あなたがソラに負けたのも…彼は人の絆を信じ貫き、どんな時すらも仲間達が一緒にいるんだと思う事が力となっているんです』
「俺が海洋同盟の時に負けたのは…俺が一人だったから」
『その通り。多くの人の繋がりをお前は否定した結果負け、ソラはその繋がりを信じたからこそ魔王にすら打ち勝つことが出来たんだ。持っている力や才能なんて言う者は自分という個人のプロフィールに過ぎない』
才能を持っていても、どれだけ力を持っていても本当の意味で世の中を生きていくのは難しい。
本当の意味で世の中を生きていく人間というのは人の繋がりを受け入れ、信じる者。
その中で自分の才能を受け入れてくれる仲間達。
誰かを否定していても何かが変わるわけじゃない。
誰かを強引に認めさせることが決して良い訳じゃない。
本当の意味で正しい事は受け入れ、受け入れる為に努力する事。
『さあ目を覚ませ。お前が一人ではないと…運命を受け入れて変えていこうと思うのなら忘れないことはたった一つだけ……信じることだ妹を。私はいつだってお前達の一族をちゃんと見ているぞ』




