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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《上》
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試練を超えていけ 8

 二つの世界で起きた不死にまつわる大戦、当時の名は『不死大戦』と名付けられ、その規模の大きさは二つの世界の歴史に大きな傷跡を残し、今もなおその傷跡に人々は惑わされている。

 美咲が知ったその一片、その闘いの記憶へとさらに誘われていくが、美咲からすればどうしてこんなものを見せるのかが分からなかったが、白虎はその疑問にまだ答えくれない。

 今度は皇光歴世界で起きた『不死大戦』と名付けられた戦い、それは当時としては熾烈を極め、当時の国々を巻き込んで広がっていきそれは異世界を挟んで広がっていった。

 皇光歴の世界で広がった不死の存在、それはエミルの水を飲んだ者達であり、その者達を人々は『エミル人』と呼び避けてきた。

 そのエミル人達が引き起こした戦争、世界の支配権を掛けて行われた戦争は木竜の怒りを買い、結果竜達の旅団の手によって終結した。

 その大戦跡地こそがガイノス帝国の首都であり、ガイノス帝国の首都の周りに広がる遺跡群はその名残である。

 同じ時西暦世界で起きていた不死との戦争は複数の文明が崩壊するほどの衝撃を与え、当時ローマ帝国が仮にも追い込まれそうになるほどだったが、その時現れた人こそが後の『不死皇帝』であった。

 不死皇帝と吸血鬼との戦いは熾烈を極め、五百年も続く戦争の果て複数の国々が倒れたが、結果吸血鬼はその存在を消滅させていく。

 次第に各地で起きていた戦乱もこの時期に成ると落ち着いて行った。


「私の知る世界にそんな行く末があったなんて…」


 しかし、ここでその二つの世界で起きた不死大戦の影響は四つのエネルギー生命体が想像されて引き寄せられる結果に陥った。

 それは異能の少ない西暦世界へと引き寄せられていき、結果世界中で多発する異常現象の中心にそれはいる。


 白虎は急激な低温の原因となり、朱雀は大きな嵐を生み出し、玄武は地震を多発させ、青龍はその力をもって人々に争いを引き起こさせた。


「じゃああなたは世界の温度を低下させたの? でもどうして?」


 それ自体は白虎達がしたかったことではない。

 彼らは其処にあるだけで心も感情もあるわけではなかったが、長年封印され続けその一族と共にあった四神にも心と感情が生まれた。

 そして四神は今その力を利用しようとしている存在を許していない。


「それが不死の軍団なのですか? でも、どうしてそれで…」


 それは簡単な理由だった。

 四神を封印している封印体こそが美咲達の一族であり、美咲がしかるべき手順を持って死ねば自分達の封印は解けて再び野に放たれる。

 そうすれば世界に何が起きるのかは誰にも理解できないとはっきり告げる。


「………じゃああのカールって人が狙っているのは」


 美咲が落ち込みながら命を狙われていく現実に震えてしまう。

 同時に嫌だったのが、自分の所為で誰かが傷ついて行き、その結果何が引き起こされるのかそれが分からないという事だった。


「私嫌だ……死にたくないよ…」


 でも、同時に美咲はアンヌが傷つくのも怖くて仕方がなかった。

 ようやくできた友達が自分の所為で傷つき、倒れていくと思うとそっちの方が嫌だと気が付いてしまった。

 死にたくないという想いとアンヌに傷ついてほしくないという想いがせめぎ合い身動きが取れずにいる。

 夢の中だというのにそれだけで死にそうなほどの圧迫感を得てしまう。


 白虎はアンヌへと近づいてきやさしそうに頬を近づけて撫で、美咲はエネルギー生命体なのに感じる温かさ、それは一族を通じて人を見てきた白虎なりの心の温かさなのだろうとはっきりわかった。


「白虎……お願いがあるの………もし、私の身に何かがあったら………その時はアンヌに力を貸してあげて」


 白虎は少し黙っていると頷いて返した。

 それを聞くと安心してしまった美咲はそのまま目を開いて行く。



 意識が覚醒するとそこはホテルの一角で、先ほどまで見ていた夢はハッキリと覚えており、この街の水面下で起きている戦いにようやく美咲は足を踏み出した。

 白虎が告げた四神を手に入れたいと思う者達の戦い。

 

