アクア・レイン攻防戦 8
ボウガンは腹に襲い掛かる痛みに苛立ちのボルテージを高まらせ、同時に周囲への苛立ちを向けようとさせる。
しかし、ここで無作為に苛立ちを向けるほど幼くは無い。
ボウガンは腰に装備していた警棒のような棒を取り出し、空中で一回振ると警棒の長さが倍近くまで伸びる。
レクターの警戒心が少しだけ高まり、ボウガンは魔導シューターの記録媒体を変更させる。
ボウガンは自分の近くの床に黄色い魔導構築式の模様を貼り付け、同時に警棒のスイッチを上に持ち上げる。
警棒が電撃を帯び始め、そのスタンロッドを模様目掛けて力一杯に叩きつけた。
黄色い模様から名一杯の電流が天井や柱へと渡っていき、その電流がボウガンの目の前で大きな球体の姿に変わった。
あっけにとられるレクター、そしてボウガンはその球体に今度は爆発の模様を張りつける。
「魔導構築式の連鎖式≪電磁爆撃砲≫」
ボウガンの目の前にある電気の塊のような大きな球体は電流を周囲に飛ばしながら破裂した。
レクターの視界に真っ白な電流で埋め尽くされ爆発したような衝撃、電流の痛みがほぼ同時に襲い掛かる。
破裂した球体の威力を特に気にもしないボウガン、怒りを表情一杯に現すだけだった。
「今ので死ぬわけ無いよぁ!? 出て来いよガキ!この体に受けた痛みを数倍にして返してやるからよ」
レクターは何とか体を大きくおこし、痛みで表情を引きつらせる。
電流による痛みと衝撃が体に与えたダメージは大きく、痛みで表情が歪んでしまっていた。
(魔導構築式とスタンロッドで電磁球体を作り出し、電磁球体を爆発の魔導構築式で破裂させる合わせ技。すごいなぁ……こんな合わせ技だなぁ)
レクターはボウガンの怒りとは正反対の関心していた。
レクターからすれば攻撃を受ける事も、自分には想像もできないことすらも全ては勉強の一環でしかない。
自分の知らない戦略や戦い方をすぐ様に頭の中に叩きいれ、それを対応しようと思考をフル稼働させる。
それがレクター・ガーバンドの最も恐ろしい所である。
自分が他人と大きく劣っていることなどレクターからすれば決して恐ろしい事ではない、頭が悪いことも自分ではよく分かっている事。
だからこそレクターは頭が悪い自分が出来る事は相手の戦略や戦い方を出来る限り対応することでしかできない。
その為には相手の攻撃をよく見、それにどうやって立ち向かうのかを考える事しかできない。
(ボウガンがダメージを受けた様子が無いって事は、あの攻撃は前方方向か左右までしか届かないって事だと思う。実際攻撃時も早さこそあったけど、それもちゃんと攻撃がくるって分かっていたら回避できないわけじゃない)
ボウガンはレクターに思考させる隙を生じさせない。
同じ攻撃を仕掛けようと床に模様を張りつけ、それをスタンロッドで叩きつけようとする瞬間にレクターは右側に走り去って行く。
ギリギリの所でレクターは回避することが出来、電撃の爆弾は先ほどまでレクターが居た場所を通り過ぎた。
(やっぱり。前方方向にしか行かない。あくまでも前に飛ばしているんだと考えればいいんだ。でも、速度があるから回避してから近づくのは難しい。でも遠距離攻撃は俺には無いし……、ううん。ある程度ダメージを受ける事を前提なら)
レクターは一度覚悟を決めてから行動するのは速かった。
ボウガンはもう一発全く同じ攻撃を仕掛けてくるのを確実に確認し、攻撃がレクター目掛けて飛んでくるのを確実に認識し、ギリギリまで回避するための行動に走る。
しかし、ダメージが最小で済むだけの距離で、レクターはあえて前に走った。
左半身に痛みが走るが、耐えられる痛みだと確信する。
とにかく走り、驚きの表情を浮かべるボウガンの右腰目掛けて鋭いフックを決め、ボウガンも負けじとレクターの頭部めがけてスタンロッドを叩き込もうとする。
右腕でスタンロッドの攻撃を受け、電流が右腕を刺激するが、ボウガンが受けたダメージの方が大きかった。
「クソがぁ!」
ボウガンはレクターを追い出そうと地面に魔導構築式を張りつけるのだが、レクターはスタンロッドを地面に叩きつける前に顎先にアッパーを決めた。
血がボウガンの口から飛び出、ボウガンは一瞬だけだが意識が途切れそうになるが負けじとレクターの胴体にスタンロッドを叩きつけた。
大きく距離が開き、ボウガンは先ほど張り付けた魔導構築式に攻撃を叩き込もうとする。
「死ねぇ!」
ゆっくりと起き上がるレクターの姿を確かに確認したボウガン、電磁球体に爆発の構築式を張りつける。
勝ちを確信したボウガン、レクター目掛けて爆発した電磁球体は大きな衝撃と共にレクターの姿を完全消した。
場に沈黙が訪れ、ボウガンは電磁球体が破裂していく姿を確かめる。
レクターが倒れ動かなくなる姿をボウガンは高笑いと共に見下し、少しずつ近づいていく。
「ガキが………俺を侮るからこういう事になる。安心しろ!お前の友人も全員殺してやるよ」
近づいていき、目の前に立ち魔導シューターの照準を倒れるレクターの地面に向ける。
後は引き金を引くだけという段階で、倒れているレクターの姿が揺れた。
「ガイノス流武術!剛拳【破】!」
左側から襲い掛かる巣覚ましい衝撃はボウガンの左腰を強く強打し、ボウガンの体をすさまじい速度で遠くの壁に叩きつけた。
レクターは膝から崩れおり、疲れ切った表情を浮かべながら倒れたボウガンをジッと見つめる。
ボウガンは何とか体を起こそうと両腕に力を籠める。
「こ………光学迷彩じゃなかったのか?」
「あれは光の屈曲を周囲の金属に与えるもので、光学迷彩じゃない。俺は自分の姿をあなたの視界から消していただけ。逆に言えば俺の姿を別の場所に転写することもできるから」
「そうか………」
「だって切り札は最後まで取っておくものでしょ?」
ボウガンは目の前で疲れ切ったレクターの顔をじっと見つめ、高笑いを浮かべながら倒れた。
俺は第二指令室へと入っていくのだが、どれを操作すればいいのかなんて全く分からない。
しかし、士官学校では最低限の扱い方を学んでいるので、分からないわけが無いはずのだが、本格的なのは本当に分からない。
キーボードを操作しながら色々と弄っていると、目の前にある画面に『防衛機能をシャットダウしますか?シャットダウンすれば再起動するのに時間が掛かってしまいます』と表示される。
こういう事を士官学生が勝手に決めていい事じゃない気がするが、ここで切らないと話にならない。
『シャットダウン後は周辺基地に情報が共有されます』
「それは都合が良いな。ならここでシャットダウンしてオーフェンス基地に応援を寄越させたほうがよさそうだ」
俺は要塞の防衛機能をシャットダウンさせた。