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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
キョウト・ディザスター《上》
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潜む闇と蠢く者 2

 アンヌ達が古都京都エリアにある服屋へと入っていくと奈美は正面に飾られている巫女服に目が付いた。

 アンヌに着てみて欲しいと頼み込み、必死な訴えと共にアンヌは仕方なさそうに試着室へと入っていく。

 きなれない服なのでどうしても苦戦してしまい、結局美咲に手伝ってもらいながらようやくの思いで着てみたものの、別段可愛いとも思わなかった。

 しかし、そんなアンヌの思いとは別に周囲は絶賛の嵐でアンヌはそれだけで顔を真っ赤に染め上げて俯く。

 するとレクトアイムはヒーリングベルに耳打ちする。


「どうでした? ダルサロッサとは連絡が取れましたか?」

「いいえ。寝ているか面倒に感じているかのどちらかでしょう。全く……協調性の無い竜ですね」

「竜に協調性があると期待する方がおかしいでしょうに。基本協力しないのが竜でしょ?」

「それもそうですね。どこかで会えればいいのですが……」


 ヒーリングベルはやれやれとため息を吐き出し、レクトアイムは微笑みながら再びアンヌ達の方を見ると、何故アンヌが弄ばれていた。

 先ほどから残り三人がアンヌの綺麗な金髪を弄り倒しており、金髪をポニーテールにしてみたりお団子にしてみたりと弄っていた。

 巫女服に合う髪型を試行錯誤しているようで、最終的にポニーテールにしてしまう。


「これいいよ! 私アンヌにこれ買ってあげる!」


 そう言って奈美が興奮しながら財布を持って駆け出していき、アンヌはそれを止めようとしていた。

 何せ自分に似合っていると思っていない上正直好みに合っていなかったが、三人はすっかりそのつもりでいたらしく、あっという間に購入してしまう。


「大事に来てね!」

「………うん」


 レクトアイムはその光景を見ながら「断ればいいのに」と呟いていた。

 押しに弱いアンヌは巫女服を脱ぎたいという事もできずまるで牢獄に捕まった囚人のような気持で服屋の中を見て回る事に。

 次に奈美が見つけたのはピンク色の袴だった。


「これ着てみようかな……。こっちは美咲さんも来てみよう」

「え? 私?」

「うん。だってイリーナには会わないと思うもん」

「失礼! 着てみれば合うかもしれないでしょ? 三人で着てみない?」


 アンヌはそっちの方が可愛いなと思い自分も来てみたいと口にするが、その言葉を聞いた途端奈美の悲しげな瞳を見て何も言えなくなった。

 まるでおもちゃを捨てられた子供か子犬のような瞳、瞳だけで「似合っているのに…脱ぐの?」と言っているのが分かる。

 そんな目をされてしまえば断るにもいかず結果黙る。


 三人が着替えるのを待っていると試着室から色とりどりの袴を着た三人が姿を現し、アンヌは心から「良いなぁ…」と声に出す。


「アンヌならどの色が良い?」

「え? 美咲?」

「羨ましいんでしょ? どの色が良い? 私は………水色なんてどう?」


 選び取った袴を見た途端心からこれが良いと思ったアンヌ、思い切って奈美にこれを期待と伝えて試着室へ。

 四人がお店から出てくるとそこにはお揃いの袴を着ている四人がいた。



「ライブまでまだまだ時間があるね」


 奈美のそんな一言で全員が時間を見るとまだ朝の十時前、それを見てアンヌがレクトアイムの方を見ながら「舞妓体験の時間があったんじゃ」と訴える。


「その状態で楽しみだし、飲み食いをしているうちに時間を無くして結果着替える時間が無くなるのと、体験を我慢してやりたいことをやるの……どっちが良いの」


 楽しんでいる間に時間が無くなり結果困るという事態を事前に呼んだレクトアイム。


「それに恐らく舞妓体験で時間を喰っていたらあのカールという女性に何かされていた可能性はありますよ」


 そうなれば今以上にヤバイ事態に陥っていた可能性は十分にある。

