アクア・レイン攻防戦 7
階段めざして駆け出していく俺とレクターの目の前、アサルトライフルを装備する三人組の武装集団が現れた。
まだこちらには気が付いていない様で、俺とレクターで素早く処理するべく音を鳴らさないように、かつ素早く近づいていく。
「な!?お前達どうやって!?」
アサルトライフルを装備した武装集団の一人、手前にいる男が俺達の存在に気が付いたようでアサルトライフルの銃口を向けてくる。
俺は漆黒の鎧の右肩の剣を操りながら飛ばし、アサルトライフルの引き金を引く前に男の左胸に突き刺す。
レクターはその右隣にいる男へと右ストレートを決め、俺はレクターの体を土台にして後ろにいる通信機を片手に持っている男へと斬りつける。
男が落とした通信機がonになっている可能性を考え、レクターは素早く通信機を破壊する。
「バレたかな?バレていないかな?」
「バレてないと願って上へと進もう。慎重にかつ素早くな。取り敢えず第二指令室を抑えて防衛機能を停止させよう。まずはそれを目標に」
「了解!さすがは海外研修で班長をしているだけあって指揮能力が高い」
「みんながやる気を出せば俺が指揮をすることも無いんだけどな」
俺が班長をしているのは皆がやる気を出さないからである。
うちのメンバーは口を開けば「メンドクサイ」というメンバーが多く、ジュリに任せるには少々人が好過ぎるし、レクターに関しては指揮能力が低い。
「闇雲に走っていたらたどり着けないよ」
「それは問題ない。向こうでマップ端末を貰っている」
俺は腰のポケットからスマフォ型の端末機を取り出しレクターに見せる。
大きな画面にはGPS機能を搭載することで詳細な場所を記している詳細な地図が映されており、俺達がちょうどレベル1の中央に近づいていることが分かる。
「レベル3までは中央ロビーからエスカレーターで上へと昇れるけど、レベル4へ行くには特殊なドアを開ける必要性があるな。まあ、これについては多分問題ないだろう」
「なんで?特殊なドアなんでしょ?カードキーとか必要なんじゃない?」
「だったらあいつらはどうやってレベル4にある第二指令室まで移動したんだ?」
「あ………!そういう事か」
「カードキーなんて面倒な手段を選ぶとは思えない。彼らとしても防衛機能を自分達が有利になる様に使いたいだろ?なら早く上に上るなら破壊する方法があるし。まあ、それがあればだけどな」
「あると思う。ボウガンって男なら上に昇るのに時間が掛からないよ」
レクターには身に覚えがある事だ。
魔導構築式を使用した模様を爆弾に変える手法は大学攻防戦後に聞いている。
俺達が走り出し、なるべく人と接触しないように、且つ最短ルートを選んで進んで行くと、ものの数分で中央ロビーまで辿り着いた。
野球が出来るほど大きな吹き抜けのロビー、近代的なロビーは植木鉢に入った植物がチラホラと存在し、部隊が休憩するためのスペースや、受付などが存在しておりど真ん中には三階まで移動することが出来るエスカレーターが存在している。
「誰も無いなね?罠かな?」
「いや、ここの警備より上の警備に人員を割いているんだろ。侵入した人数だって決して多くは無いはずだ。第一指令室を落とすためのメンバーだって必要だし」
「なら第二指令室前に人が集まっているって事?」
「ああ、取り敢えず俺達で第二指令室を突破するぞ」
俺達はそろって第二指令室を目指す為、ロビーのエスカレーターへと向かって走り出す。
エスカレーターを駆け上っていき、あっという間に二階へと辿り着き三階へのエスカレーターを昇っていく際中、丁度ど真ん中へと辿り着いた所で俺達はある事に気が付いてしまった。
「レクター!走るぞ!」
俺達の足元にあるエスカレーターに俺には見慣れない模様が浮かんでいることに。
模様とくれば俺とレクターにはある一つの結論に至る事は容易な事であった。
