千羽鶴の願い 4
ドラファルト島を襲った悲劇、それは一人の男の底無き欲望とドラファルト島の人々の抵抗が生じた産物だった。
しかし、この話はまだ続きがあった。
「ドラファルト島の島にある伝承があった。その伝承が今更になって首相が恐れるようになったのじゃよ」
「なんです?伝承なんて」
「魔王が封じられているという噂がな……」
ソラとカールの心の中で「そんなわけない……」という言葉がよぎったが、同時にだからこその伝承なのだと分かった。
しかし、魔王なんて今更信用されないような伝承、中々聞いたことが無い。
「その………魔王というのは?」
そこで聞いてしまうあたりがカールの記者らしさである。
「正確には魔王と恐れられた人間が居たのじゃよ。永遠を求め、支配を望んだ最凶の人間。デルスロード」
デルスロードという聞きなれない名前、それが本当に人の名前なのかと疑問に思うぐらい、ソラには「中二病ぽい名前だな」という感想しか抱けなかった。
「ある魔導を手に入れようとあらゆる竜達を騙し、あらゆる魔導と呪術を無作為に手に入れたのじゃ」
「ある魔導?」
「永遠を手に入れるうえでどうしても必要な魔導じゃよ。それこそ伝承でぐらいしか語られておらん魔導の力じゃよ」
ソラやカールにとって本気で永遠を手に入れようとする人間なんて物語の中にしかいないものだと思っていた。
「永遠を手に入れるに必要な魔導って?」
「………『魔導の原点』と呼ばれるモノじゃよ。あらゆる異能を操る力を持っており、その力は永遠に最も近いといわれている力じゃよ」
「魔導の原点?なんです?」
「聞いたことあります。この世界のあらゆる魔導はそもそもその原点から始まったと噂されていて、あの機竜ですら見たこともない力なんだとか。この世界で唯一その『魔導の原点』の正体を知っているのは聖竜のみだとか……」
(へぇ~、そんな力を聖竜が知っているのか。一体どこで情報を手に入れたんだか………原点?なんだろう。心のどこかで引っかかる言葉なんだよなぁ)
「しかし、デルスロードが永遠を手に入れる事は無かった。最終的に光竜が十六の太陽と海の槍を使った封印術でドラファルト島に封印したという話じゃよ。ドラファルト島の住民たちも当初はただの噂だと気にしてはおらんかったよ。しかし、洞窟の奥地である物が見つかるまではな」
そう言いながらジェノバ博士は更に新しい写真をソラとカールに見せてくれる。
その写真には三つに枝分かれした槍が大きな岩の塊に深々と突き刺さっているように見え、枝分かれしているところには波と太陽を象ったマークが書かれている。
「この槍が海の槍なのではないのか?と言い出したのがそもそもの始まり」
「本物なんですか?写真の合成とか?」
「それは無い。儂がこの目で見ておるよ。この槍が今でも同じ場所にあるかは儂にも分からんがな。しかし、この槍が本当に海の槍だとするのなら封印も本当の事ではないのかと考え始めたんじゃよ」
恐怖からくる行動。
「もしこの槍が本当なら、槍を引き抜けば封印が解けるとか?」
「それは分からん。しかし、ドラファルト島の崩壊時にこの槍も行方が分かっておらん。今残っているのはこの槍が映った写真のみじゃ」
ソラはゆっくりとその写真を手にし、スマフォで写真を撮る。
「エアロード!どうせどこかで隠れているんだろ?出てきてくれ」
「なんだ?気が付いていたのか?」
「この写真に身に覚えがあるかどうかを聖竜に確かめてくれないか?」
エアロードが物陰から姿を現し、ソラのスマフォのへと仕方なさそうに近づいていきマジマジと見つめる。
「面倒だぞ。何かおいしそうな食べ物でもくれるならしてやるがな………」
「大人しく言う通りにしていたら後で高級なお菓子を奢ってやるよ」
(だから言う通りにしろ。本当に……勝手についてきた挙句に)
