白紙の未来を恐れる者 3
研究都市に帰るとレクトアイムはちょっとしたカルチャーショックを受けており、ジュリが「ちょっとだけ周囲を見てからでいい?」と聞くので俺は「どうぞ」と進める。
レクターが後方からちょっかいをかけてくるが、俺はそんなレクターに無言の圧を送って反応し、レクターは常に面白い事を求めようとする。
後で師匠たちから説教してもらうから俺はここでは我慢。
整備士さん達に明日の作戦でもしかしたら使うかもしれないと告げてから空港を離れ、空港前で待ってくれていたジュリ達と合流。
すると海がソワソワしていることに気が付き何事から聞いてみた。
「いや、奈美はどうしたかなって。悪影響を受けていたって話だし。父さん達に任せたっきりだし」
なんていう海は少々面倒見が良い気がするが、さすがに彼女に冷たい態度を取る様な男ではない。
「母さんもいるし大丈夫だろ。母さんは俺と同じで影響受けていないって話だし」
「そうですよね。出来ることなら奈美には帰ってもらった方が良いんでしょうけど。前の時は強引にでもついて行ったから」
「まあ最悪は強制帰宅だな。というか母さんが許さんだろ」
ああ見えて奈美に異常が起きた場合周囲が困ると分かっているので、母さんはそういう場合は奈美を遠ざけようとする。
大体奈美は駄々をこねるが、母さんが本気になった場合逆らう事が出来る人間なんて誰もいない。
「今頃強制帰宅の命令が出て強引に帰宅させられていたりしてな」
なんて冗談を言って空港から近くの露店でも見て回っていると、笑っている俺と海の視界の端に駄々をこねる奈美と、首元を掴んで強制帰宅に入っている母さんが見えた。
ヤバイ冗談じゃなくなった。
速やかに連れて帰っていく奈美が少し可哀そうに見えるが、このままここにいても状況が悪化するだけなので帰ってもらった方が良いだろうが、どうせなら父さんも連れて帰ってもらって欲しい。
そんな事を言っても母さんが聞かないのでここは黙って見送る。
バレないように見送る。バレたら奈美の駄々に巻き込まれるので。
「いても戦力にならないからな。困るぐらいなら帰そうって母さんが決めたんだろ。奈美が役に立つ時や、本人がそう決めたのなら母さんは返さないだろうけどな」
「そうですね。前の時は奈美自身がそう決めたというのが強かったですし」
「まあな。今回はイリーナも居ないからやめておいた方が良いな。そうだ。来週帝都でアリーナライブがあるらしいんだけど。俺達家族はちょっとだけ用事が合ってな、二日ある予定の内最初の一日はいけなくなったんだ。良かった海と師匠たちで行ってみないか?」
じつは先週帝都で行われる予定のライブチケットをイリーナからもらったのだが、二日分のチケットのうち初日だけは家族で帝都近郊に完成したテーマパークに遊びに行く予定になっておりどうしても行けなくなった。
母さん達とどうするかと悩んでいた時強引に渡されてしまった。
「師匠に何か俺なりに恩返しを考えたいた所だし、海も家族と上手くいっているみたいだからな。行ってきたらどうだ? 師匠も仕事漬けじゃ疲れるだろうしな」
「ソラ………じゃあ」
俺は海にイリーナのチケットを手渡し、海はそれを嬉しそうに受け取るとポケットの中に入れていく。
「家族で楽しんでな」
「でも、父さん休めるかな」
海が心配するのはよく分かる。
あの人何かにつけて仕事で忙しくそれもあってあまり家族仲がよろしくないはずだ。
海の肩を叩きながら「俺に任せておけ」と言う。
「俺にアイディアがあるから」
俺達の前を歩くジュリとレクターとレクトアイムは楽しそうに周囲を見回しているが、その足が急に止まる。
俺と海が追いつき「どうした?」聞いたのだが、俺と海の目の前にも分かりやすいぐらい目立つ奴を見つけ出した。
