未来を掴め 9
海に俺が飛空艇で教えた師匠である『アックス・ガーランド』が妙案した重撃移動術『飛永舞脚』を海へと伝授した。
海は二時間にも満たない時間の中で海は習得し、自分だけの型に組み込んだのだろう。
やはり海は天才だろう。
俺は師匠の見た技を見様見真似で真似て、そこから何とか三日教えを受けてようやく完全に伝授に至ったが、海は二時間で完全習得に独自に発展して見せた。
元々師匠自身が言っていた事だが、父さん事『アベル・ウルベクト』は武術分野において天才のような才覚を持っており、師匠は俺にも受け継がれていると言ったが、こう見るとやはり師匠であるアックス・ガーランドの息子である海・ガーランドにも同じ才覚があるのだとハッキリと自覚させる。
父さん達の世代はおかしい人間がたくさんいるのだろうか?
と師匠に聞いたことがあるが、師匠からは「お前達の世代にだけは言われたくない」と反論を受けてしまった。
俺とレクターがおかしいだけなんだと言っても聞いてくれない。
しかし、俺と海でもう少し時間があればコンビネーション技でも考え付くのだが、さすがにそんな時間は存在しない。
「ちゃんと特訓していたみたいだな。直ぐに飛永舞脚を完全習得するとは」
「ソラの教え方が良いんだよ。それに師匠と一緒に特訓してから毎日反復訓練してきたから」
「よくあの人の理解不能の説明で特訓が出来るよな。俺はよく分からないんだよね。擬音説明を止めてくれるとありがたいと思う」
父さんは擬音で説明する上、分かるまで体に叩き込もうとするので非常に厄介。
何回か説明を受けたことがあるが、どれも理解するのに物凄く時間が掛かってしまう結果に。
「ソラ君のお父さんなんだからそんな事を言っちゃいけないよ。海君は元々頑張り屋さんだもんね。ソラ君以上かも」
「ああ、それはあるな。レクターみたいに努力を趣味にしている人間とは違って、自分の目標に向かってひたむきに努力するタイプだからな」
俺とジュリが話していると海は顔を真っ赤にしながら照れていき、レクターはまるで俺の腰回りから手を放してくれない。
いい加減話してくれないと物凄く困る事になる。
先ほどの戦闘音もそうだし、結構派手に暴れ過ぎたと考えていたので、そろそろ移動したい。
「いい加減離してくれないか? そろそろここを離れたい」
レクターが俺に向かって目で「無理」と告げるのだが、無理と言われてもいい加減動かないともっと獰猛な生き物がやってくる。
勿論レクターがそれで良いのなら最悪囮にするけどさ。
「いい加減奥に進むぞ。それでなくてもお前の戦闘音の所為で化け物が集まってきかねないわけだしな。ムカデの化け物やサソリの化け物とここで戦いたいのか?」
「何でそんな毒虫ばっかり上げるんだよ!」
「いいや二メートルや三メートルクラスの生き物になると蝶々や蛾ですら毒虫に見えるからさほど変化がな」
「そういえばソラはここに一度父さんと来たことがあるんですよね? ヤバイ敵とか分かるんですか?」
「そりゃあな………一番やばかったのは前に師匠が倒しているから大丈夫だろうが、奥に行けば鉢会う事になるだろうけど今は考えなくていいよ。それより……」
俺は真直ぐ一つの方向に指を指すとそこには鉄のような装甲を身に纏い、大きな二つのはさみと鋭い針の付いた尻尾がチラチラと覗かせる真っ黒なサソリ、体長だけでも三メートル近くも存在しており、木々を挟みで切り倒しながらこっちに近づいてくる。
レクターが悲鳴にならない声を上げており、俺からジュリの腰回りに移るのだが俺は一気にレクターに対して殴りたいという気持ちが湧き上がってくる。
海が俺を諫めるので俺も一旦それを止めておくことにし、ジュリに自分の身の回りの防御だけに集中してもらい、俺と海はアイコンタクトを合図に走り出した。
