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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《上》
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運命の交差点ーアンヌー 16

 レインに近づいて行くアンヌに追いつくようにヒーリングベルが飛んでくる。

 ヒーリングベルが体の調子を見ているとアンヌはその間にレインを癒そうとするがまるで効果が見られない。

 今この瞬間も息苦しそうにしているレイン、ヒーリングベルが体内に異物が入りこんでいるのを目の当たりにした。

 この異物の正体を探って記憶を除いていたヒーリングベルはたった一つだけ思い至る。

 かつて聖竜から教わったことのある道具『死領の楔』だと判断したが、そもそも死の領域に存在するはずの道具がどうして現世にあるのかと不思議に思った。

 そこまで考えてかつてソラから教えてもらった魔王の正体の1つ、死竜の事を思い出した。

 死竜が魔王となってなお成し遂げたい事、闇竜と結託しても成し遂げたい事こそがこの『死領の楔』を取り戻す事だったのだ。


「この死領の楔をどうやって手に入れたのですか?」


 ヒーリングベルは屋上でアンヌの方を見降ろしているボウガンに疑問をぶつけ、ボウガンは顎下に手を当てながらふと記憶を探っていく。

 実際の所でボウガンが彼らの仲間に入る前後で起きている出来事なのでボウガンもうろ覚えでしかない。


「確か二千年前に始祖の吸血鬼の婆が死の領域から奪ったのをボスが奪い取ったはずだ。ほとんどボスが一人でやっていた事だから正確な記憶が定かではないが」

「では二千年もの間魂の循環が上手くいっていないと!? そのような状況では魂がの生まれ変わりが…」

「ああ。ボス曰く滞っているらしいが……」


 その言葉に戦慄を覚えつつヒーリングベルは死領の楔を取り出す方法を必死に探り出すが、死領の楔はレインの命と結びついていて外せそうになかった。


「駄目……強引に外せば間違いなくレインの命が奪われます」

「そ……そんな…」


 強引に取り出せばレインの命に関わると聞けば強引に取り出す事は出来なかった。

 改めてボウガンに向き合うアンヌ強い瞳は怒りに満ち溢れていた。


「これを外してください」

「嫌だ。そんな事をすれば俺がボスから怒られるだろ。そのお嬢さんは我々の計画にとって重要な要だからな。その代わりと言ってはなんだが……二人の竜を元に戻したければアメリカに行けばいい。そこにいるソラ・ウルベクトに合わせれば元に戻るだろう」

「そんな言葉を信用すると?」

「信用したく無ければそれでもいいさ。他に案があるというのならな」


 そう言われてしまうと他に案なんて存在するわけがなく、結果からすればボウガンを信用するか無策で進むかという選択肢しか存在しない。


「ではな………どのみち大阪方面には急いで移動した方が良いな。下手をすればその子をギルフォードに引き渡せなくなるぞ…」

「何故? あなたは何知っているのですか?」

「別に……ギルフォードの行動を考えればそう時間を経過せずにアメリカに向かうだろうしな。都合の良い事に関西国際空港にはガイノス帝国製の飛空艇が沢山あることだし…」


 急いで移動した方が良いと判断しレインをお姫様抱っこして立ち上がるアンヌはボウガンを無視して走り出す。

 ボウガンもその姿を見てすぐに姿を消した。



 ライブ会場から外へと出るとドリフトするように一台の大きな車がアンヌの目の前で停まり、中からはバウアーが顔を出してアンヌの方を見るがその視線は抱っこしているレインの方に変わっていく。


