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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
サブジェクト・レクイエム《上》
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宣戦布告 3

 焼肉店の中は人で賑わっていることが腰の中からもよく分かり、俺は肉を焼きながら師匠に尋ねようとしたのだが、まるで何かを仕返しかのようにニヤリと笑うレクターだが、俺はすかさず笑顔でレクターの右足を踏みぬく。

 レクターは痛みに耐えながらも表情が歪み始め、俺はニコニコしながらもレクターに口パクで「余計な事を言ったら殺す」と告げておく。

 レクターは涙目になりながらも黙って頷き、俺は今一度念を押して強めに踏む。

 改めてレクターの方から師匠の方へと切り替えて改めて尋ね返す。


「機械兵はともかくとしてクローン兵って違反じゃないの? 作って良い物なの?」


 西暦世界では人のクローンは禁止されていたはずだし、こっちの世界でこそ分からないが、クローン自体あまり良いイメージが無いと記憶していた。

 ジュリに聞きたいところだが、変な気を使わせたくない。

 もう既に大会中だというのに問題が起きているうえ、ジュリやレクターが手を出しにくい状態になっているのだ。

 ジュリはともかくレクターは後半のスポーツの高等部にガイノス帝国立士官学校代表として参加する予定だったはずだ。

 ジュリも念のために後半は学校の支援組に参加するかもと言っていたので、余計に気を使わせたくない。


「違反では……無かったはずだ。確信的な事は言えないが…」

「なんでそんな確信が持てないの?」


 俺が素朴な疑問を問いかけるとサクトさんが肉ばかりを食べる父さんの皿に野菜を入れながら俺の疑問に答えてくれる。


「この皇光歴の世界に世界レベルの秩序が存在しないのよ。だから国によって禁止されていたはずだしね。ガイノス帝国も基本は禁止しているはずだけど……研究都市は確か特に禁止していないはず」

「それってクローンが研究に向いているから?」

「ええ。それが理由でしょうね。その辺から連れてくるより薬品実験みたいな実験にはクローンが向いているかね。だけど、戦闘実験なら間違いなくクローンは厄介よ」


 俺はなるほどと理解できるが、レクターはまるで理解できなかったらしく焼いた肉と野菜を口いっぱいに詰め込み、それを飲み込んでから尋ねる。


「何で? 費用も簡単に作れるならクローン方がましでしょ?」

「クローンと言っても作ったばかりの状態では脳内は白紙だからな。急成長させることができたとしても、長くは使えないし何より知識を入れるのも難しいだろうしな」


 戦闘というのは一朝一夕で身につく者じゃない。

 何より知識程度で戦えるのならだれも困らないだろうし、何よりその度クローンに知識を入れたり、経験を積ませていたら費用がかさむ事この上ない。


 という説明をレクターにしてやると、まるで理解出来なかったようで首を傾げていた。

 俺が困り果てているとずっと肉を焼きながらレクターに答えてくれた。


「レクター君は生まれたばかりの赤子に戦いが出来ると思う?」

「無理」

「それが理由だよ。クローンと言っても作ったばかりでは赤ちゃんだからね。知識も無いし、何より経験は一朝一夕で身につかないでしょ?」

「そりゃあね。ああ……だからクローンは戦闘実験では使えないの?」


 やっと理解してくれたらしいが、俺の努力がジュリの説明一つで無駄になってしまったと思ってしまう。


「そういう理由があるからな。ソラもその辺を研究都市に苦情を出しても無駄だぞ」


 父さんにそう言われてしまったので諦める事になった。

 まあ、どうもこの街は少々特殊な立ち位置みたいだし、そう思った時ギルフォードがダルサロッサを置いてどこに言ったのかが謎だ。

 ダルサロッサはエアロード達と共に肉争奪戦を繰り広げているし、まあアルバイトをしているという事は結構厳しい生活をしているのかもしれない。


「父さんはギルフォードがいまどこにいるのか知っている?」

「日本政府の会食に参加しているんじゃないのか? あれは日本政府が防衛要員として雇ったと聞いたからな」

「え? だったらなんでアルバイトをしているわけ?」

「私が聞いた話だと。日本に来てから一か月ほどは何もしていなかったんですって。というよりは、自分が何をしたいのかすら分からないでいたそうだから。その時のツケが来たんじゃないかしらね」


 サクトさんがそういうのでそういう事だと納得しておくとして、ダルサロッサはここにいてもいいのだろうか?


