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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
サブジェクト・レクイエム《上》
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最後のチャンスを自分に 5

 ボウガンは大会の中継映像を高いビルの屋上から眺めており、ソラとガーランドの戦いを眺めていたのだが、内心ではギルフォードがどうして負けたのかがよく分からないと感じていた。

 単純な実力ならギルフォードはむしろ優っているのでは、と思うがそれ以上に異能が優秀なのだろうと思うとさほど脅威にも思えない。

 吸血鬼は人の血肉以外の食べ物の味がしないから、今食べているアメリカンドッグなる食べ物味もまるで分からなかった。

 ボウガンにとって食事とはただの趣味である。


「本当にあれが英雄なのかねぇ……まあギルフォードよりはましだとは思うがな。どう思う? ギルフォード」


 首だけを真後ろに向けて出入り口の無いビルの屋上に立っているギルフォード、ソラに言われた時からずっと会いたいと思いこの場所までたどり着いたギルフォード。

 この場所を探し出すのに態々ダルサロッサの力を借りたほどで、ボウガンはさほど驚かなかった。


「あれは追い詰められたからが本番だ。それより今回の一件どこまで関わるつもりなんだ? お前が妹を…」

「おいおい……何もしていないぞ。今回はあくまでも傍観者。第三者でいるつもりだ。お前が何しようと、お前達が誰と戦おうと俺達は結果さえ出してもらえればそれでいい」


 アメリカンドッグの棒だけを口に銜えながら暇そうにしていたボウガン、棒が邪魔に感じたのか最後にはボリボリとまるでお菓子を食べるように食べてしまう。

 ギルフォードは改めて目の前にいるのが『化け物』類いなのだと実感できる光景だった。


「……信じてもいいのか?」

「勿論だ……? なんだ?」


 ボウガンは『奇妙な風』を感じてふと体を起こして周囲を見回す。

 嫌な気配というより、体中がこの街一帯を包み込むような違和感を感じ取ってしまう。

 

(こういう時の俺の吸血鬼は厄介だな。普通の人間には感じ取れない感覚が分かる)


 するとギルフォードも同じく奇妙な感覚を得ており、周囲を感じ取っては下を覗き込もうとしていた。

 ボウガンは竜との契約者ですら感じ取れるほどの違和感に嫌な予感を覚える。


「こりゃあ………大当たりが来るかもな」

「大当たりだと?」


 しかし青空を消すように渦巻く黒い影を見て表情を歪ませるボウガンと、それを見て表情を暗くさせるギルフォード。


「いや………大外れかもな。ヤバイ………おいおい勘弁してくれよ」


 起き上がり空を眺めるボウガンはドンドン表情を暗く落としていく。


「無が来るのか? 何故? メメントモリに聞いておいた方が良いな。おい、ギルフォードもそろそろ移動した方が良いぞ。こりゃあ大会が荒れるぞ」

「おい待て! 無って何なんだ?」

「………全ての世界には循環と呼ばれる現象が存在する。何もない所に火はたたないというが、世界は無から有を生み出し、有は無へと変えるとされている」


 ギルフォードは幼い頃に聞いたことがある話だったが、そんな事は竜が存在するこの世界では習う事でもある。

 しかし、実際に有と無の循環を見た者がいるわけじゃない。

 だから誰も気にしない。


「無とはその名の通り何もな存在。循環の有から無への循環を担当する自然現象が知識生命体に認識できる程度まで存在が高まった現象を指す」

「そんな存在………」

「あるんだよ。今から二百年前に起きた向こうの大陸の消滅事件を知っているか?」

「ああ、噂程度ならな。確か国一つが消えたとか」

「それは無が消した。無が出現するには原因がある。世界の摂理を超えるような『何か』を排除するためだと言われている」


 世界の摂理という難しい単語をに今度は首を傾げる番で、ギルフォードはまるで分からなかった。


「要するに向こうの世界に言い伝えられているような『賢者の石』のような摂理やルールを超える力、デメリットとメリットを超えた存在を無は許さない。そういう存在を消滅して無に帰す事が役目」

