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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
サブジェクト・レクイエム《上》
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第二予選 7

 剛手は戦いの全てをこの目で見ていた。

 素早い動きと体格に裏打ちされた力、剛手を含めて多くの人がガーランドを見てこう思う……存在が卑怯だと。

 卑怯と思われるほどの身体能力と、数々の戦いによって積み重ねられた戦いの経験値の異常な高さ。

 剛手は内心ワクワクしながら死人を打ち取った後のガーランドの元へと歩いていき、ナックルをぶつけ合い金属音を響かせながら心拍音を何とか抑えている。

 ガーランドは改めて大剣を握りしめ直し、目の前で歩いてくる剛手の姿をジッと見つめ直す。

 剛手は邪魔になると感じたのか、上着を脱ぎ払い上半身裸の状態で全身の気と言うべきオーラのようなモノを練り始める。


 ガーランドが初めて剛手と戦った時にも思った事だが、この剛手は元々エル公国出身では無いというのが正直な意見だった。


 気やオーラと呼ばれる身体能力が辿り着く一種の道、それはまるでその人そのものを色や触れられぬエネルギーとして強さを練る事で実体に近い形まで作り上げることができる。

 しかし、この武術は向こう側の大陸で作り上げられた武術。

 本来なら伝承すらまともに伝わっていない代物で、実際ガーランド達も噂程度にしか聞いたことがない。

 だから最初に見たときは面食らてしまったものだし、ガーランドを含めて三将が対策を練るのに苦労した覚えすらある。


 この気やオーラと呼ばれているものの正体は二種類あると言われており、1つは己が肉体から練り上げられる生命エネルギーと呼んでもいいものの塊と、二つ目が自然界に巡ると言われているエネルギーを体に向かて練り上げる方法の二種類。

 厄介なのはこの練り上げられたエネルギーを彼らは物理に近い形で使いこなす事が出来るという点。

 中には鞭のように変則的な形で使う事が出来る者も多く、ガーランドが潜入調査で何度か向こう側の大陸に向かった時に教えてもらった記憶チラッと存在している。


「アックス・ガーランド。聞きお呼びしその名と異名の多さ……胸をお借りする!」


 剛手が思いっきり拳を目の前の何もない空間に向かって正拳突きを繰り出し、気が拳という形でガーランド目指して飛ばされていき、ガーランドはその攻撃に自らの大剣を思いっ切り振り下ろした。

 大剣と気で作り上げられた拳の衝突はスクリーン越しにでも分かるほどに重く、衝撃の強い感覚を与えていく。

 観客の歓声も相まって第一会場は異常な盛り上がりを見せ、その様子を見ているソラ達にすら異様なほどの戦いなのだと思わせてくれた。

 しかし、この段階でソラはある疑問を抱き始めていた。

 第二予選開始時より少しずつではあるがハッキリと感じるようになった、何か探られるような感覚。


 間違いなく感じるが、それ以上もそれ以下も無い感覚にソラはある意味困っていた。

 いっその事手を出してくれたら思う一方で、そうしないでくれた方が気楽でいいと思ってしまう。


 ガーランドと剛手の戦いは更に激しさを増そうとしていた。



 クレイシス財団が大会に参加する上で規定を満たせてい人型兵器も先ほど他の会場より早く第二予選を突破していた。

 クレイシス財団の代表ババリューは高笑いがやめられないでいたが、そのパーフェクトソルジャーの予選よりガーランド達の第一会場の予選の方がよっぽどにぎわっている事に不満を抱いていた。

 この大会には裏がある事をババリューは知っているが、彼とて全てを知っているわけではない。

 毎年この大会は裏で誰優勝するのか裏金での賭博が行われており、毎年クレイシス財団は惨敗を喫しており、このままでは会社が潰される可能性すらある。

 この都市にやって来たのも兵器開発を本格的に進め、最終的にはこの大会をデモンストレーションに利用して知名度を上げる為。

 あくまでも目的はそっち。

 聖女の事も、偶然見つけたレインの事も二の次に過ぎ無かった。


 聖女もレインも未知の異能を持っており、その異能を調べて兵器に応用できればと思ったが、その前に邪魔されてしまった。


「フン! しかし、あのレインとかいう女はともかく、聖女の方すら情報がまるでこの研究都市には存在しないとはな。まあ、闇の深いこの都市の事だ……間違いなく裏がある。この程度で躓いてはいられない! この街に来た以上はこの街を乗っ取る!」


