研究都市の闇を暴け 6
ジュリにあそこで食べないと言われた瞬間に俺はそっちの方をジッと見つめると、内心拒絶反応を示してしまいそれが咄嗟に表情に出る。
綺麗な門構えだとは思う。
内装は外から見る限りはよくある洋風のお店で、少々狭く感じるがそれは良いとして中にいる客に俺が苦手な人間がいるから。
ジャック・アールグレイが部下二名と共に優雅な昼食を繰り広げており、俺は首を横に振って拒否反応を示す。
「でも……何か知っているかもしれないし」
「あの男に聞くぐらいなら俺は今からでも研究都市の地下に突撃を掛ける!」
絶対に嫌なのだと意思表示を伝え、俺はレインちゃんとジュリを引き連れて別のお店を探し出す。
レインちゃんは普段からある程度普通のお店で食べているだろうし、高級店行けば驚くだろうから簡単な喫茶店で食べればいいと探し出す。
ようやくの思いで見つけた喫茶店に入り端っこの席に座って適当なメニューを頼んでから水を飲んで一息。
「で? これからどこに行くんだ?」
「この街にはデータだけじゃない歴史上の履歴が残っている場所があるの。そこなら多分この街がどうして作られたのか分かると思うの」
成程……そんな場所があったとは思わなかった。
まあ結局の所で退屈な作業が舞っているのだという真実だけは変わらないので俺個人は内心あまり気が進まないことに違いは存在しない。
「それってパソコンなんかで残っているって事?」
出来ればそうであった欲しいという俺の希望を口にして尋ねるが、ジュリは「書類として」とハッキリと惨酷な事を告げる。
やっぱり書類を探し出さなくちゃいけないのか。
そういう作業は退屈であまり好きでは無いのだが、まあすると決まった以上はこれ以上駄々をこねるのはやめよう。
店員さんが持ってきたメニューがテーブル上に広がり、レインちゃんはホットケーキを前にして満面の笑みを浮かべている。
それだけで俺としてはここに連れてきてよかったと思った。
「レインちゃんは日本でお友達出来た?」
「うん! お兄ちゃんが学校に連れていってくれるから」
「そういえば……ギルフォードは普段どこで仕事をしているんだ? たしか政府からの頼みごとを引き受けているって聞いたけど、本職じゃないよな」
俺からの問いにホットケーキを口いっぱいに詰め込んで、両ホッペがパンパンな状態で笑顔を俺に向けるレインちゃん。
黙って「うん!」と頷くレインちゃんに内心「可愛い」と思ってしまった。
「日本料理店で料理の勉強してる」
心で笑った事を表情に出さないように顔をレインちゃんから外すが、肩がカタカタと震えてしまう。
ギルフォードがまさか日本料理店で勉強しているとは思わなかったが、その姿を想像していると正直……面白かった。
まあ顔にも出さないようにし食事に手を付ける。
「そうか……でもここでバイトをしているって事はあまり金回りはよくないのか?」
「ううん。でも、お兄ちゃんあまり貯金しないから」
まあ、あの男に貯金という言葉が存在するか同課で言えば果てしなく疑問だが、逆に言えばそういう金回りはジャック・アールグレイが一番得意だろう。
「そういえばケビンってそういうの聞かないけど……どうなんだろう」
「う~ん……詳しくは聞かないけど、そこそこはお金を貰っているはずだし、少なくとも貯金が無いって事は無いんじゃないかな」
「まあ、ケビンだしな。あれでもアメリカのエージェントだし……給料ってどうなっているんだろ」
エージェントというのはどういうお金周りをしているのかかなり気になったが、考えても仕方がない事なので今は忘れる。
俺は目の前にいるクロワッサンに齧りつきフォークでハムを突き刺す。
「ソラお兄ちゃんのお父さんって普段何しているの?」
凄く答えにくい質問だなっと思ってしまう。