「私があいつと契約しているだけだ。それに会食とかいう美味しくもない料理を喰うぐらいなら美味しそうな食べ物を食べた方がましだ」


 というので納得しておくと、俺は飲み物が無くなっている事に気が付いたのでタブレットを使って注文する。

 そうしていると奈美が俺の隣で慌てた状態で自分のグラスから飲み物を俺右腕に零してしまった。

 奈美が必死になって俺の右腕を拭こうとするが、これは簡単に落ちそうにないと俺は奈美に良いからと言って一旦トイレに向かうことにした。


 トイレに入って右腕にかかった飲み物を拭いて綺麗にしていると、トイレのドア越しに聞こえてきたあの特徴的な声が俺の鼓膜を振動させた。


「……君と話がしたい。どうだ…金は払う。今回の大会棄権してくれないか?」

「どだん無理な話だな。それに俺達に勝てばいいだけの話だろ?」


 あの特徴的な前髪をしているクレイシス財団の代表……ババリューとかいう男だったはずだ。

 どうやら俺個人に話を聞きに来たらしい。


「今更あの人の強さに恐れをなしたのか? だったら今直ぐレインとアンヌを解放しろ」

「出来ない相談だな。アンヌの生い立ちには間違いなくこの街が関わっているはずだ」


 このババリューとかいう男何を知っているんだ?


「お前は何を知っている?」

「私は何も知らないよ。知っているのはこの研究都市だ。私が睨んでいるところでは銃ねん……いいややめておこう。君には関係ない話だ」

「どうでもいいが。どうして今更俺達に棄権を促す? あの時は意気揚々と俺達に勝つと宣言していたはずだ」

「いやな。君みたいなガキなら任しても問題はなさそうだが……あれは良くない。ガーランドはこの世界では知らぬものはいないほどに有名人だろ? 負かしたとあってはクレイシス財団に苦情が来るかもしれないからね」


 良い訳のように聞こえる。


「ハッキリ言えよ。負けるかもしれない可能性が出てきたから棄権してくださいってな」


 俺の挑発に男はまるで怒りを滲ませながら声を低めに俺に脅しつける。


「若さで勝てると思うなよガキ。お前なんて所詮はアックス・ガーランドがいなければただの士官学生だ」

「そうかもしれない。でも、そうじゃないと証明して見せる。年を喰っていることが偉い事だと思っているならあんたは痛い目を見るだけだ」


 ドア越しにいがみ合う俺達だが、ババリューの方は少し余裕がなくなってきているように思える。

 ババリューがどんな表情をしているのかが気になってしまった。


「お前たち如きが完全な兵士に勝てると思うなよ! お前達は知る。この街の闇をな! でも私は何れこの街の闇を支配する者だ!」

「勝てなかったら……恥をこくぞ。世界中の眼前だがからな。完全な兵士を造ると言っておきながら負けるんだから」

「ここで断ったことを後悔しろ!」


 声の主が遠ざかって行くのが感覚でよく分かり、俺は完全に気配が消えると一気に息を吐き出した。

 その後、素早く師匠が近づいてくるのが分かった。


「時間を計っていたでしょ?」

「まあ、完全な兵士か……前から聞いていたが」

「少し楽しみ?」

「そう見えるか?」


 俺はトイレに入ってきた師匠の楽しそうな表情を見ながら言う。


「まあね。俺にはそう見える」

「まあ………ほんの少しだけな」


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