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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《下》
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幸せな毎日 0

 アンヌが京都の地で激戦を繰り広げている間の『裏』のお話、裏の英雄譚。

 烈火の英雄であるギルフォードがボウガンとどう戦いそこにジェイドやカールがどうかかわってきたのかという真実を語る英雄譚なのだとハッキリと告げてから語らねばならないだろう。

 今日との戦いの裏で明かされた真実のお話、そこにギルフォードがどうやって辿り着きたった一人で挑んだのか。

 これは烈火の英雄の英雄譚。

 十二月二十二日の夕方から英雄譚は始まる。



 結局の所でギルフォードが何をして生計を立てていたのかというと近くにあった日本料理店でのアルバイトで、そこの店主に『斬る』という腕前を買われたのは事実だが、実際料理なんてしたことが無いギルフォードからすれば全く分からない事だらけの事で、右も左も分からないギルフォードに根気よく付き合ってこれたのが『親方』と呼ばれて親しまれていた中年の背の低い男性だった。

 少し口が悪い部分があるが、正直になりにくいというだけで心優しい男性で、どんな失敗をギルフォードが重ねても絶対に見限ったりはしなかった。

 妹と二人暮らしという事すらも考慮してくれる優しさ、研究都市での仕事を受けた際も快く送り出してくれた。


 日本という慣れない環境の中でそれでもギルフォードがそれなりに生計を立てて生きる事が出来たのは間違いなく親方のおかげだった。


 京都の地がクライシス事件で受けた傷痕は思いのほか大きく、周辺に作られた仮設住宅から人々は中々出る勇気がなかく、実際一部の人々は当時の光景を恐れて引き籠る始末。

 そんな中でも異世界人を決して差別したりせず、生活に困っていたギルフォードを受け入れてくれた親方。

 この辺りでも人の良さがよく分かる人が多く、特に仮設住宅の人達からすれば時折持ってきてくれる無償の食べ物は助かっている。


 ギルフォードはどうしてそんな事をしているのかと聞いたことがあった。


「人間苦しいときは助け合わないと死んじまうだろう? 苦しい時に奪い合うなんて醜い真似をすりゅあ人間として恥ずかしいのさ」


 その言い分に当時はよく分からなかったが、こうして数か月も付き合ってみればよく分かる部分もある。


 苦しい時こそ助け合う。

 奪い合うからこそ他の誰かと協力するように訴えることが大切なのだと。

 他人が奪い合っているからといって自分も奪い合っていいわけではない。


「そんな事よりおめぇ早く配っちまえよ。じゃねえと妹の帰りまでに終われねぇぞ」



 そう言って親方はそのまま食べ物を配りだしていく、自分も早めに配らねばという想いでお食べ物を配っていくのだが異世界人というだけで警戒する人間の方が多い。

 クライシス事件は表向きは当時の総理大臣の行いが原因で地方の子供が引き起こした事件とされているが、その背後に存在する異世界最大国家が関わっていると誰もが知っている事実。