 アンヌはどこにいるのだろうと思っているとシャワー室から水の音が聞こえてきて、そこにアンヌが居るのだとわかりそれを確かめる為にそっとシャワー室へと入っていく。

 入った男が聞えてきたのだろうアンヌがドア越しに「美咲?」と声を発した。


「良かった。アンヌは其処にいるんだね」

「待っていてくださいね! 直ぐに出ますから」


 そういって急いで体を洗い始めたアンヌに美咲は「急がなくていいよ」といいながらドアをそっと閉めてベットに戻っていく。

 正直覚悟を決めたわけでもないし、本当の所を言えば胸を締め付けられそうなほど苦しい思いを抱いているが、それでも美咲は前に進まねばという想いを抱いてそこにいる。

 誰にも迷惑をかけたくない。

 誰かが死にそうになったら、その時は自分が命を懸けてでも守るしかない。


 そう思っているとシャワー室から月の杖を握って現れたアンヌが長い金髪を後ろでお団子にしながた現れ、美咲の体を触れて確かめていく。


「大丈夫ですか? 痛い所は!? 苦しい所はありませんか?」

「だ、大丈夫だよ。それよりアンヌの方は? 私はむしろ元気一杯!」


 といって無理を承知で元気を偽る為に急いで立ち上がるが、それを見ていたアンヌは後ろから声を掛けた。


「………何を苦しそうにしているのです?」


 自分の状態を見ただけで見抜き、それを訪ねてきたアンヌを驚き固まってしまう美咲は震えそうになる思いを我慢していた。

 同時にずっと気になっていたことを訪ねてみた。


 どうしてレクトアイムが居ないのか、前にいたときはそんな杖を持っていなかったことを尋ねるとアンヌは先ほど起きた戦いとその結果をちゃんと話した。

 ここで話さないという事は美咲に対する信頼を揺るがしかねないと思ったからだ。


「そっか……私の所為なんだね」

「違います! カールがいけないのです! 何より私の覚悟が足りなかったから…」

「違わないよ。私の所為で奈美さんもレクトアイムさん達も皆犠牲になっていき……」

「どうしたの? 何があったの?」


 優しく語り掛けてくるアンヌに耐え切れない思いを体の震えで表現し、小さく「私…」と何度も呟いて涙を流しながら振り向きざまに思いっきり抱きつく。

 アンヌからすれば何が起きたのかがまるで理解が出来なかったが、ようやく美咲が無理をしていたのだと分かり優しく撫でる。


「………あのね。私は…」


 美咲が語る物語。

 それは二千年以上に渡るある戦いの影響、そして今の戦いへと繋がる物語を知ったアンヌ、それを聞いてどう答えたらいいのかアンヌには分からなかった。

 しかし、それを聞いていたヒーリングベルは今までの戦いと、不死の軍団の目的の一片を知ることが出来て納得していた。


『なるほど……私の知らない不死大戦の結果がそのような形だったとは知りませんでしたね。そうなる頃には私は呪詛の鐘でしたから。しかし、やはり『彼』が『不死皇帝』の可能性が高そうですね』


 アンヌは今聞くべきことでは無いと思い気になったことを敢えて聞かず、美咲を更に包み込むように抱きしめる。

 己の一族に掛けられて呪いと言ってもいい宿命と、それを利用しようとしている不死の軍団の恐ろしい目的。

 町や人の命がたった一人の命に掛かっており、どう転んでも自分には幸せがあるとは思えないという選択肢、それを若い一人の女性が背負い歩かなければならないという真実。


 一人の女性が背負うにはあまりにも重すぎて、あっという間につぶれてしまいそうになる重圧を受け止めるアンヌの中に目覚めた新たな力の波長。

 それを見つけ出したシャドウバイヤとヒーリングベルはそれを力として二つに分けた。


 一つは守る為に戦う力。

 二つ目は誰かを癒したいという想いを続けてきた癒しの力。


 それを月の杖というシャドウバイヤの体を触媒として形作られていく。


 共に歩く宿命が、その先に待ち受ける運命を今は進む為に。


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