 ババリューが勢いよく立ち上がりまるで何かに宣言するように叫ぶ。



 ガーランドが目の前から迫りくる打撃攻撃をステップだけで回避し、そのフェイントとカウンターを混ぜ込んだ連撃で剛手を追い詰めようとするが、剛手はその攻撃をしっかりと見極め、同時に一旦距離を置く。

 勝敗のつかない数分間が過ぎ去っており、ガーランドが現在多少だが優勢な状態で続いていたが、まだどっちに転んでもいいような状況でもある。

 剛手が恐ろしいと思ったのは、ここ二連戦をこなしてきたはずなのにまるで体力の衰えがまるで見られない化け物っぷりに驚く事しか出来ない。


「聞いたことがあったな。撃の継承者は代々高い山の頂上で修業を行うと。その化け物のような体力もその為か…」


 体力の勝負事ではガーランドには勝てないと悟った剛手、そもそも真正面からやり合う形をとってもまともにかなうわけがなかった。

 回りくどい手段を使おう入り組んではいてもさほど多くもない遮蔽物では戦い方に限りがあった。


「その戦い方……お前はエル公国の出身ではないんだな」

「………私はエル公国出身だ。しかし、私の師と呼ぶべき人は向こうの大陸にいた人だった。世界中を巡っている旅をしているような人で、私に戦い方を教えてくれた」


 剛手は在りし日を思い出しているように目を瞑り、同時に表情には辛い過去を思い出していた。


「我が師は共和国に捕まった民たちを思いやり………共和国でその命を落とした」


 ガーランドはその言葉の意味が心に深い刃として突き刺さってしまった。

 帝国がエル公国に進行してしまった際に命を落としてしまったのだという事は分かり切ってしまったが、結局で救う事が出来なかったという真実は変わらない。


「我々がもっと強ければ、我々が大国に屈せぬ強さを持っていればと思えば思うほど……悔しく思っている。しかし、全ては過ぎたこと……貴様は貴様で祖国を想い戦ったのだろう!? ならそのような顔はやめて前へと進むがよかろう!」


 全ては過ぎたこと。

 もう……終わったこと。


 そうやってソラがあの事件で死んだ三十九人との折り合いをつけたように、目の前にいる剛手がそうやって前に進んだように、過去は振り返り反省するためにあれど、足を引っ張ったり、後ろめたく感じて足踏みをするためには存在しない。


「そうか……そうだったな……」


(いつの間にかそうやって後ろめたく感じる事を自らの責務のように感じていたのか、ソラはとっくに乗り越えていたのに関わらず。師である私がいつまでも………情けない)


「そう言う事なら……少しあの頃を思い出して戦ってみるか。こちらから戦わせてもらうぞ」

「………来い! 今こそ己とお前を超える時! この刹那に全てを掛けて見せる!」


 この一瞬で勝負がつくだろうことは誰の目にも明白で、観客を含めてみているモノ全てがこの戦いの結末を見届けようと瞬きすら忘れて魅入っていた。


 先に動いたのはガーランドで地面を強めに蹴りながらも大剣を後ろに大きく引きながら振りかぶる体勢を決して崩さない。

 ギリギリまで振りかぶって剛手を射程まで捕らえた状態で思いっきり振るが、攻撃が当たる直後で剛手はある意味武術の境地の一端を踏み越えることができた。

 攻撃の軌道とその進路が剛手にはギリギリで見え、その通りに避けることができた。

 そのまま更に一歩前に踏み込み、これは決まっただろうとという攻撃を叩き込もうお灯ったが、ガーランドの体がまるで二歩ほど後ろに下がってような錯覚を覚え、剛手の攻撃が完全に空を切った。

 何が起こったのが剛手でもまるで理解できなかったが、ガーランドが剛手の距離を詰めると同時に理解できてしまった。

 しかし、もう遅い。

 ガーランドが再び剣を横なぎに振った時、何故距離が突然開いたのかを口にしてしまった。


「地面が………動いた」


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