「あのサソリは機動力がそこそこある。挟み攻撃は正面しかできないが、油断して左右の攻撃に集中していると針の攻撃が来る。まずは尻尾を切り落とす」
「はい!」
俺は竜撃風の型を繰り出し、風による遠距離斬撃技を二連撃をサソリの正面にぶつけ砂埃を上げながら俺と海は大きく左右にまわる。
俺は左側に、海は右側にまわるとサソリは右ハサミで近くの木を俺めがけて投げ飛ばす。
一回ジャンプして跳ぶ木の上を走りながら風の斬撃を纏わせながら切り刻む。
「竜撃風の型! 風花乱撃!」
「牙撃我流! 四閃!」
俺が木を粉々にしている間に海は刀で尻尾を斬り通そうと四撃を叩き込む為、まず一撃目で挟み攻撃を捌き、その直後に尻尾から繰り出される攻撃を裁こうとするのだが、俺は嫌な予感がして軌道を急遽変える。
その予感はまさしく当たり、尻尾は攻撃軌道がそれ、海の胴体へと打撃攻撃に変更する。
海の体が少し後方にある木衝突し苦しそうに悶えていると、俺は走り出してからサソリの尻尾攻撃を緑星剣の腹で受け止める。
「ソ、ソラ!」
「直ぐに立ち上がれ! 反省も後だ! 俺が囮になるから尻尾を確実に斬る事だけを考えろ!」
海の「はい!」という声を合図に俺は尻尾を弾いて、右手を前に突き出す。
「出ろ! 太陽の鏡!」
俺の声を合図にして俺の右手の甲から太陽の鏡と呼ばれる鏡の欠片の集まりが現れる。
太陽の鏡。十六の鏡の少々であり、一枚の大きな鏡は粉々の状態で扱う事が出来、一つ一つの集まりを俺は精密に操作しなくちゃいけない。
今の俺には十六全部を操作するのは一分も持たないが、一枚二枚だったら簡単だ。
俺が操作する鏡は海の姿を一瞬で消し、俺はそのまま挟み攻撃を弾きながら胴体の上まで移動。
サソリは尻尾による打撃攻撃に切り替え、俺はそれを鏡の勢いだけで相殺する。
そのまま体を捻ろうとするサソリの体を今の位置に固定する為、一旦地面まで降りてから土の型で最も重い一撃を側面に食らわせる。
サソリから呻き声のような声が漏れ出し、サソリは怒りの満ちた色の瞳を俺の方に向けそのまま感情乗った尻尾の針による刺殺攻撃を三連続で振り下ろし、更に左右のはさみを使った攻撃を緑星剣と移動術だけで回避する。
これだけ時間を稼げればいいだろうと俺は尻尾攻撃の射程に意図的に入り込み、攻撃をギリギリまで見切りながら回避する。
そのまま突き刺さった尻尾を見えないほどの速度で切り落とし、そのままついでのように右ハサミを切り落とす海。
そのまま振り返りながら海は今までで最高の一撃をサソリの側面に叩き込み、サソリはもう一度呻き声を上げ、俺はそのままサソリの真上に落ち立ち剣に風の斬撃を纏わせて縦に一回転斬りかかる。
「竜撃風の型! 風車」
そのまま真っ二つにしたサソリから飛び降り、俺は海へと近づいていく。
「攻撃に集中するあまり敵の攻撃に気が付かなかったのはアウトだが、その後の切り返しの良さと攻撃はマルだな」
「ソラのサポートが無いと勝てなかった」
「それでいいんだよ。俺だって師匠のサポートを得ながら戦ったんだから。今日は俺を支えて欲しいし、俺達もお前を支えるから」
黙って頷く海に「がんばれ」と送りジュリの方を見ると、レクターはジュリの体に強めに抱きしめながら顔面蒼白の状態だった。
いい加減殴ろうかなという思考へと移ろうとするが、ジュリが「もう先に行かない?」と話を流そうとする。
俺としてはこの話を流したくない。
しかし、また新しい化け物がやってきても困るので一旦前に進むことにした。
ていうか意外とジュリは大丈夫そうですね。
俺はジュリに抱き着かれる展開を多少は期待したのだが、案外拍子抜けする展開だったりする。