「だったらこの街には…」

「あるんだろうな。無が存在しなくてはいけないほどの強すぎる力が」


 空を覆う黒い渦はまるで本選会場上空で集まっていく、ギルフォードが本選会場へとお飛び降りていくのを見るとボウガンは小さく舌打ちをする。


「ったく……せっかく楽しくなってきたところだってのに」



 真っ黒く渦を巻くような空を俺はジッと見つめ、娯楽部まであと少しという所まで来ていたが、問題は行く方法だったりする。

 モノレールが山頂から出ており、歩いて行くには更に三十分ほど掛かってしまう。

 楽をするなら明らかに歩くのだが、バレないように移動するには間違いなく歩くしかない。

 師匠もその辺で悩んでいるらしく、先ほどから「うんうん」と唸りなら考えをまとめていると最終的にはモノレールにしたらしい。

 楽を選んだんだというと物凄い嫌な顔をされてしまったので素早く訂正、俺達はモノレールに乗って山を下っていく。

 正直な話をしてスキャンがある以上はどのみちバレていると思うので狭い山道で戦うよりは素早く降りて広い場所で戦った方が有利だと捉えたのだろう。

 それより俺は敵がまた組んでやってくる方が嫌なのだが、アメリカ軍の方は手を組んでくるんじゃないのかと思ったが、師匠は「多分無い」といった。


「手段を選ばないとは言ったが、この状況で娯楽部を同じく抑えた相手だ、共闘を申し出てむしろ背中から襲われる可能性を考えていないわけじゃないだろう。両方ともそれが楽な方法だって分かっているからな。だからこそ、安易な策に出ない………と思う」


 自身がなさそうだな……と思うが、それについては俺がとやかく言える立場ではないので黙っていることにし、問題はアメリカ軍とは別の戦力だが、この本選出場者を殆ど知らない俺からすればまるで見当がつかないのだが。


「この状況で生き残れる戦力だからな。かなりの実力者だろうことは分かるが……まあ心当たりがないわけじゃない」


 師匠はモノレールの窓から娯楽部を遠目に見ながら言うセリフに俺は食いついた。


「誰?」

「嫌に食いつくが……不安なのか?」

「それはそうでしょ。この状況で混戦だったかもしれない娯楽部を抑えたチームだよ」

「そうだな………恐らくだが……どうするかね」


 うわぁ……悪そうな笑顔。

 弟子に教えることをこれ以上なく楽しんでいる顔だが、俺からすればただイラつくだけ。


「だったら裸でその辺に晒されればいいよ。父さんやガーランドが勝手にされても俺達他人の不利だから」

「嘘嘘。多分になるがネルフォスと呼ばれている魔導大国の精鋭部隊だと思うぞ。それっぽい奴らが第一予選に参加していたのを見たからな」


 まるで知らない人達だから念の為に聞いておくことにした。


「お前は………ウルベクト家は魔導協会の第一席じゃなかったか? それとも捨て設定だったのか? あれは」

「捨て設定とか言わない。魔導協会については俺は便利な道具ぐらいの感覚なんだって」


 魔導協会の第一席に選ばれたからって特に得するわけでもないし、強いて言うなら未だにちゃんと使わせてくれない飛空艇が出来たぐらい。


「魔導大国はその名の通り魔導に秀でた国だ。それ故に様々な魔導具や魔導師を保有している。お前だった知っているだろう? ガイノス帝国にも魔導師と呼ばれている者達ぐらいは存在していると」

「まあね。俺や父さんはまるで興味が無いから断ったけど」

「ネルフォスはその魔導師の精鋭部隊であり、魔導師の集団では他の所では間違いなく勝てない」

「………武術大会に出るってどうなの?」


 武術に強いイメージはまるでないけど。

 すると師匠は結構真剣な面持ちでこう言った。


「侮るなよ。出場しているのは間違いなく魔導大国最強だ。あいつだけは毎年出ていたはずだからな。その名は………アーマルド」


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