「?これは漣の槍か?なんでこんな古ぼけた写真に写っているんだ?」
ソラとカールが勢いよく立ち上がる。
「この槍を知っているのか?」
「フム………光竜と海竜が使う封印術の1つだ。やり方は忘れたが………確か相当面倒な手段だったと記憶している。なんだったか?確か………海竜と光竜の両方が揃わなければならないと記憶しているが」
「その槍………最後どうなったか記憶しているか?」
首を横に傾げるエアロード。
ソラは心の中で(こいつ。全く記憶していないんだな)と呟いた。
「本人達に聞けばよかろうに………」
「海竜や光竜に知り合い何ていないぞ」
「海竜はともかく、光竜なら条件さえ合えば会えるはずだぞ………、確かお昼の十二時の前後二時間の間なら会えるはずだ」
(呼べば会えるのか?そんなお手軽なのか?」
「それって呼べば簡単に姿を現すものなのか?何か特殊な条件が必要とか?」
「無い無い。ただ、人間が光竜を本気で認識しようと思ったら少々特殊な方法でなければならん。光竜というだけあって、あいつは生活習慣が他の竜とは違う」
「やけにあう方法を詳し教えるが………まさかとは思うが聖竜に連絡を取るのが嫌だったなんて理由じゃないよな」
エアロードはソラから視線をすばやく逸らした。
「話だけなら聞いてあげますよ………聖竜が見出した人間に私も興味ありますしね」
ジェノバ博士すらも驚きのあまり表情が崩れ、カールに至っては驚きのあまりカメラを床に落としてしまった。
実際、それぐらい衝撃的な声。
ソラがゆっくりと周囲身を見回すが、エアロードが不貞腐れたような表情を作る。
「やれやれ。話をずっと聞いていたのか?少々竜が悪いな。光竜シャインフレア」
「あなたに言われたくありませんね。ここ数日ずっとあなた達の様子を見ていましたから……それに面白い魔導を見付けたようですし………」
光が一点に集まっていくように大きな輝きに変わっていくのだが、その輝きが別に竜の形をとらない。
「その槍の行方が知りたいのでしょう?今の状況は分かりませんが、当時はドラファルト島に人間を封じ込めるというので当時いた『太陽の英雄』と一緒に封じ込めましたよ」
「それって何年前の話です?」
「桁が違いますね。正確には千年前の話です。今では太陽の英雄はいませんよ」
「それが引き継がれた可能性は?」
「ありえませんね。引き継がれたのなら私が把握していないわけがありません。あの『漣の槍』の効果は周囲に存在する魔導の影響を受けやすく、封印術には非常に適していました。その上、私が渡した『太陽の力』との相性も非常に良かったので丁度いいという話になったのです。最も、槍そのものを装備しないといけませんがね。『漣の槍』は魔導の力を宿したただの槍です。あなたの『竜の欠片』とは種類が違います」
エアロードが大きなあくびを上げながら適当に聞き流しており、ソラとシャインフレアの会話をカールは面白おかしそうに手帳に必死に書きなぐっている。
「私の太陽の力はあなたの竜の欠片と同じ種類の力です。肝心の漣の槍は魔導の力を道具という形で収めています。海竜は他者に力を与えるのではなく、道具という形で与えるのです。魔導という形は竜それぞれやり方も方法も違うのです。海竜は両方ともそういうやり方を取っています」
「だったら………その最後に封印した人間の名前は?」
「少なくともデルスロードなる名前ではなかったはずです。それに、デルスロードの名の由来を私は知っています。『魔の王』の事を指します。ガイノス帝国では魔の事を昔は『デルス』と呼んでいたのです」
「じゃあロードは?向こうの世界ではロードは王とかそういう意味だけど?」
「同じですね。ただし、こっちの王は全部共通して『ロード』と呼ぶ国は一つだけです……」
「それは?」
「あなた達が海洋同盟と呼んでいる国だけです。あの国だけが王の事を『ロード』と呼ぶのです」




