アクア・レイン攻防戦 4
嵐の中家を出て雨風に耐えながら一旦大通りまで出る。本来なら大通りまで五分までの距離だが、強烈な雨風の中を進むのでどうしても時間が掛かってしまう。
何とか大通りまで出ると外へとつながる街道への道である『ベベル街道前通り』へと向かってひたすら歩くだけ。
なのだが、これが一段とキツイ。
しかし、そこは流石の父さんこの雨風の中を難なく進んで行く姿とその父さんの決して大きくは無い体が俺やレクターには丁度いい風よけになる。
「この先のベベル街道前通りに大きな駐車場がいくつもある。その内の1つに軍が管理している駐車場に軍用車が数台置かれている。その内一台を使う」
「軍用車両でこの嵐の中を進むことが出来る?」
「大丈夫だ。重量級の車両で特殊仕様なんだ。基本的によほどの事でもない限り飛ばされる必要性も無い」
そう言いながらも俺達は何とかベベル街道前通りまで出てきていた。
ベベル街道前通りは閑散としており、人どころか車一台すら走っていない有様だ。
「閑散としてるね。まあ普通に走っていたら飛ばされるだろうけれど………さ」
「仕方がないだろ。こんな中車を走らせようとする方がおかしい」
そのおかしい連中の一人に俺達が入ろうとしている。
ベベル街道前通りの大きな道路を横切り、反対車線へと走って移動するのだが強い風がとこから攻めてくるのだからたまらない。
父さんの風よけもこの状態ではあまり機能しないが、それでも何とか耐えながら前へと進んだ先、大きな駐車場があった。
「あの駐車場?車が転がりまくっているけど?」
「あの車が人るのタワーみたいになっている場所にあるな。あの車を退かせる必要があるな」
「え!?すごいめんどくさいよ!俺達飛ばされないようにするのに必死」
「そこに俺を入れてくれるのはありがたいけど………俺も同じ気持ちだよ父さん。どうする?」
「薙ぎ払う………今からする姿をガーランドには見せるなよ」
そう言いながら父さんは全身に意識を集中させ、父さんの体の奥から緑色のオーラ見たうな『何か』を纏い始める。
その『何か』が父さんの体を纏い始めると、その姿はまるで『星屑の鎧』のように見える。
「あれ?竜の欠片が星屑の鎧を作ってるんだよね?アベルさんは『竜の焔』を持ってはいても『竜の欠片』はもってなかったよね?」
「東京決戦の数日前に竜の焔が劣化版だが竜の欠片に変質したんだ。だから星屑の鎧が簡易型だが発動した。勿論機能の一部は発揮できないがあれぐらいの車の塊は吹き飛ばせるはずだ」
実際父さんは実体化した大剣に力を込め始め、大剣の刃先に薄い緑色の仮想の刃とでもいうべき力を発動させる。
重い一撃が車の束を吹っ飛ばすのだが、俺達としては先ほどの攻撃で軍用車が吹き飛んでしまったのではないのかという一点だった。
しかし、何でもない様な勢いで普通にその場に佇んでいた。
「よし!行くぞ」
鎧を解除し父さんはいち早く車に乗り込む、俺達も負けじと車へと駆け寄っていく。
父さんがハンドルを握る隣で、俺は助手席にレクターが後部座席に座るのを父さんがミラー越しに確認し、アクセルを踏むとふるスロットルで車を走り出させる。
車全体が大きく揺れ、俺達の体が左右に大きくぶつけるのだがそんな事お構いなしに父さんはベベル街道へと向けて車を走らせる。
「アクア・レイン要塞前にあるオーフェンス基地までは車で三十分だ。どれだけ急いでもそれだけかかると思えばいい」
「そんなんで間に合う?」
「サクトが簡単に諦めん。あれでも俺達よりよっぽど実践を積んできている。簡単には陥落何てしない」
「でも………どうやってアクア・レインに襲撃したんだろうね。水上要塞では最強なんでしょ?」
レクターのもっともな疑問を前にして俺は少しだけ考えに困ってしまった。今ここでどうしても仕掛けなくてはいけない理由があるのだとして………それはなんだ?
外相か?
それともそれ以上の何か?
