神 3
ドーム状の建物中に入っていくとギルフォードは迷うことなくある排気口を指さし、俺達はげんなりした気持ちを抱くが、そんな中ジュリだけは胸元をそっと抑えながら小声で「入るかな…」なんて言うと、その隣にいるケビンが断崖絶壁のような胸元を触れて儚い表情を浮かべる。
なんか泣けてくる状況だが、下手に表情に出せば間違いなく女性陣からの批判を受けるので黙っていることにし、そんな二人に挟まれているレインちゃんはよく分かっていないように二人を見比べている。
この状況で唯一空気を読もうとしない馬鹿がいるのだが、あえて抑えようとはしない。
その馬鹿は排気口とジュリの胸元見比べて……。
「何なら俺が抑えようか?」
などという俺に対しての宣戦布告を口にするので俺はレクターの喉元に緑星剣を当ててから「何か言ったか?」と脅しかける。
「ジュリお姉ちゃんは胸が大きいのが悩みなの?」
レクターの所為でレインちゃんに余計な事を勘づかれてしまい、ジャック・アールグレイ以外の男性陣はどこか気まずい雰囲気に頭を悩ませる。
この場合何を言ってもケビンを傷つけてしまう結果になるし、かといってこのままの状況を続けると間違いなくケビンの体力は零になるだろう。
「ケビンはその辺悩まなくてもいいよね」
この馬鹿レクターはこの状況でも空気を読もうとしないのか、ある意味凄い根性だとは思うが、その後に繰り出される光の速度のストレートパンチを軽々と避けるレクターを見ると真似したいとは思わない。
ジュリはそんな会話劇の傍らで顔を真っ赤にしながら俯いており、その中でいつも通り排気口へと入っていくジャック・アールグレイは別の意味で凄いと思う。
サクサクと進んで行くジャック・アールグレイに続けとギルフォードと海が入っていき、俺はその後に続くようにと入っていく。
結局の所でジュリが入れたのかどうかは分からなかったが、後ろの方からジュリとレインちゃんの会話が常に聞こえていたので入ったのが分かったが、会話がなんとなく厭らしい内容に寄っているような気がする。
どうもジュリは胸が大きくて引っ掛かりそうだと言っているようだ。
俺の後ろを歩くレクターが想像しているような下種な声を上げ、俺はそんなレクターにケリをお見舞いして「少しぐらい真面目に働け」と釘を刺す。
「どうもこんな狭い場所は好きになれんな」
などと今更な事を呟くジャック・アールグレイにギルフォードは「だったら引き返せ」と不満げに口にする。
たしかに今更な話だと思うし、ここまで来て引き返すなんて言わないで欲しい。
「人間は面白い場所を造るのですね」
「レクトアイム。これを面白い場所と思うのはお前ぐらいだと思うぞ」
エアロードがレクトアイムの言葉にきっちり突っ込みながら二足方向でスタスタ歩くのだが、なんというか羽が邪魔で前が見えないと突っ込みたい。
「ここ以外に場所は無かったのか?」
ジャック・アールグレイがそんな風に思ったことを口にするのは良いとして、自分が見つけた場所にケチつけられている事に不満げに思ったギルフォードが一気に黙り込む。
「そう思うならあんたが事前に調べておけばいいだろうに。くだらない事ばかり調べて肝心の時に役に立たないくせに」
「おやおや。ソラ・ウルベクト君は私にしてやられたことを根に持っているようだ」
「どうでもいいが俺や海を挟んで言い争いをするなよ」
ギルフォードが俺とジャック・アールグレイの言い争いを鬱陶しそうに遮り、ひたすら前に進んで行く状況に俺の後ろのレクターがいい加減飽き始めていた。
お俺としては真面目に働いて欲しいのにこういう状況で飽きるのはレクターらしいと言える。
「飽きた! 何か面白い事を要求する」
「自分の変顔でもしていろ」
「………これの何が面白の?」
