それでも前を向いてみよう 3
メメントモリのシールドが固いカプセルに当たるとそのまま反射したように軌道が変わり、俺の後方から襲い掛かってくる攻撃を俺はしゃがみ込みながら回避するのだが、今度はメメントモリの右腕から小さなミサイルが三つも跳んでくる。
それを水平斬り二連で捌き切るとそのままの勢いで接近しようと試みるが、その時隣から蜥蜴型の魔物が二匹襲い掛かってきて、俺はそれをジャンプで回避して無視。
するとメメントモリは手元に戻ってきたシールドから熱エネルギーを俺めがけて放出してくる。
真っ赤な光が俺の顔目掛けて飛んでくると、俺はその攻撃を緑星剣の腹で受け止める。
緑星剣が焼ける匂いが漂ってくるが、俺は心の中で「負けるな!」と緑星剣にエールを送り、迫りくる熱エネルギー攻撃を必死で耐える。
焼けるような感覚が俺の鎧越しにも確かに分かり、こんな攻撃を受ければ間違いなく火傷では済まないだろう。
ギルフォードの方は真っ黒な闇の玉による攻撃を回避しながら走り出し、キューティクルへと刃を伸ばそうとするのだが、キューティクルはその攻撃を真っ黒な壁を造って受け止めながら再び距離を取る。
ギルフォードは炎を双剣に集めてそれをキューティクル目掛けて飛ばし、キューティクルはその攻撃を黒い盾で受け止めるが、ギルフォードはその間に一気に距離を詰めて左右から曲がるように炎の斬撃攻撃をお見舞いする。
しかし、キューティクルはその攻撃をギリギリで回避する。
その際にフリフリのドレスのスカートの裾がほんの少しだけ焦げてしまうが、本人はあまり気にしていない。
魔物が多すぎて戦闘に集中しきれない。
目の前の敵に集中したいのに、周囲にいる魔物達が多すぎてまともに戦えないし、父さんとバルグスは成れない体で上手く戦得ておらず、師匠もジュリとレインちゃんと小人達を庇いながら戦っているので攻勢に出られない。
ジャック・アールグレイとケビンは気絶させようと戦っているが数が多すぎてこちらも中々攻撃に出れない。
海とレクターも囲まれている状態で回避しながら小さなダメージを与えるだけで精一杯な状態になっている。
他人の事に意識を向けている場合では無いと分かっているが、それでも気になってしまう。
ここでラウンズを師匠が使うのも手段なのだろうが、前の戦闘で大分体力を失っているようで、師匠は結構辛そうに戦っている。
目の前から熱エネルギー攻撃が一旦止み、今度はミサイル攻撃が再び四つほど飛んでくると、俺はそれを回避しながらなるべく切り落とし、シールドを投げつけてくる。
このシールド投擲攻撃どう考えてもおかしいだろ。
手裏剣を投げるのとはわけが違うんだぞ。
使い捨ての武器じゃない単純な防具を投げて、どうして反射角度を調整しながら戦えるんだ。
俺はシールド攻撃をギリギリまで引き付けて見極め、ギリギリの距離でジッと見つめるとやはりワイヤーの類は存在しない。
目の前の機械を名乗るメメントモリはシールドを投げる際に反射角度や威力を計算しながら行っているのだろう。
それにこの武器、その辺にある金属を使っていない。
反射する際の音が少々聞き覚えの無い音を発しているし、俺が攻撃を弾いていると軽いというのがよく分かるのに金属自体はすごく頑丈にできている。
少なくとも鉄より硬く、金属類では考えられないほどに軽い。
こんな金属が存在するとは聞いたことがないが、メメントモリという男の体がこれと同じ作りをしているのなら厄介なんて話じゃない。
俺がシールドの軌道を逸らして反射角度を変更すると、メメントモリは走りながらシールドを回収しようとする。
ここまでは俺の予想通り、あとはこのシールドを回収させない方法を実行するしかない。
要するに妨害する。
