アクア・レイン攻防戦 5
俺達が車から見える嵐のど真ん中、海上にそびえたつ六角形の建物こそ海上要塞アクア・レインだ。
海上に作られた要塞としては最大規模であり、要塞の中で唯一無敗を誇るこの要塞は現在『海洋同盟反政府組織』による襲撃を受けていた。
実際、この嵐の中でもアクア・レインのあちらこちらから火の手が上がっているように見え、もう一つ陸地にあるアクア・レインへと繋がる唯一の道が存在する『オーフェンス基地』が近づいて来た。
「見えてきた!あれ?結構人が多いような気がする?」
「確かに………明かりがあちらこちらから点いているような気がする。父さんどういう事?」
「オーフェンス基地は嵐などの自然災害が起きる際に市民の避難施設にもなっている。だから余計にアクア・レインは人員がオーフェンス基地が割かれているはずだ」
だとすれば余計にアクア・レインは危険な立場にあるという事でもある。
いち早く辿り着く必要があるだろう。
走らせる車が目的のオーフェンス基地に辿り着くと同時に父さんは荒っぽい運転の仕方で車を強引に倉庫のような場所に駐車させる。
俺とレクターは駐車時に体中を再びぶつけた。
もう父さんに運転させない、そう誓った三十分でした。
「アベル大将!ご苦労様です!」
「アクア・レインの状況は?」
「それが第二指令室防衛戦に戦力を割いているらしく、今はまだそこで押さえている状況とのことです。しかしこのまま戦いが長引けば………」
「第二指令室が陥落したら外部からの救援はほとんど不可能という事になる。その前に飛空艇で出来るだけ戦力をアクア・レインに遅れ」
父さんに話しかけていた男性士官が敬礼のポーズを取り立ち去ろうとしていた時、さらに後方から別の士官が走って駆け寄ってきた。
「報告!先ほど第二指令室が陥落したとのことです」
「…………最悪だな。もう一刻の猶予も無いか……。ウルズナイトの一機用意させろ。俺とソラとレクターだけでも乗り込む」
「しかし!どうや……て?まさか!?」
「水中トンネルを通って進む。第二指令室が陥落したのなら今だと水中トンネルでも戦車や車でも危ない。列車だと長すぎてターゲットになってしまう。だが人型機動兵器であるウルズナイトなら小回りが利き水中トンネルでも突破できる可能性が高い」
「あれは危険です!下手をすれば全滅の可能性が高くなります」
「だから我々だけで行く。お前達は本部へと連絡を入れ、命令通りに動け。最悪アクア・レインが陥落する事態も想定して動く事」
男性士官二人は敬礼して立ち去っていき、父さんは倉庫の奥に膝を付いた状態で鎮座している灰色の人型兵器へと近づいていく。
ウルズナイト。
帝国軍が帝都クーデター事件の際に開発した最新鋭の機動兵器。
人型をしており、様々武装と魔導機を搭載することで完成されたこの兵器の最大の用とは戦車では出せない速度と機動力。
クーデター事件では主戦派と保守派が極秘裏に開発していたが、主戦派と保守派が逮捕されると中立派が設計図を確保した。
その後ウルズ・ナイトは保守派と中立派が率先して開発を急いでいたほどだ。
そのウルズナイトだが、俺達士官学生はまだ授業項目に選ばれていないだけあり基本的に見たぐらいの知識しかない。
最も俺は実際に交戦したことがあるので何とも言えないが………。
「お前達。ウルズナイトの両腕に乗れ。私が操縦するからお前達は両腕から落とされないようにするんだ」
ソラ達がオーフェンス基地に到着する数分前の事、アクア・レイン要塞第二指令室前の大広間ではガイノス帝国軍アクア・レイン駐留軍と海洋同盟反政府組織の主力メンバーがぶつかり合っていた。
ボウガンはシューターを使って魔導構成式を周囲に打ち込み、爆発させようとするのだが、そこは流石にガイノス帝国軍、一度技を見るだけで対抗術式を考え出し、素早く実行に移す。
魔導構成術式の上から解除術式をすばやく打ち込んでいく。
「ちっ!やっぱり簡単に対抗してくるな……足止めぐらいに叱らないぜ」
「それだけでいい。俺もそろそろ力が溜まってきたところだ」
烈火の英雄の全身にみなぎる力、内側から溢れ出る力を二本の剣に集中させる。
