神 9
元の場所に戻るのにさほど時間はかからなかったが、しかし、あのメンバーの中で一番遅れてしまったのは致し方ない理由が存在した。
何せバルグスと戦い、今後の面倒の種を排除できたことは大きいし、バルグスという戦力を手に入れる事が出来た。
しかし、結果から見れば他のメンツに驚かれる結果(レクターだけは面白がっていたが)になり、説明をするのに少々時間が掛かってしまったが、取り敢えずエレベーターがある方へと移動しながら今までの経緯を説明すると、ジャック・アールグレイだけが自分の影をジッと見つめるようになった。
一体何が言いたいのかと全員で顔を見回しているとジャック・アールグレイが「私は知らなかった」と独り言をつぶやく。
するとジャック・アールグレイの影から小柄の体をしている闇竜がヌルリと現れる。
エアロードとは少々違い首が長くなく、全身的に筋肉質だがそれでも竜というより人に比較的近い骨格をしているとともう。
聖竜がまだエアロードに比較的近い体格をしていたのに対し、こっちは見たことがない独特の体格をしている。
そんな闇竜が現れるとジャック・アールグレイの独り言が闇竜に向けられているのだとはっきりわかった。
「魔物化した人間が亜人だと何故教えなかった?」
きっとその言葉の奥には「高値で売れる可能性が…」という本心があるのだと思うと全員からトゲトゲしい目線が向けられる。
そんな視線など知ったことかと無視しながらジャック・アールグレイの問い、その問いに闇竜はアッサリと答えた。
「言っておくが魔物化した人間が自我を保てるなんてそれこそ運だ。それに一歩間違えれば自分が魔物化する可能性があるのに金になると? 魔物化したら処分代や管理代にも金がかかるぞ」
「ならいい」
本当に一貫して「金」を貫き通す奴だなと感心するが、どうやら闇竜とジャック・アールグレイは完全に「金」という共通点で動いて契約しているらしい。
厄介な存在がダックを組んだものだと内心めんどくさがってみるが、そんな気持ちが届くわけがなくただひたすらにエレベーターへと目指す。
よく考えてみるとこの珍妙なパーティーで動いているという真実が中々受け入れられないものがあり、時々現実逃避したくなる。
目の前までやってきたエレベーターは予想以上に大きく、人が五十人とか規模でも余裕で入るのではと思われる大きさがあり、俺達は中に入った状態でエレベーターを操作して最下層を入力する出入り口が閉まり下へとゆっくりと下降しはじめる。
ここでようやく息を吐き出す俺達。
「これだけの施設を造るのにどれだけの金がかかっているのでしょうか? 向こうの大陸の闇といってもいいのかもしれませんね」
ケビンが降りていくエレベーター端に身を委ねているとそんな事を呟く。
たしかにそうかもしれない。
少なくともこの研究都市にはガイノス帝国はそこまで関わっていないという話だし。
「向こうの大陸とは言うがな。あっちはあっちで一種の闇の集まりだ。それこそ向こうで住めばよく分かるさ。人が売り飛ばされる事なんて日常茶飯事だ。それこそ目立つよな大きな戦争こそ存在しないが小さな小競り合いなら結構頻繁に起きているぞ。それも全てはこの研究都市の運用資金という裏の事情がある」
ジャック・アールグレイが語る向こうの大陸の裏事情。
「俺も聞いたことがあるな。ガイノス帝国と共和国の戦争のように大きな戦争こそ経験してこなかったが、あそこは独自の戦争文化があり、今でも小国が生まれては消えると繰り返していると、それ故に難民の数は増大する一方だとか」
ギルフォードが思い出しながら告げる言葉、それを誰が教えたのかは知らないが、それだけ酷い状況なのだろうか?
そしてそれを誘発している可能性のあるこの研究都市はある意味闇の1つではあるのだろう。
こんな事で闇が解決できるわけでもない。
今はそんな事を考えないようにと心がけていると突然エレベーターが止まって四つある扉の内北側の扉がゆっくりと開き始める。
全員で警戒していると真っ暗な格納庫のような広さのある空間、ジュリがエレベーターの操作端末を調べる。
「駄目みたい。ここから更に下の階に行くためにはカードキーが必要だって表示されてる」
「ジュリ。カードキーの場所は?」
「えっと………北の管理区画で発行できるって書いてある。そこから真直ぐ進めば辿り着けるけど…」
結構の広い空間なので油断していると方角を見失いそうになりそう、ここで全員で動くのはあまりいい行動とは思えないので、ここを守る人間とカードキーを発行する人間に分かれるべきだろう。
「ジュリ。カードキーの発行には特殊な手順がいるのか?」
「ううん。端末を操作するだけ。ちょっと時間が掛かるらしいけど……それだけだね」
さて誰が行くかだが……まあ俺が代表で行くとしてこういう時に楽をしたがるジャック・アールグレイは最初っからあてにしない。
ジュリとレインちゃんが残るのならギルフォードも残るべきだし、レクターを連れていくと足を引っ張ろうとするのでここに置いて行くとして、俺と海とケビンのパーティーでカードキーを手に入れると決めた。
バルグスは体の確認を竜達とするためお留守番。
レクターがギリギリまで駄々をこねていたが、俺は全てを無視して進んで行くことにした。
軍用車のような車やクレーン車などまで様々な車が置かれており、こんな車を何に使うのだろうかと少し考えてみる。
「あのエレベーターで上まで行くって事ですかね?」
海の素朴な疑問に俺とケビンは「多分」と答えるしかないが、あのエレベーターは更に上層へと進むことが出来るという事だ。
しかし、このフロアは重役会議などが行われる区画でこんなものを置いておくフロアだとは思わなかった。
一台の車を覗き込むと乗らなくなってかなり時間が経過しているようで、埃が目に見えて積もっているのがよく分かる。
「一年……下手をすれば二年以上かもしれないですね」
「ええ。しかし、少なくともここは人が頻繁に来ていたのかもしれませんね」
「もしかしたら……ここは研究都市の重役たちや他の人達の宿泊施設何かもあるかもしれないな」
なんて思っていると俺の肩に乗っている小人が必死になって左側を指さす。
何事かと三人で見てみるとそこには唸り声を上げる人型の影が一人立っていた。
陰から出てくるとぱっと見は中世時代のヨーロッパの兵士を思わせる服を着ているが、その顔は真っ青なゾンビのように見える。
明らかに普通の兵士とは違うその化け物に俺は容赦の無い攻撃を浴びせる為緑星剣を召喚した。
「刺殺の束!」
剣の束といってもいい攻撃が化け物の体を粉砕し、再生されないことを確認すると更に奥からドンドン物音を聞いて集まってくる化け物が群がってきた。
「ゾンビ映画かよ! そういうのはフィクションだけにしとけ!」
「そんな事を言っている場合ですが!? 今は走りましょう!」
「二人共こっちです!」
海に指さされるまま走り出し、三人は比較的足の遅い化け物から逃げる。
一体一体は大したことは無いが、数がとにかく多いという事もあり出来れば戦闘をしたくない。
走り出していると光の小人は柱を指さし、まるで「向こうに行った方が良い」と告げられているように思えた。
いままでこの子に助けられたことを想うとここで逆らうのはあまり良い選択肢とは思えない。
三人で指さしている方向へと走っていくとそこにはマンホールのような出入り口があり、俺は勢いよく蓋を開けるとケビン海の順番で入っていき、俺は最後にマンホールの蓋を閉めながらゆっくりと梯子を下りていった。