白紙の未来を恐れる者 5
明日決行する作戦の為に今日はもう解散しようという話になり、俺は海と共に解散する前に師匠に頼みごとをするためにサクトさんを連れて一緒に話しかけた。
師匠は何事かと多少なり表情を歪めていたが、海からの頼みごとに心底困ったような顔をしてしまう。
ここまでは俺の予想通り、俺はサクトさんを前に押す。
「一日ぐらい私が引き受けてあげるわよ。こんな時にまで仕事優先にしていたら家族が離れていくわよ」
そう言われると弱い師匠はアッサリと引き受けることにし、少しだけ嬉しそうにしている海をしり目に俺はこっそりとその場をあとにした。
あとは家族の話だし俺が出来ることじゃない。
俺はジュリと共に指令室を出ていった。
二人で歩きながらホテルへの帰宅ルートに出ていると後ろから迫りくる竜の一団が分かったのでは俺はジュリを抱きしめながら回避行動をとる。
俺が先ほどまで居た場所にエアロードが突っ込んでいくので俺はそれを冷静に見守り、その後に続けとばかりにシャドウバイヤとレクトアイムが現れた。
三人の竜に「何事?」と尋ねると、エアロードが追いついてきて「おいて行くな!」と叫んでくるが、俺としてはいつ終わるか分からない話し合いを待つつもり何て存在しなかった。
「いつ終わるか分からないお前達の話し合いを待つ気なんて存在しないんだけど。で? 結論は?」
「……最低限は協力するが、あくまでもそれぞれの契約者を守る事を優先する。これが答えだ。前の海洋同盟の時のような協力はしない。これが答えだ」
俺は「ふ~ん」といいながらそっとレクトアイムの背中を見るとそこには竜達の旅団の模様が付いているのが分かった。
多分だけどダルサロッサにもついているんだろう事は簡単に予想が付いたのであえて言及しない。
「要するに協力してくれるって事でいいんだな? 最低限なりに……それは良いが、あの場にはヴァルーチャがいなかったが度するつもりなんだ?」
「そこは本人に任せる。そこは自主参加だ」
「たぶん私が行くって行けば最低限ついてきてくれると思うよ。私に死なれると困るって言っているし」
その言葉の裏にある食欲を想えばなに1つ羨ましいとは思わないが、それでも今参加できる竜達は最低限でも参加してくれるという事で良いしよう。
「相手がどう出るのかそれがまるで理解できないという点だが、こればかりは明日を迎えてからのお楽しみだな」
機械が相手となるとそれこそ人間と違ってどういう手段で来るのか今の所完全に読み切れない。
感情で動くわけではない機械に人道的なんて言葉は存在しない。
あくまでも効率性を重要視する機械の考え方、それがいかんなく発揮されるだろう一戦が考えられる。
「レクトアイムは聖女アンヌの居場所が分かるんだよな?」
「ええ、この街の中心から地下に進んだ先ですね。この街に来てからはっきりと感じるようになりました。私の力の欠片を持っている人間の存在」
聖女アンヌは間違いなくこの街の地下に今もおり、何か実験に使われていると想定できる。
早めに救出するべきなのだろうが、準備を起こったっていると痛い目を見る。
状況が見えない中で無暗に動く者じゃない。
「神を造る……最初は帝国に勝つ為だったのに共和国が負けて以降も実験を行うんだ。もう一種の暴走状態なんだろう。最初に入力された命令だけを忠実に守るだけの機械」
「それでも守っているんだよね? 多分それが存在理由なんだよね」
最初の命令に忠実に、それが途中で上書きされることも許さず結果暴走した機械をそのコンピューターを造った人が知ればどう思うのだろう。
独自に進化した知性に興奮するのか、それともそんなものを造ってしまったと後悔するのか。
実際に聞いてみたいところはある。
その人に関わらず後の歴史に影響を与えた兵器や道具を造った人間は何を想って作り、後の世を知ればどう思うのだろう。
