アクア・レイン攻防戦 1
強まる嵐の激しさを窓越しに感じていると、俺の部屋は完全に遊び場に変貌していた。
案の定輪に入る事の無いレイハイムを覗いて、ほぼ全員が俺部屋でさまざまなゲームで遊んでいる。
父さんは母さんと一緒に自室に帰っていった。
「レイハイムって本当に協調性が無いよね。こういう時ぐらいみんなで遊んでみればいいのに」
「そういうなってレクター。ああいう奴だって昔から知っているだろ?それと……今サラっと手首に隠してあるカードと変えたろ?ルール違反だぞ」
「あんた!ババ抜きでルールを破らないでよ!たかがゲームでしょ!?」
俺とエリーで指摘してやると、レクターは舌打ちしながらカードを元に戻す。俺はついでにとレクターが隠し持っているトランプのカードを全て没収する。
合計でトランプワンセット分が姿を現し、エリーが心からあきれ果てるような表情をする。
「あんたね。こんな量のカードどこに隠していたのよ」
「服の中とか?いろいろな所に………!」
「それを見付けるソラもソラよね。あんたどれだけ暇なのよ」
「暇だからじゃない。こういうゲーム系はこいつ弱いんだ。勝とうと思ったら決まってイカサマするから」
よくジュリと俺とレクターの三人で対戦系のゲームは良くしていたし、その過程でレクターが非常に弱いというのは知り尽くしていることでもある。
何度も何度もイカサマをしている姿を見るうちに俺はこいつのイカサマの手段なんていくらでも思いつくようになった。
「トランプ飽きた。何か次のゲームしない?」
「確かにな。ババ抜きから大富豪とか色々としたし………」
俺は腕を床について上半身の体重を支えていると、何かが当たる感触を感じそちらの方に手を伸ばすとそこにはトランプサイズの小箱を発見した。
大きさとしてはトランプほどなのだが、外見には見慣れない剣のマークが描かれている。
そしてそこには大きな名前で『ブレイザー』と書かれているのだが、俺には聞きなれないカードなので首を傾げる。
「あ!それ昨日みんなで街中を探索中に発見したの!外国では有名なカードゲームらしいよ!」
「へぇ~やったこと無いな」
そう言いながら俺はカードの蓋を開け、中身を取り出す。
中に描かれているカードの絵柄は『剣』『盾』『杖』『弓』が1~10までの数字が書かれており、中に封入してあるルールブックを開いてルールを確認する。
「えっと、勝敗は墓地にカードが十枚溜まったら負けらしいな。それぞれ四すくみがあり、剣は弓に弱く、弓は盾に弱く、盾は杖に弱く、杖は剣に弱い。そして、相性が弱い相手には数字がマイナス2され、それ以外の相性にはプラスマイナスゼロ。ターンごとに各プレイヤーは一枚ずつカードを出し、そのカードで勝負をする。対戦人数は二人のみ」
「ふ~ん。単純なゲームだね。面白くなさそうだけど?」
レクターがカードの中身を見ながらそういうのだが、その意見には俺は同意する。
そんな話をしているとカードの名前を検索していたジュリが「このカード初期だね」なんて言い始める。
「このカードは初期タイプで、今ではいろんなカードの種類があって複数人用にも発展しているみたいだよ。ほら」
ほらと目の前にやってくる携帯の画面には確かにここには無いようなカードの種類が映されている。
取り敢えず目の前で奈美とレクターが対戦しているが、どこか盛り上がりに欠ける試合をしてくれる。
なんというのだろうか………イマイチ白熱しない試合だ。
「他にはないのか?結構飽きてきたぞ」
「海君たちが向こう側でしているゲームに参加する?」
「いや………ツイスターゲームをする元気は無い。まあ適当に本を読んでいるかな………」
時刻はすっかり夕方を通り過ぎ、夜中へと向かって行く。
それぞれの部屋に戻ってそれぞれの作業にでも入ってほしいのだが、いまいち解散するつもりの無いこのメンバーをどうしたものか。