「鏡で自分の顔見ると面白いぞ……多分な」
レクターが鏡越しに自分の顔を見たのだろう、足の止まったレクターを鬱陶しいと感じているケビンの声が聞えてきた。
普段以上に苛立っているのは先ほどの胸事件が関わっているに違いない。
「足を止めないでください!」
俺は付き合っていられないのでスタスタと前を移動して行くと、ようやくの思いで排気口から出ていくとそこは真っ白なステージが広がっていた。
ここから大変そうだなっと思っていると周囲の景色が突然変わっていき、あっという間にガイノス帝国帝都をイメージしたようなフィールドが現れた。
「侵入したことがバレたようだな。まあ、今更だとは思うがな」
ジャック・アールグレイは対処の遅さにあきれ果てているが、俺としては機械なのにこんなにも対処が遅れていることに驚いていた。
「機械が管理しているくせに対処が遅れるんだな。何か納得がいかないが」
「そういえばそうだね。機械が管理しているんならむしろ管理は完璧に近いんじゃないかなって思うけど……思い込みかな?」
ジュリも同じ気持ちであるらしくふと悩み始め、皆が歩き出すと俺達も歩き出す。
「いくら街を複雑化させても、出入り口を完全に隠せるわけではないでしょう」
ケビンが歩きながら呟く言葉にギルフォードが同意する。
「ああ、あのダメージはおそらく投影装置自体にもダメージがあったはずだ。おおよその距離は覚えているから問題がありそうな場所を捜索すれば簡単に……」
そこまで言った所で周囲に見慣れた人たちが立ち塞がった。
なんというかここまで来ると父さんの顔を見るのも飽きてきて、一か月は見ないで済むとありがたいと思うほど。
「なんというか……見慣れてきたなこの顔にも」
「そう思うほどお前はこの男の顔を見ているわけじゃないだろ」
俺が呟きたいツッコミをギルフォードがきちんとジャック・アールグレイにしてくれたので、俺は緑星剣を構えながら走り出す構えを取る。
「レインちゃんはギルフォードが、ジュリは俺が抱えるから走りながら目的地まで急ぐぞ」
全員が黙って同意し、その中でレクターだけが物足りなさを感じたらしく不満げな顔をしている。
「何でお前はこっち側なんだろうな。ほんと……今回は足を引っ張ろうとするな」
「前回も一緒に常に行動していたら足を引っ張った!」
そういう話をしているんじゃない!
足を引っ張るなって話をしているんだといい加減学んで欲しい。
「あなたはどうしてこんなバカな男を友人にしているんですか?」
ケビンは当たり前の疑問を俺に向けてくるが、そんな事俺こそ教えて欲しい。
人間付き合ってみないと分からない事って多くあるんだなってレクターから学んだ唯一の項目だったりする。
「どっちの方向だ?」
ジャック・アールグレイの問いにギルフォードがレインを担ぎながら走り出し、その後にジャック・アールグレイを始め皆ついて行く。
俺はジュリをお姫様抱っこしながら走りっていき、ジュリはそんな俺に「重くない?」と遠慮気味に尋ねるので「軽いぐらい」と返す。
群がる武術大会参加者と父さんの軍勢を前に全員が「逃げる」という選択肢を取り、とにかく走って距離を取ろうとする。
分かり切っている事だが、この数を相手にしたらきりがない。
常に場所を移動している場合移動ルートを予測されそうだが、敵はそういう配置をしない。
「やはりな。どうも監視システムに不具合があったか、他の部分に演算処理を分けているから移動ルートの予想が出来ていないようだ」
「ジャック・アールグレイの言う通りだな。多分聖女アンヌの実験に演算処理を奪われているんだ」
俺とジャック・アールグレイが話ながら移動していると、ギルフォードがある建物を指さした。
「あそこ周辺のはずだ!」
どうやら進入路が近づいて来たらしい。