表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《上》
355/1088

運命の交差点ーアンヌー 10

 アンヌは突然襲い掛かってきた衝撃に驚きながら地面を転がり、受け身を取ろうと試みたが初めてで成功するわけがなくそのまま壁に激突してしまう。

 一体誰が襲い掛かったのか、何が起きたのかまるで理解できず美咲のアンヌを呼ぶ声と銃撃音が耳に届き、ゆっくりを体を起こすとその声に男の罵倒が混じった。

 その罵倒が何を意味するのか耳を澄ましていたらよく分かる。


「一体いつまでかかるんだ!? お前の行動がキーだと最初に説明を受けたはずだ。お前の行動1つで全体に遅れが出るんだぞ!」

「分かっている=理解済み! 対象が抵抗を続ける=想定外」

「良い訳は聞きたくない。俺がこの女を抑えている間にお前は目的を達成しろ」


 目の前に現れたボウガンに改めて視線を向け、ダメージを引きずりながらもゆっくりと美咲へと近づいて行くカールに三日月の杖から元に戻った影竜が襲い掛かっていく。

 金の針を使って黄金化を図ろうとするが、シャドウバイヤはソラとの繋がりを利用し今度は無力化して見せた。

 それにボウガン乱入に気が付いたバウアーが拳銃を片手にカールへと襲い掛かっていき、シャドウバイヤは影を使ってカールに襲い掛かり、バウアーは拳銃の弾丸をカールに向けるがカールはそれを片手に無力化してシャドウバイヤの攻撃を回避する。

 武器を失ったアンヌだが今ここで引くわけには行かない、ボウガンへと襲い掛かっていく過程で熱線をボウガンに向けるが、自分の影を使って攻撃を防ぐボウガン。

 アンヌにあっという間に近づいて行き、右腕を掴んで強めに殴りつけアンヌは今度は何とか受け身を取るが、頭から流れる血と感じる痛みに一瞬ボウガンから目をそらしてしまう。


「あなたの役目はどうしたの=ボウガン」

「ボスが代わりにやってくれているよ。ニューヨークの方は順調らしいからな」


 カールとボウガンが話している内容に驚き拳銃でカールに威嚇をしながら脅すように尋ねる。


「お前達の本当の目的はなんだ!? これだけの事態を引き起こして!」


 カールは一瞬だけバウアーの方を見るが、それは本当に一瞬の事で瞬間に興味を無くし改めて美咲の方を見つめ直す。


「君は物陰に隠れるんだ!」


 バウアーからの指摘に急いで建物の中へと入っていく美咲、歩いて後を追うカールにシャドウバイヤは尻尾を使った刺殺攻撃をお見舞いするが、カールはそれを自らの体を光に変えて無力化しつつそのままシャドウバイヤの尻尾を掴んで思いっ切り投げ飛ばす。