「何を目的にしているのか?目的は外相本人なんだろうな……だが、ここまで強引本人を狙うにしても『恨み』だけでは納得できんな」
父さんの言い分も最もだ。実際俺は全く同じことを考えていた。
ここまで危険な賭けと言ってもいい行動をして、それに見合う行動が恨みでは少々納得できないだろう。
「………外相を殺す事に『復讐』以外の目的があるとしたら?」
「復讐以外の目的………か、それが分かれば苦労はしないな………」
復讐以外の目的。
もしかしたら……。
「外相自身に握られたくない秘密がある?」
「なるほど………しかし、それを証明できるものが我々には無いな……」
「だったら聞くしかないね!」
レクターの元気な声が車中に響き渡るのが分かり、俺は振り返るとそこには確かににこやかに笑う姿があった。
「それが一番確実な方法なのかもしれないが………、しかし問題はどうやってアクア・レインに乗り込んだかという事だ。その問題を解決しない限り今回のような事態は何度でも起こる」
父さんの指摘ももっともではあるが、これについては俺に心当たりがある。
その為には彼等の撤退の謎を紐解く必要性がありそうだ。
「父さん。あいつらがどうやって撤退したかなんだけど………それさえわかればもしかしたら侵入方法も分かるかもしれないんだ」
父さんは俺の方をちらっとだけ見るが、決して視界を前から逃さないようにしながらも口をゆっくりと開いた。
「水鏡の反響。片道切符の瞬間移動術だ。マーキングが付いた物体を水の塊に落とす事で簡単なゲートを作ることが出来る。体にマーキングが付いていれば片道だけだが移動が出来る。だが、それだけでは撤退は出来ても侵入は出来ないはずだ」
水鏡の反響という聞きなれない言葉はともかく、これが侵入した方法は分かった。
「水鏡の反響を使って侵入したんだな」
「ソラ…話聞いてた?アベルさんは侵入は出来ないって」
「施設内にたった一人でも侵入できれば水鏡の反響を発動させることが出来るはずだ」
父さんが小さな声で俺に「詳しく聞こう」と告げた。
「俺達が列車内で見つけたコンテナ。このコンテナは父さんがアクア・レインの地下倉庫みたいなところに隠したって言っていたろ?そのコンテナに書かれていた『ウミヘビと帆』のマークの下に隠すようにマーキングを付けるんだ。だからこそ人工人間を入れていたんだと思うよ。いざとなったら暴れさせて見付けやすくするために」
「初めっから二段構えだったわけか……しかしソラ、そこまでで話は半分だな?」
「ああ………義父さんの言う通りここまでで話は半分だ。コンテナがいくら倉庫にあるといっても水の奥深くに落とさなければ発動しない力。そこで侵入者が必要になる。この侵入者が内部でコンテナを水辺に落とす。嵐で水位が上昇している水路に……これで水鏡の反響の条件が揃う」
「フム……問題はどうやって侵入したのか?という事だ」
これについては完全に仮説なんだ。
「仮説だけど、多分烈火の英雄の魔導に関係しているんじゃないかな?魔導というか……俺の『竜の欠片』のようないわゆる『異能』と言ってもいい力。多分充電式のエネルギーパックみたいなものかな?」
「それって要するに体内に膨大なエネルギーを蓄えているって事?」
「そういう事だ。前に魔導協会から聞いたことがある。基本的にどの瞬間移動式も法則があると。確か物質を運ぶエネルギーと点と点の距離計算。それさえできれば瞬間移動式は完成すると。勿論その計算式が難しいうえに、体内にエネルギーを持っているような人間はいないけど」
「じゃあソラの瞬間移動も?」
「俺のはシュートカットしているんだけどな。『竜の欠片』は『力のショートカット』が出来る。本来ある複雑な経緯をすっ飛ばす。だからこそ俺は膨大なエネルギーが無くても瞬間移動が出来る。最もそれでも最低限のエネルギーは使うけど」
「なら、奴はそのエネルギーがあるからこそ施設内に侵入できたという事か………それこそ仮説だが。しかしこれ以外の仮説も無いしな。今はその仮説を信じてみるしかない。その為にも奴の元に向かうべきだ。見えてきたぞ………あれがアクア・レインだ」
俺達の左手には海上にそびえたつ六角形の建物が見えていた。