試練を超えていけ 6
「ユニゾンする上で告げておくことがある。武器化している最中私の意識は非活性状態になる。行ってしまえば完全な道具に近づくわけだ。だからお前自身が私を常に守らねばならない。そして、お前自身がどういう武器でどういう力が欲しいのかをイメージすることが重要だ。カールのように適当には出来ないぞ」
そのように告げるとヒーリングベル達の首筋に刺さっていた黄金の針を拾ったシャドウバイヤ、それを自らの腹に突き刺すとそれを手放し自らの体を黄金に変えて『ドスン』とうう音と共に床に落ちていく。
「さあ、シャドウバイヤの想いを無駄にしてはいけません。アンヌ私が手伝いますので強制命令を発動させますよ」
ヒーリングベルの精神体がアンヌの中へと入っていき、アンヌとヒーリングベルは黄金になったシャドウバイヤに命令を下す。
「「シャドウバイヤは自らの体を黄金の延べ棒へと変更せよ」」
心痛む瞬間ではあるが、自らでそれを成すと決めたシャドウバイヤは一切の抵抗をすることなく自らの尻尾を噛んで一度輪っかに変貌するとそのまま黄金の延べ棒とへ変わった。
そのまま触れた状態でアンヌは自分がどんな力が欲しいのか、どんな力を育てていきたいのかを悩み始める。
「アンヌはどういう存在でありたいのか、どういう風に成長していきたいのか……それを心に思い浮かべなさい」
「誰かを癒したい……皆を守る様な力が欲しい。ソラさんのように守れるような力と私にしかできない癒す力」
「ではそれをイメージとしてシャドウバイヤへと送り込みなさい」
やはり杖をイメージしてそれをシャドウバイヤへと送り込むと、黄金の延べ棒が今度は真っ直ぐな三日月が付いているような杖へと変貌していく。
次第に形が整って行くとアンヌとヒーリングベルはシャドウバイヤに掛かっていた黄金化を解いて開放する。
黒い杖に黄金色に輝く三日月が先端にくっついたような長杖が完成し、それをアンヌはそっと触れて両手で握りしめる。
「もうシャドウバイヤさんは……」
「ええ、非活性化状態に至りましたね。これはあなた達が知るシャドウバイヤではありません。何か別の名を与えてあげる必要がありますね」
そっと触れるとシャドウバイヤの温かさが伝わってきてそっと呟く。
「月の杖。月の光でも影は差すから………大事に扱いますねシャドウバイヤさん」
月の杖が淡い光に包まれてそのまま消えていくとアンヌはそれを大事そうに握りしめたまま改めて皆に向き合う。
「これからどうしましょう。竜達はもう…」
これで竜はもう当てには出来ない状況になったので、彼女達はそれぞれの力で試練を超えていかなくてはいけなくなってしまった。
少し考えてバウアーが口を開いた。
「取り敢えずあの二人を連れて出た方が良いな。話だと美咲という少女が狙われているのだろう? あのカールが今度も狙って現れる可能性は十分になる。この場は視界が悪いし、何より薄暗くて人が少なすぎる。一旦この場から離脱して二人の体を見てもらおう」
バウアーが美咲をお姫様抱っこし、ガルスが奈美をお姫様抱っこして建物から出ていくと、外ではバウアーが呼んだ警察の応援が現れ、明日何か行動を起こす可能性が高いと説明し、警察は美咲を一旦警察の保護下に入れたいと申し入れたが、アンヌは自分が責任を持って守りたいと同行を願いでた。
「ガルスやっぱり私、今日の会食パーティーは無かったことにしてください。私今日一日ちゃんとシャドウバイヤさんの月の杖と向き合って成長したいです」
「………分かりました。申し訳ございませんがバウアー様お嬢様をお願いできますでしょうか? 私は会食パーティーのキャンセル理由を告げて一旦お二人を会場内で見てもらってきます」
イリーナは立ち去る前にアンヌの両手を握りしめ真直ぐに目を見つめる。
「何かあったら駆け付けますので………、絶対ですよ!」
アンヌがほほ笑んで返すと「レイン」と呼ぶ声にレイン自身が反応するとそこにはギルフォードがバイクに乗っていた。