「魔導機を造った人はどう思ったんだろうな。こんな兵器が後の世にまで影響を与える兵器になったなんて知れば」
「もとは帝国が魔導三国と共に開発した対共和国用の兵器だったんだよね。共和国は呪術を使って鈍いというべき影響力を世界中に広げた。それは多くの人の命を奪い、その人や家族や周囲にいる人の運命を変えていった」
その過程で犠牲になった人、その後に影響を受けた結果犠牲になった人などたくさんだ。
そういう意味では共和国が世界に与えた影響、帝国が世界に今なお与えている影響は非常に大きい。
「帝国もそうだけど共和国が与えた影響って本当に大きいんだな」
「そうだね。今の世界だって今思えば帝国と共和国が戦争したことがきっかけだし、革新派がソラ君たちを呼んだのも……」
「共和国との戦争がきっかけだしな。共和国の攻撃で故郷を奪われて者たちが帝国政府に逆恨みしたことがきっかけ何だよな」
そういう意味では帝国政府だってある意味俺の人生に最大の影響を与えたのかもしれないが、それこそそんな逆恨みが意味の無いことだって俺は知っている。
何よりきっと堆虎達はそんな事を求めないだろう。
師匠はきっと俺に軍人になって欲しいのだろうし、もしかしたら父さんも口には出さないけどそう思っているかもしれない。
「俺って軍人が合っているのかな?」
独り言のように呟いた言葉にジュリが言葉を選ぼうとしているが、そんな俺に「知らん」とエアロードが偉そうにふんぞり返る。
「お前が軍人が合っているかどうかなんてどうでも良い事だろ。肝心なのはお前がどうしたいかだ。ただこれだけは覚えておけ………お前は師匠と呼ぶあの男からの意思をお前が受け継ぎたいかそれが一番大事だ。人間の一生は短い。だからこそ誰かに意思を託すことが出来るのだから」
時折カッコいい事を言うエアロードが本当にマシに見える瞬間だが、たしかにそれはそうかもしれない。
問題なのは俺が師匠の意思を受け継ぐことで、それをするつもりがあるのかどうかだろう。
「何をウジウジしている。お前がしたいと思う事に正直に、お前が成したいことを真っ直ぐに成せばいい。前に言われただろう? お前の心のままに……だ」
そうだった。
俺の心のままに進む事、それが大事な事なんだと堆虎達が教えてくれたんじゃないか。
メメントモリは最下層にある部屋の中へと入っていく、最後のドアの鍵を開ける為に非情に手間取ってしまったが、ようやくの思いで見つけ出したパスコードの番号。
機械の体であるメメントモリにとってコンピューターで支配されているこの街の中で自由に動く事なんて造作の無い事。
「080702338475」
『認証システム解除。入室を許可します』
「やれやれ……全くセキュリティ意識が高いコンピューターだ。どうせ誰も侵入しようとしないくせに」
一人愚痴のようにブツブツと呟きながら最高機密の部屋へと入っていくと、中に広がる光景の狂気さ高笑いが出そうになる。
部屋の壁一面に広がるカプセル一つ一つにはこの街で過ごしていたスタッフがおり、今こうしている間も次々と人が運び出されている。
その人の中にはソラ・ウルベクトの父親『アベル・ウルベクト』の姿があり、カプセルに入れられている人は心地よい夢を見ている。
「人を管理することで平和にって事か? ははは……これだから劣化した機械は困る。しかし、あの女性は大したものだ。危険を感じて事前に娘を連れて逃げるとは。しかし、壮観な光景だと思わないか? キューティクル」
「私は面白くないけどなぁ。なんで私がここにいるって分かったの?」
「………面白そうな場所に現れる。それが君だろう?」
「いいねぇ! 遊ぶの?」
メメントモリは振り返り「勿論」と呟いた。
それを聞いたキューティクルは悪魔のような表情を浮かべていた。