 シャドウバイヤが悲鳴を上げ、バウアーはそっちの方へと意識が一瞬だけ逸れてしまった隙にカールはバウアーの足元に強烈な一撃を叩き込んだ。


「皆さん!」


 アンヌはカールへと攻撃をお見舞いしようとするが、ボウガンはアンヌの熱球攻撃を右手で受け止めつつ思いっ切り蹴り飛ばす。

 あくまでもアンヌを殺すつもりのないボウガンの一撃は重たくはあっても重症にはならないレベルでしかない。

 バウアーは倒れて頭から血を流しながら拳銃の引き金を出来る限り引き、シャドウバイヤも体中に傷を受けながらも影の一撃を叩き込んで再び接近していく。

 まだ避難している人が居る中元の大きさに戻るわけにもいかないシャドウバイヤ、彼も又手加減しなくてはいけない現状に苦しい状況になっていた。


 両手で黒い物体を集めたよう一撃をカール目掛けて叩き込もうとするが、カールはそれをヒーリングベルの板を活用して跳ね返し、シャドウバイヤが逆に吹っ飛ばされてしまう。

 着実に、じっくりと逃げ道を塞ぐ為建物の外から爆撃のような攻撃を何度も飛ばしながら美咲を炙り出す。


 アンヌの焦りも次第に行動へと反映していき、何度目かになる突撃を片手で受け止めつつアンヌを拘束するボウガン。


「もういいだろう。今の君達では勝てない。それが分かっただろ? 諦めろ……運が無かったとな。一人の命で全てが解決できる。それで十分だろう」

「嫌です! 美咲は私の友人です! 友人を見殺しにするなんて私には出来ない! 幸せを諦める何て………絶対に!」

「………いい覚悟だ。だが…………届かないな」


 思いっきり蹴り飛ばしアンヌの体は車の側面に激突し、体中が痛いし何より何もできずにいる現状が苦しい。

 でも、守ると決めた以上は守る。

 そう決めて立ち上がろうとしたとき、美咲も又苦しみの中にあった。


 怖いと屈んでいたが、アンヌの声はちゃんと美咲にも届いていた。

 そしてアンヌの想いは美咲の想いでもある。

 友達が自分の為に傷つき、倒れようとしている。


 沢山の人が傷つき、沢山の人が死んでいき、友人が心を痛めながら戦っている。

 小さく呻くような声を呟く美咲。


「白虎……ここにいる?」

『ああ。行くのか?』

「うん。それ以外に誰も助けられないから。私が死ねば相手に隙が出来るから。アンヌを信じているから」


 涙を流しながらアンヌがくれた熊のストラップを握りしめ、一人の少女は覚悟を決めてしまった。

 死ぬ覚悟を。


「だから。私が死んであの人が術式を解除したら京都の地にじゃなくてアンヌの所に真っ直ぐ行ってね」

『………約束しよう。君の想いに約束する。君達一族と共に過ごせたことは私の悠久の日々の中でのひと時の安らぎだった』


 白虎にとって悠久に想えた日々の中、それでも美咲の一族に関わることが出来たこと、交流を持つことが出来たことは不幸ではなかった。

 知性ある生き物は考えるからこそ誰かを想う事が出来、誰かを想うからこそ幸せを願うのだと知っている。


「……だったらいいな』

『死ぬ瞬間までは見守っているよ。君の祖母のように………最後まで一緒にいよう』


 死ぬことが怖くないなんてことがあるわけがない。

 でも、生まれて初めてそれ以上の怖さを知った。

 初めて自分を心から想ってくれる親友と出会えたこと、一緒に買い物したり、友人としての当たり前の会話一つ一つが何よりも大切な思い出だった。

 それがある限りどんな勇気だって抱くことが出来たし、何より大切な友人が生きていてくれるならきっとどんな死地にだって思向ける。

 そう思える相手に出会えたことが幸せな事なのだと思えた。


 短い人生の中で出会えた最高の友人で………最後の友人。


 美咲は覚悟を決めて建物から出てきた。


 皆が血を流し倒れている。


 バウアーは全身から血を流しながら重傷を負い気絶しており、シャドウバイヤも建物に埋まるように気を失っている。

 アンヌが大きな声で「駄目! 隠れて!」と叫んでいるのが聞えてくるが、美咲は微笑んで返した。


(大丈夫だよ。全部終わらせるから。だから……)


「一つだけ約束して欲しいの。私を殺してもいい。その代りもう……止めて欲しい」


 カールの前に立ち塞がった美咲に驚くことも無いが、だからと言ってそんな約束を守るつもりも無いカール。

 しかし、その返事は予想外の相手が下した。


「良いだろう。京都の地をこれ以上襲わない。アメリカ軍はこちらで駆除しよう。約束する」

「駄目! 騙されないで! 隠れて!」


 悲痛な叫びを耳にして美咲はあくまでも笑顔を絶やさなかった。


「大丈夫だよ。私が終わらせるからね……」


(大好きだよアンヌ)


 カールは右人差し指を真っ直ぐ迷うことなく美咲へと向け、アンヌは最後まで抵抗しようと入りだすがそれをボウガンが上から乗っかる事で妨害する。


(アンヌと出会えて一分一秒が本当に愛おしかった。友情は時間じゃないんだって……私には理解できた。アンヌは苦しむよね? 私が同じ立場ならきっと苦しむから。でも、私の想いはアンヌと一緒なんだよ)


 痛みが心臓を貫き、それが攻撃なのだと認識する前に………何より意識が消えていく前に抱いた思いは悲しみでもなく苦しみでもなく……友人への感謝だった。


(出会えてよかった。こんなにも誰かを想う日が来るなんて………アンヌ…………大好きだよ)


 花はいつか散るもの………忍狩 美咲は十二月二十四日の十五時にその命を散らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