普通に軍人といえばいいのだが、あの人の軍人としてのスタンスは若干違う気がしてならない。
何せ平気で遅刻しどんな時でも定時帰り、訓練のある日に限って平気で逃げ出し、師匠やサクトさんに仕事を押し付けて自分は平気で逃走。
その図体のわりに子供っぽく、よくあれで軍人が務まると思うのだが、そんな事をレインちゃんに言うと傷つけるだろう。
俺はレインちゃんの夢や希望を守る為絞り出した言葉を放つ。
「ニー……」
「軍人だよ。ソラ君のお父さんは軍人さん。少し変わっているけどね」
どうやらジュリは俺が言わんとしていることがはっきりと分かってしまったらしい。
俺が父親の事を「ニート」と言おうとしていた事を、ニートという言葉を知っていたとは思えないけど、けれど俺が言わんとしているおおよその事を理解してくれたジュリ、俺は黙ってジュリの言う事に補助をつける。
「まあ、俺はあの人を『ただの軍人』の枠に入れたくないけどな。レインちゃんはあんな大人にはなっちゃいけないよ」
俺は笑顔でレインちゃんに「あれは悪い見本」としつこく告げておく。
目的地に辿り着き、俺はげんなりした気持ちで施設のドアの前に立っていた。
自動ドアとその奥に広がるいかにもな資料の棚の数、この中から目的の資料を探し出すのは流石に至難の業と言わざるおえないだろう。
ジュリとレインちゃんが施設の中へと入っていき、司書っぽい女性をお辞儀をしながらまずは目的の資料があるかもしれない棚を探し出す。
これまた面倒な作業のはずで、できれば近くのソファで座って眠っていたい。
しかし、レインちゃんが妙にやる気があるので邪魔をするわけにもいかず、俺も諦めながら適当な書類を持って一旦机へと持っていく。
「こんな作業……それこそ正座させられている父さんがすればいいのに」
不吉な事を言いつつ俺は父さんへと呪詛の言葉を発して呪いを頭の中で願う。
いっその事本棚でも倒れて怪我をすればいいのにとか、そんな事をずっと願っているのだが、俺は研究都市と海洋同盟近くで起きた事故という記事が俺の目についた。
写真付きで残っている事故、よく見れば航空機の残骸に見えなくもないが、この世界には飛空艇しかないはずだし、そもそも飛空艇は事故を起こしても墜落することは稀にしか存在しない。
しかし、この残骸はやはり航空機とみるべきで俺は日付を確認する。
そこには十年前の日付が書かれている。
十年前といえばもう既にファンド達革新派が西暦世界と繋がっていたはずだ。
偶然開いた世界を繋げる穴、それが航空機をこの世界に連れてきたという事だろうか?
「しかし、世界を開ける穴なんて………竜の咆哮のような力でもない限り偶然には開けられないし……」
なら誰かが意図的に引き起こされたという事もあり得る。
俺は資料のページを一旦資料本から外しそれをコピー機を使ってコピーする。
この資料に俺個人が何かあると思いコピーした資料と、元々の資料に差が無いかどうかと確認して自分の席に戻る。
再び資料漁りを開始するのだが、あっという間に心がだらけてくる。
次第に飽きてしまうのだが、ここで止めてしまったら父さんみたいだと心を奮い立たせ俺は新しい資料に手を伸ばす。
「ソラ君………これじゃないかな?」
ジュリが差し出す資料の一ページに目が行く。
そこには今から三十年前に五つの企業がガイノス帝国と共和国間で引き起こされようとしていた戦争に介入する口実探しをしていた事がきっかけで研究都市が完成したと書かれている。
やはり目的は実戦的かつ強力な兵器開発で、それを高値で売り飛ばすのが目的だったようだ。
実際にはガイノス軍と共和国軍の両方に売り飛ばしていたらしい。
最もガイノス軍はあまり期待していなかったようだが。