 ある意味偶然とは言えそれを回避することができた。


「それにあの真っ白なゾンビのような姿の何が良いのですか?」

「レクトアイムはあの人形のような綺麗な姿にあこがれを抱かないのですか?」

「ええ。私達にとってはあのような姿に綺麗という感情を抱けません」


 アンヌ個人としては舞妓の文化に非常に興味があったらしく前のめりで語りだすのをレクトアイムは鬱陶しそうに見ていた。

 小腹が空いているわけでもなく、かといって暇を持て余しているような状況で四人はどこに行くかと語りだす。


「私皇光歴の世界エリアに行ってみたいな」


 イリーナがそういうとそれに同意したのが美咲だった。

 皇光歴の世界に行ったことが無い美咲からすればアンヌが過ごしてきた世界は非常に興味がある。

 ならそこに行こうという話になり四人は雑談をしながら歩き出す。


「そういえばアンヌさんは帝都でお兄ちゃん達と別れた後、日本を回っていたんですよね? どこに行ったんですか?」

「基本は医療機関に身を寄せて治療の仕事を手伝って旅行資金を集めながら全国各地を回っていました。この前までは東京に居ましたね」


 東京にいたという言葉に奈美が「良いなぁ」と憧れの言葉を発するが、それにイリーナがツッコム。


「ガイノス帝国の首都の方が大きいと思うけど?」

「住んでみるとそういう実感が湧かないっていうか……住んでみると観光する気にもならないからさ…」


 奈美の言っていることにイリーナや美咲はなんとなく理解が出来た。

 普段から住んでいると観光する気にもならない上、もっと言えば「今度回ってみればいいや」という気持ちになる。

 しかし、故郷という想いに人一倍いい思い出の無いアンヌからすれば奈美達のそういう故郷に対する気持ちは正直よく分からなかった。


 いつだって家に閉じ込められ、兵器として育てられた自分を恐れて軟禁状態で毎日を過ごして窓から見る風景にはいつも同じものが映るだけ。

 窓から目が合っただけで子供女皆が逃げていく。

 故郷にいい思い出は存在しなかった。


 いつか自分にもそういう場所が出来るのだろうかと羨ましく思う。


「私にもいつかそういう場所が出来るでしょうか?」


 つい口に出してしまい全員がアンヌの方を見つめ、アンヌは焦って良い訳のようにまくしたてる。

 そんなアンヌに美咲がほほ笑みながら語り掛ける。


「出来るよ。欲しいって思って行動していけばいつかアンヌにもできる。故郷ってそうやって探していくものでもあるから。いつか私にも出来るんだと思うよ……この街が故郷なんだって…」

「そうですか………」


 アンヌは美咲の優しさに微笑んで返した。


「でも旅行をするって少し良いなって思う。お兄ちゃんなんて呼ばれていけばどこでも行くんだもん」

「それってソラさんが士官学生だっていう事も理由だと思うけど。ていうか奈美はソラさんにどういう想いを抱いているの?」

「お父さんはきっちり定時に帰ってくるのにお兄ちゃんは六時を過ぎても還ってこないし、その上下手をするとそのままどこかでお泊りっていう。それなのに私が夜遅くまでイリーナの家やガーランドさんの家に居ると絶対に迎えに来るんだよ」


 イリーナは知っているその何故絶対に来るのかというトリックを。

 簡単な話、ヴァースとガーランドが「奈美が来ている」とソラに告げ、ソラの母親が夜遅くになる前に迎えに行かせるのだ。

 ソラからすれば良い迷惑程度の話でしかないらしい。


「でもそれって奈美さんがきちんと親御さんに報告していないのが原因では?」


 アンヌの追及に奈美は「な、なんで分かったの?」と尋ねる。


「分かるよ。ソラさんの性格を考えれば無断外泊はしないでしょ? なら多分事前に母君や父君に告げているでしょうし。ソラさんが許されているのに奈美さんが信頼されているはずの家で預かってもらえないのは奈美さんが事前にちゃんと報告をしていないから。この数時間一緒に過ごしていると随分ゴーイングマイウェイを貫くし」


 イリーナが何度も頷きながら同意するので奈美は顔を真っ赤にしながら俯く。


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