行く末は見えずとも 3
その後レインを回収したギルフォードはそのまま大阪方面へとバイクを走らせ、途中で休憩を挟んだタイミングでダルサロッサの映った形態をそのままレインに手渡した。
レインは心からの喜びを示し、ダルサロッサはそれを照れくさそうにしている姿を見て改めて自分の守るべきもの、それを大切にしたいという気持ちがドンドン心の奥から溢れ出てくる。
レインへの休憩を挟みながら大阪方面へと進んで行くギルフォード達、時刻は夜の七時を迎え、すっかり暗くなるなかギルフォードは駅前の小さなお店へと入っていき、軽く食事をとったの後駅前のホテルへと二人で向かう事にした。
ホテルは事前にメメが取ってくれているだろうと思っていたが、全くしていなかったらしくホテルの受付嬢から『メメと呼ばれる方からは何も』と言われたことでしかめっ面をしてしまったが、受付嬢が調べていると別の人物からあったと聞かされた。
「その人物とは?」
「えっと……不明です」
不明と言われてしまえば余計に気になってしまうというのが本心で、詳しく名簿を見せて欲しいと頼み込むと受付嬢は大人しく中身を見せてくれるが、そこには『匿名』とだけしか書かれていなかった。
匿名と書かれている以外に電話番号も何も書かれていない。
しいて言うなら時刻だけ記載されている。
「朝方………これは直接という事か?」
「そ、そう言う事になりますね。私は朝方は担当ではありませんでしたから……申し訳ありません。何者かが…」
これ以上詮索しても仕方がないという事になり自分の部屋へと向かう事にし、エレベーターに乗り込むとメメから電話が掛かってきた。
『申し訳ありませんが宿泊代は後日別途に出させてください』
「いい。匿名で誰かが朝方に俺達が止まると決めた宿泊先に名指しで宿泊の手続きをしてくれていたよ…」
『だ、誰ですか? あなたが大阪に来ると決めていたのは今日だったはずですが?』
目的の階までたどり着き大人しく部屋の目の前で進んで行く。
「分からないが……もし……もしこれがボウガンなら」
電話越しに聞こえてくる声が荒れて聞こえてくるギルフォード。
『ありえません! だって……あなた達が宿泊することは先ほど決めたんですよ!? それが何故ボウガンに』
「そういう手筈だったんじゃないか? 俺がここに来ることもあいつの目的だった。だから大阪に宿泊できるように事前にお膳立てしておいた。出ないと匿名にする理由がないからな」
ボウガンは始めっから宿泊できるようにとお膳立てしておいたという事になる。
「始めっから仕組まれていた……良く思い出してみてもあいつは俺を大阪に行くようにとお膳立てしていたようなものだしな。結構しつこかった気がするし……」
『警戒しておく必要がありますね。念の為に室内に盗聴器の類を調べておいてくださいね』
そう言って電話を切り目的の部屋の鍵を開けて中へと入っていくギルフォード、レインを一旦廊下において置き中へと入っていくと案の定ボウガンが既に室内に入り込んでいた。
椅子をわざわざ用意しニヤリと笑いながら真直ぐにギルフォード達を見、レインは怖がってギルフォードの後ろに隠れる。
「ほう……これは凄いな。異能の存在である俺から見てもその子の身の回りの渦はすごい。これがたった一人の普通の人間が持っているんだから驚きだ。この渦の大きさ……ソラ・ウルベクトにも負けていないだろう。運命とでもいうんだろうな……」
運命と言いながら目を細めてレインを見つめ、ギルフォードは今直ぐにでも双剣を取り出しそうになるのをこらえる。
「何の用事だ?」
「いいや。この目で見ておきたかったんだ。それに……気に入ってもらえたかな? 安心しろここでは絶対に襲わない。約束するよ」
「信頼しろと?」
「そこのお嬢さんなら信じてくれるんじゃないかな?」
「お、お兄ちゃん…この人嘘は言ってないと……思う。そう言う流れを感じる」
「流石は流れが分かる。いや……こうなると命の考えまで読めるようだ。君はソラ・ウルベクト同様に過酷な運命の中にいるらしい」
「嘘を吐くな! 妹がどんな運命にあるというんだ?」
「さあな。俺達にはその辺はよく分からん。分かるんだから仕方がないだろう? お嬢さんだってなんとなくだが自分の運命の過酷さはわかっているさ。お前に気づかれないように心掛けているだけで…」
ギルフォードは改めてレインを見つめるとレインは顔を背けてしまう。
「……このおじさんも過酷な運命がある。あなたは私やソラお兄ちゃんと一緒で近い将来必ず過酷な運命が待ち受ける。それも………あなたは出生に関わる様な」
その声を聞いて立ち上がろうとする素振りだけ見せ、目つきはさらに険しくなっていき、口元をそっと抑える。
「……面白いお嬢さんだ。ならカールにも同じ運命が待ち受けているのかな?」
「ううん。おじさんだけ。おじさんだけが私やソラお兄ちゃんと一緒の運命を持っている。私達はきっと……そういう運命を背負って生きている」
レインが何を言い、ボウガンが何を想い、ソラ達がどんな運命を背負っているのかはレインにしか分からなかった。
レインだけがこの時……既に三人の運命を知っていた。
「そのことについては細かく知りたいところだがこれでも忙しい身でね。そろそろ立ち去らせてもらうよ。お嬢さん……またその時にでも運命について教えて欲しいね」
立ち去ろうと立ち上がり手を振る中レインは小さく呟くようにハッキリと告げた。
「言わなくてもきっとわかる。お兄ちゃんにとっても……ソラお兄ちゃんにとっても……私にとってもきっと無関係じゃないから」
ボウガンは最後には無表情に変えて去っていった。
「レイン……どういう意味だ?」
「御免なさい。詳しくは説明できない。だって……難しいから。理解できるってだけなの……」
理解できるだけで口で説明するのは難しい。
レインはそれがはっきりと分かってしまうだけで、それがどうやって解消するのかすらはっきりと分からない。
そういう事すらもレインはハッキリと理解してしまっている。
「……危ない真似だけは絶対にするんじゃない……いいな?」
「はい…」
そういうとギルフォードは室内を見て回り監視カメラや盗聴器の類いがない事だけは確認して改めて一息つく。
レインはベットの上に飛び乗り楽しそうにギルフォードのスマフォを取り出してダルサロッサと話し始め、ギルフォードはどうしても落ち着かない気持ちを抱いていた。
避けられない運命。
レインが見たという運命の正体がどうしても気になってしまうギルフォード。
そもそも運命とは何なのか……レインがその身に受けた力とその行く末が既に見えているのかとか……どうしても気になってしまうが、それを尋ねるという事がレインを責めるという事と同義だと分かっているからこそ聞けない。
責めたくない。
レインが運命を分かっていて、それをどうにかしてくれると祈ることしかできない。
それが……歯がゆい。
「俺の考えすぎなのかな?」
レインはさほど気にしている素振りを全く見せず、呑気そうにダルサロッサと会話を繰り広げており、ギルフォードはため息を吐き出しながら洗面所へと向かう。
「顔……洗ってスッキリするか」
そう思って洗面所にある鏡をのぞくと後ろに不死鳥がいるような気がして咄嗟に振り返ってしまう。
しかし、そこには何も居ない。
ただ錯覚だったのだと思う事にし顔に水を濡らして息を吐き出す。
水が徐々に洗面器に溜まっていき水溜まりが出来ていると、やはりギルフォードの後ろには不死鳥が眺めているのがどうしても見えてしまった。