俺は緑星剣を投げつけてメメントモリの進路を妨害するが、メメントモリはその剣を片手で投げつけようとするが、俺は緑星剣を呼び戻す。
メメントモリが投げようとしている緑星剣が突然消え、俺の手元に戻ってくると俺はそのまま一気に距離を潰して剣を彼の前に叩き込むが、メメントモリはその攻撃をジャンプ一つで回避。
俺の攻撃軌道まるで予想していたかのような移動方法に俺は驚き動きが一旦止まる。
その隙にシールドを回収し、再び俺の方へと投げつける。
俺はそのシールドを緑星剣で弾く事に成功するが、その際に俺は体勢が崩れてしまう。
回収したシールドで今度は熱エネルギー攻撃を俺に向けるが俺はそれを『太陽の鏡』で反射させてそのまま返す。
メメントモリは反射してきた攻撃を自らの左腕で受け止める。
熱で焼けて白衣の一部が焼けるが中から機械の腕が覗かせる。
人間じゃないという分かりやすいパターンだが、この状態ではまだ彼が機械の腕を仕込んでいるだけかもしれない。
本当にこの男が機械で出来た存在ならどこかに核というべき存在があるはずだ。
そう思い再び突撃をかまそうと考えていると、こっちの考えを読む。
「君は私には核のようなモノがあると考えているのでは? そのような甘い考えで『不死の軍団』が務まると思うかね? そこにいる悪魔といい、ボウガンといい我々が簡単な存在だと思わない事だ。不死の何相応しく我々は基本……死なない。君は他の人間とは少し違うようだが、でも……多分私との相性は悪いんじゃないかな?」
言い返したいところだが悔しい事に確かにその通りだ。
完全に再生能力程度なら俺の『異能殺し』が有効だが、この男のように機械で出来ている体ならメカニズムがまるで別なのかもしれない。
多分体が再生するというよりは………いや、機械ならもっと別の方法が存在するのかも。
「試しに切ってみると言い。科学の全てを使って存在しているこの体を君の力で殺す事が出来るのなら」
もしかしたら俺の力を図っているのかもしれない。
しかし、ここで上手く攻撃を加えればこの男の不死の理屈をいくつか解き明かせるかもしれない。
そう考えて俺は葛藤の末一気に走り出し強烈な一撃を斜めに決める。
するとメメントモリの体は金属の床に高い音を立てて倒れ、大の字で動かなくなるメメントモリに俺は一旦距離を取る。
「ここで攻撃を仕掛けたという事は……やはり君は不死を殺す手段があるという事だ。それが分かっただけでも十分収穫なのだが……その報酬だ。これが私の不死の理由だ」
勝手に体の傷口といってもいい切断部分が治っていく。
正確にはナノマシンと呼ばれるナノレベルの金属が集まって体を修復していき、あっという間に治っていく。
「ナノマシン? それこそ架空の技術じゃ……」
五百年前の段階で存在しているはずがない技術、そがこの男の体を作り出している技術なのだろう。
「私は君が知る世界の住民じゃないんでね。君だって考えなかったわけじゃないだろう? 君の知る世界が全てじゃない。この世界には無数の世界が存在している。その中で不死皇帝が支配している世界は多い」
無数の世界を支配し、その上で不死皇帝は何を成し、この化け物達は何がしたいのだろう?
自分の世界を支配する?
それとも不死皇帝にはそんな化け物達を引き寄せるほどのカリスマがあるのだろうか?
「そこまでしたアンタ自身は何がしたい? それにアンタの世界は…」
「………それを君が知るのは少し早いな。君が何者なのか私にはまるで理解できない。不死皇帝なら知っているかもしれないが……あの人は私達以上に自分の事を語らないからね。決して私達は許し合っている仲じゃ無いんだよ。その上で君に語れることがあるのなら……私が協力しているのは怖いからだよ」
最後に「不死皇帝がね」と付け足すメメントモリだった。




