アクア・レイン攻防戦 9
海洋同盟第三島となずけられた島の東側に位置するビルの1つ、表には『ベルメール商会』と書かれた看板。
黒く長い髪をオールバックにしており、細い目が特徴的な男性。
フォードという名の男こそ反政府組織の実質的なリーダーである。
大きな部屋にポツンと置かれた大きな社長室に置かれたような大きな机、黒く豪華な椅子に身を預けているフォードの部屋に凄まじい音と共に鏡から二人の人影が飛び出してくる。
「やれやれ真面目に仕事をしている最中に限ってメメとバウアーがやってくるものだね。おやおや………二人共重症じゃないか」
椅子から体を起こし、細身な体の上から黒いスーツを着たフォードが重傷のメメとバウアーへと近づいていく。
意識の無いバウアーではなく、意識が比較的ハッキリしているメメへと近づく。
「何があった?お前達はアクア・レインへの侵入作戦を行っていたんじゃないのか?」
「そ、それが……申し訳ありません。三将軍の一人アベルが介入してきまして、それと合わせて報告したいことが」
「何かな?こういう時の報告は大概いい報告じゃないからね」
「……ボウガンが敵に捕獲された可能性があります」
フォードは口元を右手で覆い、細めを少しだけ広げながら真剣な面持ちをしている。
「君達はけがの治療に集中しなさい。私はギルを回収する。今烈火の英雄を失うわけにはいかないからね。ジャン・バウワーからの連絡もあるからね。私が直接回収するしかないからね」
「しかし!貴方は組織のトップ顔が割れたら面倒では?」
「大丈夫だよ。割れたとしてもさほど問題は起きない」
そう言いながらフォードは室内から出ていった。
サクトは物陰から飛び出していき、レイピアの剣先を烈火の英雄に向けて走り出し、左胸目掛けて突き刺そうとするが、烈火の英雄はその攻撃を二本の剣で防ぐ。
つば競り合いのように剣とレイプアがぶつかり合い、不利だと感じて後ろに大きく跳躍する。
すると烈火の英雄は二本の剣に炎の力を込めていき、それを地面に擦り付けていく。
「サクト大将!下がってください!」
ケビンの大きな声がサクトの耳に入り、同時に後ろ目掛けて走り出す。
ガイノス兵の全てがそれぞれの柱に隠れようと必死になり、サクトが柱の陰に隠れるタイミングと、烈火の英雄の強烈な一撃が第一指令室前大広間一帯を燃やし尽くそうとする。
サクトは烈火の英雄の一撃を耐え抜き、もう一度走り出そうとするが同時にサクトの右足に痛みが走った。
「今の一撃で右足に火傷が……この足ではあいつに………」
ケビンは直ぐにサクトが右足を負傷したのだという事に気が付き、素早く思考を切り替えた。
(次は私の番ですね。この魔導機を使う日がくるとは思いませんでした)
ケビンが右手に握る真新しい魔導機を自らの腕に通す、素直に魔導機はケビンの細腕に装着され『ウィーン』という機械の音を鳴らす。
ケビンの全身に痛みの無い電流が走る様な感触、同時に全神経が思考を加速させる。
ケビンが物陰から出ていく姿を烈火の英雄が取られていたのかどうかを判断すれば、それはしていないというのが正しい。
早すぎて見せず、気が付けばハンドガンの弾丸が烈火の英雄の額めがけて飛んできていた。
しかし、そこは烈火の英雄弾丸などの攻撃手段に対する防衛手段もしっかりしており、烈火の英雄の体を真っ赤な炎が弾丸を溶解させる。
「早いな。新型の魔導機ってやつか。どれだけ早かろうが………」
ケビンは早さに最大値を最高まで高めながら、全神経に烈火の英雄を倒す事だけに集中させる。
しかし、烈火の英雄にはそんな早さすら必要としなかった。
全身に炎の力を溜め込み、ケビンが近づいて来たと思うタイミングで炎を三百六十度全身に吐き出す。
炎の波がケビンの全身を襲うとする瞬間、ケビンは全力で物陰に飛び逃げる。
しかし、あと一歩の所で左足を負傷してしまう。
「お前達の用に機械に頼らなければ『異能』の力の一片を使えこなせない奴らと一緒にするな」
ケビンもサクトも負傷した今、第一指令室の防衛能力は完全に低下しており、第一指令室の中から外相のキーキー声が聞えてくるのを烈火の英雄は不機嫌そうな表情を浮かべている。
「まあいい。お前達と遊んでいる時間など存在しない。次の一撃で終わりにする」
烈火の英雄は再び二本の剣に炎を溜め込んでいく姿をガイノス兵は絶望的な姿で見る事しかできない。
大きな炎の一撃が最後の防衛戦へと襲い掛かろうとしたその瞬間、大きな叫び声と共に真っ黒な竜巻が炎の一撃を飲み込む。
「ガイノス流終極其の一!黑き渦」
最後には大きな衝撃と共に攻撃を完全に無力化させることに成功する。
黒い渦のど真ん中に漆黒の鎧を装備したソラ・ウルベクトが立ちふさがる。
「またお前か………何回邪魔をすればいいんだ?」
「何度でも邪魔をするよ。お前が俺の大切な人達を傷つける限りな」
二本の剣を両手に更にもう二本の剣を空中に浮かべながら烈火の英雄に凄む。
サクトはどうやってこの階層にソラがやって来たのかがどうしても不思議だった。
何故ならソラが烈火の英雄たちがやって来たドアからやって来たのなら、サクトからでもそれは見えていたはずだし、第一指令室側からやって来たのならそれはそれも分かるはずだった。
しかし、その答えはソラの真後ろにある大きな穴が教えてくれた。
「あなた!基地の分厚い天井をぶち抜いてきたの!?」
「ええ、階段やエレベーターを一回一回探していたら時間の無駄ですから。それに、真下のフロアからでも分かるぐらい派手に暴れ回ってくれた奴が二人ほどいましたから」
ケビンと烈火の英雄の戦闘は予想もできない形で空へと繋がってしまった。
「お前は俺の大切な人達を傷つけようとするなら、俺はどんな手段を使ってでもお前の前にあらわれる」
「お前は何なんだ?お前はどうしてそこまでして誰かに手を差し伸ばそうとする?」
「俺はただの士官学生だ。だからこそ手を伸ばすんだ。手が届く人たちだけでも守りたい」
かつて守れなかった人達がいた。
ソラにはその三十九人は守れず、目の前で死んでいく彼らを見ていることしかできなかった。
でも、今でも彼らの想いはソラと共にある。
「三十九人の犠牲を覚えている限り、俺は手が届く日立だけでも守りたいんだ。お前と違って俺は『守りたい』ってこの意思だけは失いたくない。守れなかったからこそ俺はこの意思を失いたくない」
「守れなかったのなら……どうして俺と同じ気持ちを抱かない?」
「俺こそ守れなかったからこそだろ?」
二人は近距離で睨み合い、一定の距離感を保っている。
鋭い睨みをお互いに向け合い、武器をお互いに強く握りしめ、強く地面を蹴ると同時にお互いの剣が鈍い音を鳴らす。