「レインがどうしてこの場所にいるんだ!? ギルフォードと一緒に大阪に行っているはずだ」

「それがどうやらボウガンと一緒に京都に戻ってきたようで、それに異物の所為で苦しんでいるんです。すぐにでもギルフォードさんと接触したいんです」

「分かった。すぐに車を飛ばすから乗ってくれ」


 誘いに応じた状態でアンヌとヒーリングベルは車に乗り込むと、遺体袋が入っている状態の美咲の遺体、アンヌの目の前には体力の回復に努めているシャドウバイヤがいた。

 シャドウバイヤは疲れ切っているように見えるだけで命に別状はなかった。

 心からの安堵の息を漏らすアンヌ。

 アンヌが車のドアを閉めると同時にアクセルを全開に踏み込むバウアー、その進路は大阪。


「でも、なんでレインが…」

「分かりませんが……彼の言い方ですとどうやら始めっからレインちゃんは狙われていたようですね」

「……ギルフォードの奴。知っていたからこそレインを側に置いておこうと思ったわけだ。昔っからそうだが重要な案件があると黙っているのはあいつの駄目な所だな」

「シャドウバイヤの様子はどうですか?」

「ああ……命に別状はないだろうな。少し前に意識は取り戻していたぞ。最も疲れたといって寝ているが…」


 傷を包帯で塞いでいる状態だが、こんなもの本来であればアンヌの力で癒したい所だが、残念ながら現状況では癒す事は出来ない。

 契約をしているだけでソラの拒絶する能力を完全に使いこなしているわけではないが、意識が無い状態では異能を拒絶してしまうようで中々回復が出来ない。

 揺れる車の中でシャドウバイヤの苦しみを少しでも癒そうと力を使っているとヒーリングベルがその手を止めさせた。


「止めておきなさい。意味のない事です。シャドウバイヤとてそんな事で体力を消耗することをよしとしないでしょう」

「でも……そうですね。黙って座っていると落ち着かなくて…」

「……その気持ちはわかりますよ。でも、皆同じ気持ちでしょう」


 そう言ってアンヌの隣で座っているヒーリングベルにどうしても聞きたいことがあった。


「あのジェイド………あの人とはどういう関係なのですか?」


 それを聞かれるだろうことは分かりきっていた事で、その覚悟はとっくに出来ていた。

 後ろに荷物のように置かれているダルサロッサとレクトアイムの鉄の板、衰弱して眠っているシャドウバイヤを見て覚悟を持って語りだす。


「ジェイドは初代『竜達の旅団』の副団長だった男です。最も団長と袂を分かってから行方は知りませんでしたが……ちなみにソラ達の使う『撃』の初代継承者でもあります」


 ソラ・ウルベクトにとっては色んな意味で『先代』であり、超えるべき壁であった。


「ジェイドの使う『無撃』があの頃から変わっていなければ全部で五つの攻撃の型があったはずです」

「でも……不死者なんですよね? 不死さえあれば鍛えようとはしないと思いますが…」

「いいえ。それだけは無いでしょう。ジェイドは色んな意味ですごい男ですよ。不死となってなお鍛えることを止めたことは無いでしょう。強くなる為には努力するしかないといい続けてきた男です。彼が言っていた言葉を今でも忘れていません」


『強くなる為には結局の所でどれだけ神に愛されようと、どれだけ才能に満ち溢れようと死ぬほど努力を続けていくしかない。全く同じ条件の人間に出会う事だってあり得るのだから。その際に勝負の差があるのなら結局で『努力』と『経験』でしかない』


「それがジェイドの言い分でした。何故彼が『不死』となってしまったのかは推測でしか語れませんが、元々不死がいなくならない現状に憂いを感じていましたし……その辺が理由なのでしょうね」


 最後に「人を愛した男でしたし…」と付け加えた。


 人を愛して、命を愛して、不死を憎み、友と共に歩き、愛する人と共に生きてきた男が何故不死皇帝になってしまったのか。

 その全ては闇の中にしか存在しない。


「ですが切っ掛けがあるとすれば『彼女』を失ったことが切っ掛けなのでしょうね……団長ともその後争っていましたし。しかし、あのジェイドの事です自分の異能も弄っているでしょうね。下手に攻撃をしないほうが良いでしょう」


 車は静かに大阪へと入ろうとしていた。


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