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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
サブジェクト・レクイエム《下》
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それでも前を向いてみよう 8

 白く光っている床はまるで大理石のような堅さと響きが、しかしそれでいて頼もしさを感じるが、目の前にいる神は明らかに異質な存在感を放っている。

 人や生き物というレベルを超越しており、それこそ世界という言葉で言い表せない存在感と力を体中から放っている。

 俺から時計回りにケビン、ジャック・アールグレイ、ギルフォードの順に囲んでおり、遠くにはウルベクト家の飛空艇と複数のビルが並んでいるのが見えた。

 風が強く感じるがそれでもそんな事に気にならないぐらい全神経が「集中しろ!」と告げているようで、俺は緑星剣を低めに構えながら全身に星屑の鎧を召喚する。

 全員が戦う為の準備を完全に整えるが、そんな俺達に向かって神が突然口を開いた。


「愚かなり……何故抗うのか? 勝てぬと知ってなおも戦う。これこそ人の愚かさ」


 アンヌじゃない。

 即席で作った人格にしてはやけに流暢に喋っており、内容は傲慢で俺でもいけ好かない感じがする。


「勝てないと決まったわけじゃない。やってみないと分からない」

「シュミレーションでは君達の勝てる可能性は……0だ」


 シュミレーションという言葉、間違いなくこいつはドイツが開発したというAIが人格を得、それがこの実験を通して人の悪意を知った結果完成された人格。

 しかし、生きるという事は完全にシュミレーションできるわけじゃない。

 時にイレギュラーな事態だって起きることはあり得るし、何よりそういう経験が人を……生き物を強くしていった。

 目の前にいる神にそんな理屈は通用しない。

 だって計算すれば答えが出ると思い、常に合理的に行動する事しか出来ない機械からすればイレギュラーなんて存在しないのだから。


 生きることに絶対なんて答えは存在しないし、なにより時に人は計算を超えるものだ。

 堆虎達が命をとして俺達に掛けてくれたように、人は想いを繋げる事で未来を作っているのだから。


「生きることは簡単じゃないんだ。計算できないよ……思い通りになると思っているなら……それは傲慢な考えだ」


 なんでもできるわけじゃない。

 どんな生き物でも完璧何て存在しない。

 だから命は触れ合い、手と手を伸ばし合うのだから。


「一人ではできないことは二人で……」


 俺はケビンをそっと見る。


「二人で出来ないことは……皆で行動すればきっと」


 ケビンはギルフォードをそっと見つめる。


「一人だったら誰もこんな所に辿り着けなかった。孤独では誰も理解してくれないから」


 ギルフォードはジャック・アールグレイの方を見るが、ジャック・アールグレイは鼻で笑いながら哀れな目を神に向ける。


「一人に成りたい貴様には分からないだろうな。孤独な人間の辛さと乗り越える大切さを…」


 俺は緑星剣を真っ直ぐ神に向けて宣言する。


「人は今出来ないことを託していきながら乗り越えるんだ。受け継ぐことの大切さと、人と繋がりたいという想いを知らないお前には……負けないし、何よりアンヌを奪わせたりしない!」


 神は俺達から言葉を目を瞑って聞き入っており、俺達はいつ始まってもいい戦いを前に全員が臨戦態勢を整えていた。


「軌道修正………人間は抹殺する必要があるようです」


 どうすればそのような結果になるのだろう。

 このコンピューターはどんな思考回路をしていて、何をシュミレーションしたらそんな考えを抱くようになるのか知りたい。


「人は簡単に不死を求め、だから人は簡単に罪を犯す。それを繋いでいくのならここで排除します。災いを………滅ぼす簡単な方法は……人という存在を全ての世界から排除することです」

「排除して何になるんだ!? お前の考え一つで全ての世界の人間を巻き込むつもりか!?」

「災いを阻止するためには必要な手順です。あなた達はまるで理解できていない………『不死皇帝』の恐ろしさを」


 またその名前だ。

 魔王ですらもその『災い』という存在を嫌がり、その災いの正体である不死皇帝を誰もが恐れている。

 そんなにやばい存在なのだろうか?