腹一杯にしてテーブルの上に寝っ転がっているエアロードと呆れているシャドウバイヤ。
なんというか予想通りの行動をとる奴だなっと感心するが、取り敢えず説教かなと接近するが俺より早く動いた竜が一人。
レクトアイムは久しぶりに会うであろう二人に接近していく、一番に気が付きエアロードから距離を取るシャドウバイヤ。
隣に立つまで気が付かなったエアロードは顔を青ざめながらいないはずの幽霊を見るような目で正座をする。
「多少形人の目を気にしたらどうですか? 話に聞いていましたが、あなたは少々自由気ままに生きているようですね」
「あ、あの………何故生きているので?」
「先ほど生き返ったのです。それより……どれだけ食べたのですか? 食い意地だけ張ってあなたは!」
レクトアイムの説教は結構効くらしく、あのまま任せておいていいだろうと俺はシャドウバイヤを呼びつける。
「で? 何なんだこの惨状は。俺達がレクトアイムを生き返らせている間に何していた」
「竜を生き返らせる方法があると聞いたことがないが?」
「レクトアイムだからこそらしいけどな。で? 何をしていたんだ?」
「エアロードが腹減ったと五月蠅いからな。お前の母君からお金を貰って今まで食べていたんだ。あいつ食い意地が強くてな」
全くと思いながらも俺は呆れてしまう。
部屋で大人しくしているヴァルーチャやギルフォードについて行っているはずの炎竜辺りを見習って欲しい。
まあこれ以上五月蠅く言うつもりも無いけどな。
「今から父さん達と合流するけどどうする?」
「そうだな。暇だから合流してもいいかもしれないな」
レクトアイムの説教が終わるのを待ってから俺達は一旦ガイノス帝国軍の拠点へと移動して行った。
到着して師匠たちがいるであろう指令室を探し出してから中に入ろうとすると、出入り口一帯でケビンやギルフォードが固まってまま動こうとしない。
俺は何事から覗き込むと、師匠が父さんを殴り倒した瞬間であり、死闘を制したのはどうやら師匠だったらしい。
師匠が父さんを鎖で亀甲縛りをしてその場にそっと放置、俺達からすれば多少見慣れた光景に近いので俺と父さんを踏みつけて奥に入っていく。
ジュリと海とレクターは遠回りしてから指令室に入っていく。
「これがお前達の日常なのか?」
ギルフォードがドン引きしているが気にしない。
「お帰りなさい。そして、初めまして癒竜さん」
「初めまして。レクトアイムとお呼びください。なんでも私の協力が必要だとか。私で役に立てるのなら力を貸しましょう」
サクトさんに事の成り行きを説明した後、俺はレクターが役に立たなかったと告げてみると、案の定レクターが後ろでぎゃあこらとうるさい。
俺は決してレクターの方を見ないように圧を強めていく。
俺とジュリだけが気が付いていた真実を今こそ開示するとき。
「確かにお前は虫が嫌いだ。なんだかんだ言って付き合いの長い俺とお前の関係だ。でもな……お前虫に触りたくないってだけで悲鳴を上げたりしないよな?」
「……………」
「悲鳴を上げて化け物をおびき寄せたり、気絶して足を引っ張ったり、腰回りに引っ付いて邪魔したり、挙句の果てには吸収されそうな時に飛び掛かって妨害する。これ………お前がわざとしていた事だろ」
「……………」
この男。
たしかに無視が嫌いなのは間違いない事だが、ここまで酷くはない。
「お前………暇だからとかただ思い通りに事が進むのが面白くないからなんて理由で俺達の足を引っ張っただろ」
「……………はい!」
「サクトさん。あとはよろしくお願いします」
俺はサクトさんにバトンタッチしてからその場をあとにすることにした。
説教されて多少なり反省してくれればいいと思うだけだった。