海上要塞アクア・レイン。
海上に存在する要塞の中では最大規模の要塞、下から上へと昇っていくうちにセキュリティーレベルが上昇していく。
合計で五段階のセキュリティーが存在し、それに応じて指令室も三つ存在する。
最大レベルのセキュリティーのレベル五の第一指令室、レベル四に存在する外敵用の第二指令室、セキュリティーレベル三の臨時指令室の三つ。
臨時指令室は基本使われるこちが無いため、基本はこの二つが使用される。
外敵用に作られた第二指令室では砲台などの攻撃手段の一部のセキュリティーを預かっており、内部のセキュリティーの一部もここで管理されている。
現在サクトと呼ばれているソラの父アベルの幼馴染は、第一指令室近くのセキュリティーの高い場所での尋問の準備の指示をしながら第一指令室で待機していた。
「サクト大将!アメリカ合衆国軍のファーブル少佐をお連れしました」
「ご苦労様。下がっていて結構よ」
サクトは長い髪を払い、改めて指令室までやって来たファーブル少佐とケビンに対し改めて頭を下げる。
ファーブル少佐と呼ばれている若い金髪士官も同じように深々と頭を下げ、お互いに手を結び合う。
「ご招待いただき感謝いたします。サクト大将。まさかガイノス帝国軍の大将クラスの方とお会いすることになるとは………」
「アメリカ合衆国の方と交渉する以上はこちらも最大限の敬意を払うべきだろうというのが皇帝陛下の意向ですので。ケビンさんもお仕事ご苦労様でした。アベル大将からも感謝の言葉を預かっています」
「いいえ。こちらも興味深い時間を過ごさせてもらいました」
サクトは二人は隣の会議室へと案内し、会議室前のドアのカギをカードキーをさしこむことで解除する。
鉄の扉が横開きで左右に分かれて開き、重厚な空気が中から外へと流れ出ると、会議室独特の重苦しい空気を感じ取る三人。
「このアクア・レインは何度も無く改修や増築を繰り返していまして、基本的に内部のシステムなど重要な部分は常に最新鋭の技術が使われています」
「すごいですね。我々の世界にも要塞という規模の施設はありますが、ここまで長い年月を過ごしてきた要塞は間違いなくここが最大規模でしょう」
「お褒めに預かり光栄ですファーブル少佐」
三人は会議室に用意された席、ファーブル少佐とケビンがまず左右に座り、対面にサクトがスーツケースと共に座る。
「こちらに用意したスーツケース。この中にガイノス帝国が開発したアメリカ軍用の魔導機です。我々との同盟の暁にはこの魔導機を譲渡し、今後開発や生産を保証いたすとうう事です。勿論、最低でもお支払いをしてもらう必要はありますが」
「勿論です。大統領も最大の支援や協力を惜しまないという方針です。今後ともお互いに最大国家として、対等な交渉をしたいという想いです。ケビンエージェント……大統領から預かった例の書物を」
「はい。こちらは大統領から預かったものです。これをそちらの最高議長にお渡し頂ければと。この中にはこちらから貿易としてそちらに輸出できる現在の状況が書かれています」
サクトが書物を受け取り、代わりにスーツケースを開いて中身を二人に見せるサクト。
スーツケースの中には腕輪型の魔導機がクッションに固定されるようにはいっており、色合いは青で出来ている。
「そちらの注文通り、魔導機としてのシステムは高速移動術や磁場を使う事が出来ます。西暦世界に存在している武装を最大限活用することが出来る魔導機となっています」
「まさかたったの数週間で完成させるとは、御見それしました」
「勿論最終テストはそちらと合同を行う必要があります。そちらさえよろしければ明日にでもテストをこちらは行う事が出来ます」
ケビンのもう一つの目的、それは譲渡される魔導機のテスト要員。