 異能という未知の力に対する恐れ、それは同時に西暦世界中の人々に恐れを抱かせるには十分。

 その恐れが異世界人に対する偏見になっている。


 しかし、親方にように大半の人は偏見を抱かないでいたのは同時にこの事態に抗っていた人が沢山居たからだ。

 二つの世界の世界線を越えて少しでもマシな現状にしようと努力を重ねてきた人々、語られる英雄譚の中にはソラやガーランドの英雄譚も存在していた。


 特に皇光歴の世界で売られていた『アックス・ガーランド英雄譚』は日本でもかなり売り上げを誇っていた。

 実際ギルフォードが手渡した母親の連れ子である十歳の男の子は漫画のように描かれている英雄譚を読みふけっている。


 どれだけアックス・ガーランドが偉大な功績を重ねてきたのかがよく分かる書物で、当の本人がこの書物をどう思っているのかと尋ねてみたくなった。


 夕方の六時になってようやくの思いで食べ物を配り終え、息を一旦吐きだして座り込みそうになる中後ろから親方の力が籠った張り手に表情を歪ませるギルフォード。


「やりゃあ出来るじゃねぇか……さて俺は帰って明日の仕込みをする。お前はさっさと帰んな」


 そう言って食べ物の入っていたプラスチックの籠を持って仮設住宅の密集している場所から去っていく親方。

 その親方の背中に深々とお辞儀をしてから足早に去っていく親方に背を向けて妹がいる小学校近くの公民館へと走っていく。

 日中家に居るわけではないギルフォード、まだ家で大人しくさせるには幼過ぎると考え学校近くの公民館で夕方まで預かってもらっていた。


 公民館は別段新しくも無く、かと言って古臭いわけでもない。

 三十年前という微妙な建築年数に、体育館のような施設と併用しており施設の中には暇を潰す為の道具が充実してた。

 レインもここで友達と一緒に過ごしるはずだが、明日から冬休みという事もあり早くに引き取る人も多い。


「そう言えば冬休みの間レインをどうするかだな……流石に親方の店に置いておくわけには行かないだろうし」


 走っていきながらも今日中にでも考えておかないと呟きながら公民館前までの細道までたどり着いた。

 本来ならもうちょっと遠回りすれば大きな通りに出るが、そんな時間すら惜しいと直ぐにでも会いたいという気持ちが先走ってしまう。


 公民館の両開きのドアの片方をゆっくりと開けてレインの名を呼ぶと、寂しい公民館の中からレインが駆け寄ってくる音が聞こえる。

 その音を聞くだけで安心してしまうギルフォード。

 兄の名を叫ぶレインの元気のいい声、駆け寄ってくる真っ赤なギルフォードと同じ髪色の少女がランドセルを背負うその姿年齢以上に幼く見せる。

 そんなに幼くないはずだがそれでも小学一年生に見えてしまうほどに幼く見える。


「いい子にしていたか?」

「うん!」


 ギルフォードに思いっきり抱きつく妹を見て綻んでしまう。

 レインの後ろから四十台ほどの女性職員が笑顔で送り迎えに出てきてくれた。


「じゃあレインちゃん良いお年を」

「先生! 良いお年を」


 先生と呼ぶ女性の言葉をそのまま真似して手を振りながら兄であるギルフォードの左手を握りしめて歩き出す。

 途中で夕飯の買い物をしていかなければと思い歩き出すが、クリスマスも忙しいと思えば早めに上がる事が出来た今日ぐらい多少は贅沢をしようと決め近くのスーパーへと足を運んだ。


「何が食べたい?」

「お兄ちゃんが作った食べ物なら何でもいい!」


 基本的に好き嫌いをしないレインはどんな食べ物でも難なく食べるし、何があっても絶対に嫌な顔をしない。

 だが献立を考える側からすればこういう時ぐらい我儘に言ってくれた方が楽が出来る。

 しかし、こういう状況ではどれだけレインに尋ねてもレインは絶対に答えてくれないだろうという事は分かり切っている。

 なら結局は今まで通り自分で考えるしかない。


 野菜、魚、肉と回っていき最初はステーキでも豪快に焼いて食べさせようと思ったが、下手に高級っぽい食べ物を出すとかえってレインにいらない気遣いをさせてしまうと止めた。

 だったら二人で突いて食べられる鍋にするかと考え、この前ようやくの思いで教わった鍋料理を家で再現しようともう一度野菜コーナーへと戻っていく。


「お鍋食べるの?」

「ああ。最近寒いしな。親方にようやくの思いで認めてもらった料理を再現したいしな」


 その鍋料理で一通りの料理をマスターしたことになるが、親方からはもっと精進しろと言われていたことを思い出して苦笑いを浮かべる。

 料理を出来るようになったというだけでまだまだ親方の域には達していない。


「それでいいか?」


 そう尋ねるとレインは元気のいい声で返事をしてくれた。


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