 それでも俺達はそれが俺達の幸せを奪うのなら立ち向かうまでだ。


「立ち向かうまでだ。それが不死皇帝だろうが、俺達の幸せを……限りある命を全うするまで俺達は戦い続け、その思いを未来に託す!」

「有限の命を前にしてどうしてそのような確信を得るのかが理解不能。人は限りある命の終わりを前にして永遠を求める。それがどれだけの命を奪う行為なのかを知らない」


 まるで俺達が永遠を持っている存在を理解していないかのように発言するが、俺は知っているたった一人。

 永遠を持っているが故に悩み、苦しんで生きてきた存在を。


「知っているさ……そんな存在を前に俺は戦ったんだから。苦しんでいた。永遠に生きるってそういう辛さと向き合う事だ! 俺は木竜のような悲劇を繰り返したりしない!」


 木竜は自らの悲劇と向き合い、絶望し続けてきた。

 どれだけ大切な命と絆を紡いでも、時間が全てを破綻させるのだから、愛する人との時間も、友人との絆も全ては時間が破綻させる。

 それが耐えられなかったし、何より自らの『不幸体質』が全てを滅ぼす。


「ならどうしてあなたは……」

「だからこそだよ。永遠なんていらないし、永遠に生きることは不幸になるかもしれない。生き続けることが絶対に幸せになるわけじゃない。だから1分1秒を大事に生きるんだ」


 俺には神が不機嫌になっているように見えるが、実際は表情が動いているわけでは無いから真実は分からない。

 どうやら会話で神を説得することは出来ないようだ。

 神はおそらく絶対に引かないだろう。


「人は愚か……あなた達が本当に災いを乗り越えることが出来るのか………わたしを超えることもできない命が災いを超えるなど不可能」


 そんな事は分かり切っている事だ。

 神を名乗る存在でさえも、『不死皇帝を倒す』とは絶対に口にしなかったし、なによりそんな嘘を吐くことも出来ないような強さを持っている事なんだ。

 単純に不死の皇帝じゃない事ぐらいはハッキリと分かる。


「百や千を超える世界を支配し、その全てにおいて時間すらも超える。彼を殺す事は叶わず、支配された者は変わらない『今』を与えられる。永遠の今を……支配されている事すら気が付かず……」

「それでも……抗う。永遠なんていらないと証明する為に……」

「なら……勝てますか?」


 右腕を俺の方にそっと伸ばしたと思った瞬間俺は背筋がゾッとする感覚を得て咄嗟にしゃがみ込むと、レーザーのようなまっすぐな光を後方にあるビル群をまとめて真っ二つにしてしまう。


 ウルベクト家の飛空艇は先ほどの攻撃を恐ろしく感じたのかなるべく遠くに低めに移動して行く。

 攻撃範囲と規模がけた外れ過ぎる。

 下の方にガシガシ攻撃されると流石に竜達の力でも突破される可能性が高いだろう。


「私は神………」


 両手から光の玉を作り出し周囲に浮かべながら、そっと浮かび上がっていく神は神々しさを放ちながら制止した。

 突然歌い始めると上空にオーロラが現れ、青空がドンドン夜空のように暗さを見せ始める。


「こんなことが出来るのか……天候操作なんてレベルじゃないな…」


 ジャック・アールグレイの言う通りで異常気象というレベルじゃないし、何より単純に力じゃないという証明でもある。

 そんな超常的な存在ですら勝てないと認識させる存在とは何なのだろうか?

 それだけ強い力なのだろうか?


 単純に力だけじゃない気がするが、それこそオーロラを自由自裁に作り出し、空を夜空に変える力を持っているようなバケモノに今は勝つことだけを考えなくてはいけない。

 息を呑み、真直ぐに睨みつける先に神はいる。


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