未来を掴め 1
真っ暗な空間に一人佇んでいると思っているとどうやらここに俺の肉体は存在しないらしい。
その代りに俺はエメラルドグリーン色の竜を象った鎧事『星屑の鎧』に俺の精神だけが収まっている状態。
なので何を動かしていても感覚が存在しない。
だがこんな場所に俺は心当たりが存在しない、というより俺は前後の記憶が存在しない。
最後の記憶は師匠の所で明日の予定を話しているところだが、あの時点ではまだ夕方だったはずなので寝ている最中という事は……たぶんない。
問題はこの場所に呼び出した存在である。
俺自身はこんな所に来る能力なんて存在しないし、ましてや『異能殺し』と呼ばれている俺に異能は通用しないはずなので、これは異能を超えた存在による現象でしかない。
最初は聖竜辺りを想像したのだが、こんな場所に心当たりがまるで存在しないのでどうも見当が付けずらい。
俺が頭を捻っていると目の前に淡い光が浮かび上がり、俺に近づいてくる。
人が人なら悲鳴を上げて腰を抜かしているところだが、残念なことに俺にそんな感性が存在しないので単純に知的好奇心が勝ってしまう。
日れてみてもいいのだろうかと思っていると淡い光は俺の目の前で一旦止まり、光を強めるのかと予想しているとそれ以上に普通にしゃべり始めた。
「ソラ………ウルベクト」
どうやら俺の名前は知っているらしいので一旦安心、しかし、目の前にいる存在が研究都市がよこしてきた新たな敵という可能性が非常に高い。
「今回の事態………イレギュラーによるもの……よって我の干渉が……是と判断」
分かり難い喋り方をするので俺は理解するのに少々時間が掛かってしまったが、要するに今回の事態というのはおそらく現在陥っている研究都市での出来事を指しているのだろう。
ならイレギュラーとは何なのだろうか?
「……イレギュラーは……本来生じなかった事態………この事態を放置…それは後の因果への悪影響……と判断」
もうちゃんと言おう。
「もっとはっきりと言えないのか? 分かり難いんだが。こう………ハキハキと喋れないかね?」
「イレギュラーは本来生じなかった事態、この事態を放置すればそれは後の因果に影響を当てることに他ならない」
どうやら普通ではない事態が水面下で進んでおり、それを阻止する為に俺に完勝したのだろうか?
ていうか普通に喋れたのなら喋って欲しかった。
「イレギュラーとはなんだ? 因果への影響とは?」
「全てを説明することは難しく、理解不可と判断。よって現状況で干渉可能な範囲で説明。我は因果律監視機関である。正式名称『Causality Surveillance Engine』です」
「長いからCSEでいい?」
「我は―――――家と―――――家と盟約を結び行く末を見つめる役目にある。それ故にこの事態の放置は役目の放置と判断」
「待ってくれ! 今何って言った? 聞えなかった」
まるでノイズが掛かったように何も聞こえなかった。
「今は干渉不可とする。このイレギュラーは普通であれば干渉することは無かったが、ある事態発生につきイレギュラーが完成した」
「イレギュラーとは?」
「説明不可。しかし、既に答えに近づきつつある」
要するに俺が発見した情報の中にやはり存在したという事だ。
「で? あんたが干渉する範囲ってどの程度干渉するつもりなんだ? その話なら答えは教えてくれないみたいだし」
「………未来演算を戦闘中に使用を許可する。その際に『CSE起動』と告げれば使用を許可する。ただしこの力は今回に限ってとする」
それ以上に悪用するなと安易に告げているのだと判断し、俺は黙って頷く。
「今現在これから起きることを見ることを許可する」
というより使えと命令している。
「CSE起動」
頭の中に急にビジョンがやってきた。