アンヌが経緯のおおよそを説明して最終的にダルサロッサとレクトアイムが敵側にまわっていると説明すると、ギルフォードは「そうか」と呟き少し考え込む。
「手伝いたいが……俺達は今ボウガンを追っている最中でな。今あいつ大阪で動きを見せているらしくて、それ以外にも不審な船が海域をウロチョロしているって話も聞く。今から大阪に向かう所なんだ…」
「そうですか。大丈夫です! 必ず救い出します! そちらも気を付けてください」
「ああ。君に任せる。それとレイン……来い」
レインは突然の言葉に唖然としながらも「うん」と頷いて渡されたヘルメットを被ってバイクに乗り込む。
アンヌの方をジッと見つめて手を振るレイン。
「アンヌお姉ちゃん……ダルサの事お願いね」
「うん。任せておいて。絶対に取り戻すからね」
レインは「約束」と言いながら指切りを願いで、アンヌと指切りした後笑顔で手を振る。
ギルフォードは改めてアンヌに向き合う。
「では俺達はこの辺で………こっちの事は任せてもいいか? バウアー」
「ああ。どのみち警察としての立場があるからな。むやみやたらに動き回るわけにはいかん。しかし、大阪方面、それも海域一体に動きとなると国防軍関係か?」
「らしいな。最近国内……特に近畿地方一帯は奇妙な奴らの動きがあったらしくてな。元々警戒していたらしい。それが先ほどボウガンと連動していると証明できてな。それに……」
「何かあったか?」
「詳しくは分からなかったが、今大阪市内に重要人物が来ていると話を国防軍から聞いてな。何故かは知らんがボウガンはそれを知っていたんだ」
「それは………怪しいな。しかし、騙されているような気もしない。気を付けておいた方が良い。何だったら妹さん預かろうか?」
バウアーがそう尋ねるとギルフォードは素早く「いい」と否定してバイクのエンジンを動かす。
最後に「この街は任せる」とだけ言って走り出していくギルフォード、バウアーはその後ろ姿に多少の違和感を覚えてしまった。
有体に言えば分かりやすく何かあったと誰にでも分かってしまうほどだ。
「という訳だ。俺が当分君のサポートをさせてもらう。それで申し訳ないが、念には念を込めて宿泊先を警察が管理している旅館に移動させてくれ。無論最低限のプライバシーは守る」
「バウアーさんご配慮ありがとうございます。それと………ついでで申し訳ないのですが」
「分かっている。美咲という少女と同じ部屋だろ? 事情は既に警察関係者で共有している。当面警察は君達を守るという方針で動く。無論異世界交流会の護衛という役目もあるからそこまで人員は割けないがな」
「大丈夫です。今は自分の力と向き合いたいですから……」
杖を大事そうに抱きしめて瞳を閉じ考え込むアンヌ、自分がどうしたいのかとそれを考えない事には答えなんて一生出てこない。
そんなアンヌにバウアーは自らの経験談を語りだす。
「俺はな……特殊な一族で親が両方とも異能にまつわる力を持っていたんだ。母親性に関しては暗殺稼業の一家だしな。それもあって俺は親の遺志を継ぐんだって無理して特殊部隊に配属したくて無理をしたもんだ」
「成らなかったのですか?」
「正確には性格的に向かなかったんだ。正々堂々としている面が強く、正義感にあふれているような一族だからな。それに俺は田舎出身で、俺達のような田舎者は都会の連中にはあまり受けれてもらえなかった。それに反発してクーデター事件なんかも起こそうとはした。本来なら死刑になってもおかしくない人間だ。でも、この才能を有意義に使わなかって八月に声が掛かってな、こんな俺を警察で一緒に仕事をしようって言ってくれた人たちが居た。正直嬉しかったよ」
最後にバウアーは「要するに…」といいながら微笑む。
「本当に自分の才能なんてものは周囲が教えてくれるものさ。俺の才能を警察の人達が認めてくれたようにな。あんたの才能もあんたの周りにいる人達が教えてくれるさ」
「………はい」