炎の力が剣に集めていき、十分な力だと判断した所で駆け出していく。
烈火の英雄へと銃撃を浴びせるのだが、烈火の英雄は炎の力で銃弾を全て溶解させながら突っ込んでいき二本の剣から重厚な一撃がガイノス軍を襲い掛かろうとする。
「またあの一撃だ!逃げろ!」
「もう遅い!烽火の斬撃!」
炎で作られた一撃はガイノス帝国軍に直撃してしまう。
倒れうなされながら起き上がろうと必死になる者や、中にはまだ戦おうと必死になる者までが現れた。
「今のうちに第二指令室を抑えるぞ!ボウガン後方から追手は?」
「まだない。だが急いだほうがいいかもしれない。今がチャンスだこのまま第一指令室まで一気に行った方が良いだろう」
「ならここの防衛は任せるぞ。俺はこのまま第一指令室を落とす」
「英雄!水中トンネルに大規模な振動を確認!」
「………防衛機能で水中トンネルを狙え。最悪水中トンネルを陥没させても構わない」
烈火の英雄は二本の剣を逆さ持ちにしたまま第一指令室へ向かう為、とにかく走り出す。
目的の人物は第一指令室にいると確信して。
ウルズナイトの右腕に俺が、左腕にレクターに乗り俺は腰に付けた命綱をウルズナイトにしっかりつける。
レクターが自らの腰辺りに付けるのだが、俺にはもう一方の命綱を付けていない様な気がしたが、レクターの「もう大丈夫です!」という声を聴いた父さんがウルズナイトをコックピットから動かし始める。
「振り落とされないようにな!行くぞ!」
ウルズナイトの足元から車輪が姿を現し、まるで滑るようにウルズナイトが水中トンネルへと入っていく。
大きな振動が俺達の全身に伝わるのだが、どうしても気になっていたことを俺はこの際尋ねる事にした。
「レクターお前……その命綱の先、キチンとウルズナイトに付けているよな?」
「へ?整備士さんがやってくれるんじゃないの?」
などと言って命綱の先を確認するのだが、残念なことに命綱の先はどこにもついていない。
これは命綱では無くただの紐だろう。
「あれ!?整備士がつけてくれるんじゃなかったの!?」
「そんな事一言も言っていなかったぞ。基本的に自分達でつけろって言われろ?ていうかその話すら聞いていなかったのか」
レクターが片手で何とか紐を付けようとするのだが、付けられるはずが無くずっと失敗してばかりいると、水中トンネル全体が大きく揺れ始める。
同時に大きな衝撃音が鳴り響く。
「父さん!これって!?」
「ああ、どうやら砲撃で水中トンネルを壊すつもりのようだな。この砲撃レベルなら崩壊は時間の問題だ。少し速度を上げるぞ!しっかりつかまれ!」
「俺まだ命綱を付けてない!」
俺はレクターの方を見ながら「もう諦めろ」と告げてみる、水中トンネルの天井に大きなヒビが入り始める。
「やばいって!ヒビから海水が侵食してる!」
「父さん速度アップして!砲撃の方が速い!」
「もう限界だ。それより上からの瓦礫を何としても阻止しろ。瓦礫が当たって速度が落ちたら終わりだぞ」
俺は緑星剣を召喚し上から落ちてこようとしている天井の欠片を弾く為、俺は命綱がゆる限り移動して瓦礫を撃ち落とす。
もう一度掌に落ち着くが、そんな事をしていると真正面から人影のような物が近づいてくる。
「あれってウルズナイト?ガイノス軍の応援じゃない?俺達を迎えに来たとか?」
「いや………父さん!回避!」
父さんはウルズナイトの速度を決して落とさず、体勢のみを低くしながらウルズナイトの剣による一撃を回避する。
「へぇ………やるじゃないか!」
「この声!あの時襲撃してきた男か!」
「よお!英雄!あの時の借りをまとめて返してやるよ!!」
「貸して無い者を返されても困る!アンタ一人で勝手に死んでろ!」
なんて言い争いをしていると今度は天井を走るバイクを見付けてしまった、何とか命綱を付けたレクターが堕ちてくるバイクを蹴りで弾く。
黒バイクに跨っているのは黒いライダースーツを着ているメメと呼ばれていた女性だった。
「私の分も返しましょうか?」
「野蛮男と忍者女の参戦か………レクター!切り抜けるぞ!」
「おう!」
崩壊しつつある水中トンネル内で死闘が幕を開けようとしていた。