爆発がエスカレーター全体を崩壊させていき、爆発に巻き込まれないように全力で走り去っていく。
最後の一歩を二人で跳躍することで距離を埋め、転がりながら臨戦態勢を取りながら背中合わせで周囲への警戒を最大値まで高める。
「ほう………やはり大したものだ。英雄の予想もここまでは勘が付かなかっただろうなぁ。しかし、あの爆弾の連鎖をこういう形で回避したのはお前達ぐらいだ」
柱の影からぬるりと姿を現すのはレクターの言っていたボウガンという男だ。
片腕に魔導シューターという小型の携帯式の弓を装備しており、それ以外にも腰に警棒のような道具を装備している。
「ボウガン………」
「よう坊主。今回はお友達も一緒に参加か?ここはお前達みたいな子供がやってくる場所じゃねぇぞ」
「ここはあんたみたいな他人がやってくる場所じゃないんじゃない?」
「これは一本取られたなぁ」
してやられたなんて表情と仕草を見せるのだが、これがまたわざとらしい。
「レクター。ここは任せていいか?こいつに時間を取られたくない」
レクターは黙って頷きそのままボウガンへと走り去って行く、俺は吹き抜きを右回りで移動しながら特殊なドアまで一直線に走っていく。
目の前には分厚いドアがど真ん中から粉々砕かれている風景だった。
俺は分厚い穴を潜りながら目的の場所までひたすら走っていく。
レクター目掛けて魔導シューターの照準を向け、余裕の表情を作るボウガンと真剣な面持ちで拳を構えるレクター。
先手を仕掛けたのはシューターの方である。
爆弾の魔導構築式をレクターの足元に仕掛け、レクターは魔導構築式から逃げるため右側に素早く回避する。
大きく移動した後、回り込むように体を移動させていく。
シューターは焦らず確実に進路先に魔導構築式を展開していくが、レクターはそれすらも回避して更に後方へと移動して行く。
周囲で連鎖的な爆発が連続で引き起こされ、立ち上がる砂煙と所々崩壊する足場。
その足場をうまく活用しながらレクターは煙の中へと隠れていく、同時に魔導機を発動させ自らの体を光学迷彩で隠す。
足音を完全に消し、足使いを上手く活用することで居場所を認識させない戦い方。
「………光学迷彩。これまた珍しい記録媒体を選んだな坊主。だが………近づく際は風が流れるはずだ。それはお前とて分かっているはずだぞ」
そんなことはレクターにも分かっている。
光学迷彩なんて姿を消す以外に用途など存在しない、姿は消せても足音や風の流れまでは変えられない。
暗殺や侵入の用途では活用される光学迷彩も、一対一のしかも既にみられている相手に聞くほど万能でもない。
だからこそである。
近づいてくる。
そういうに認識や警戒心が隙を生じるだろうという考え、レクターはこっそりとボウガンとの距離を取り、体勢を低く構え、クラウチングスタートの体勢を取りながら魔導機の能力をすばやく切り替え。
「ガイノス流武術初伝。貫硬…………【亜型】」
全身の力をバネに変え、まるで一本の銃弾のように真直ぐに右足をボウガンの腹目掛けて叩き込む。
口から大量の血を吐き出しながら吹っ飛んでいき、ボウガンが反対側の壁に激突した後大きな煙を上げながら倒れる。
レクターも着地に気を付ける。
「はぁ………はぁ………やった?」
レクターは全身の神経を研ぎ澄ませ、警戒心を決して下げないようにしている。
煙の中から人影が立ち上がり、少しづつ煙から姿を現すボウガン。
口から血を流し、目つきはどこか睨みと怒りを含んだ複雑な目をしており、明らかに異常な状態であると判断できた。
レクターの全身の毛が逆立つような感覚得、もう一度拳を構える。
「ぶっ殺す。ぶっ殺す。ぶっ殺す」
血を右手で拭い、ボウガンに付けた魔導構築式のレベルを最大値まで上昇させる。
レクターも拳を構えながら二人の戦いはさらに過激さを増そうとしていた。