俺はどうやら師匠とサクトさんの難しい話にうたた寝してしまったらしく、ジュリやレインちゃんが俺の後ろ壁際で遊んでいる。
そんな時、ジュリとレインちゃんを襲う形で壁が崩壊し、その奥から見慣れない機械兵器が現れた。
「おい! 今の!」
「これから起きる事態。これを回避しなければ絶望的な未来になると推測」
この力が無かったら最悪の事態を回避できなかった。
急いで起きる必要がある。
目を急に覚ますとサクトさんと師匠が「起きたの?」と俺に告げるが、俺はそんな事を無視して「CSE起動!」と叫んで未来を見る。
走っていかなければ間に合わないと俺は鎧を召喚し、緑星剣を呼び出してジュリとレインの後ろの壁に思いっきり斬りつける。
「竜撃風の型! 縦神」
下から上へと向けて思いっきり剣を振るあげると、壁を粉砕する形で敵が現れた。
ジュリとレインに襲い掛かる瓦礫を俺は同じ縦神を横に使用して全て撃ち落とし、緑星剣に風の刃を纏わせ俺を槍投げの容量で大きな機械の敵へと投げつける。
二人を担いだ状態で一旦敵から距離を取る。
距離を取ったことで分かった存在、二メートルを超える機械兵器で角張ったデザインをしており、六本腕一つ一つがまるでゴーレムを彷彿させるほどに屈強な腕をしている。
気付かなければジュリとレインちゃんが死んでいた可能性すらある。
CSEには感謝しなければならないだろう。
師匠が大剣を召喚し敵に斬りかかり上右腕を切り落とし、サクトさんがその隙に敵の胴体に突撃攻撃を決める。
「ソラ。何故攻撃が分かった?」
師匠の疑問は最もだろう。
敵が接近したことに俺のエコーロケーションですらまるで気が付かなかったのだから。
「後で説明する。それよりこいつを倒そう……」
頭の中に映る映像はまず敵が左真ん中の腕を使って俺めがけて腕を飛ばしてくる。その状態で敵は残りの右腕を使って周囲の機材を壊しにかかってくる。
俺は走り出しまず襲い掛かってくる左腕の攻撃を風の刃で弾き、その状態を維持して周囲の風をドンドン巻き込んで威力を増大していく。
技のビジョンが完成したような気がした。
残った五本の腕による連続攻撃が俺の頭の中にビジョンとして浮かび上がり、俺は風の刃による攻撃を常に増大させながら俺は一気に斬りかかる。
「竜撃風の型! 到達点! 風竜回転演武!」
俺の周りに風で完成された竜の頭部が浮かび上がり、俺は敵の攻撃を全て事前に弾いて行く。
室内を恐ろしい速度で移動して行き、弾く程度だった攻撃が鉄以上の強度を持つ腕を完全に粉砕する。
風の竜が通り過ぎる度にまるで咆哮のような音が室内に響き渡り、俺は全ての腕を破壊してそのまま敵の体に最大の一撃を叩きつける。
敵の体から物凄い悲鳴を上げ、俺はこのままさらに隣の壁を粉砕して敵を粉々にしてしまう。
俺が完成させた竜撃風の型の完成形。
常に攻撃を繰り出し続け、時間が経てば経つほどに威力を増大しながら、身の守りも強固にしていく攻防一体技。
俺が風を巻き集めていく過程で俺の周りに竜の頭部を模したような技、俺が常に体を回転させながら移動して行く過程が演武に似ていると思ったので率直でつけた名前。
結構悪くない名前だったし、俺は咄嗟に思いついたと思ったがよく考えると基本コンセプトは俺が予選時に使った剣と風の流れを使った疑似幻覚術に非常に似ている。
多分あれがきっかけになったのと、無との戦いで掴んだあの多彩な攻撃を潜り抜けようとしたこと、本選時に戦った敵たちとの際に使用した風の型、その全てがこの技の完成に繋がった。
あの武術大会は決して無駄ではなかったのだ。
この技を完成させることができたという意味の大きさは非常に大きいだろう。
元々俺は『風の型』を一番得意としており、同時に風の型はいかなる状況でも活用できる技でもある。
その完成形を造る事が出来た。
そして、CSEが今回の事件限り力を貸してくれたことに俺は心から感謝していた。




