第二予選 4
山にいる二人の内動き出してのは麓に一番近い方だったのを俺達観客席側は見えていた。
山を下り始めていくその姿はまるで戦う人というよりは共闘を頼みに行く人間に見える動きだが、目だけはまるで戦いに行く猛獣を彷彿させる目をしている。
この場合共闘を提案したふりをして後ろから襲うのではと思わせてくれるが、もう一方はまるで動こうとしないのが逆に不気味に見えたが、師匠は迷いなく真直ぐに麓の方へと急いで向かっていた。
師匠が何を考えているのか、それは弟子である俺にもはっきりとは思わなかったが、少なくとも戦うつもりで向かっているのだろうことだけは分かる。
「ガーランドさんの戦いすごかったね。あの刹那時間であんな作戦を立てる何て」
俺は驚いた。
「レクター……お前、刹那って言葉の意味が分かるんだな」
「馬鹿にされている!? 失敬な!」
あのレクターが難しい単語を理解しているとは、これは天変地異かもしくは世界を滅ぼす超常的な存在が現れるのではと小刻みに震える俺。
何を言っているのかまるで理解できないおバカな奈美と、苦笑いを浮かべる海とジュリ。
「………お前達の所にいる人間達は面白いな」
ダルサロッサのそんな失礼な声にエアロードはどこに胸を張っているのか分からなったが、シャドウバイヤはお菓子袋に顔を突っ込んで完全に無視している。
「そうだろう。私が自慢する人間達だ」
「そうだな。お前のような馬鹿な竜を律儀にでも面倒を見ているのだから大したものだ」
「どういう意味だ!? それにダルサロッサにだけは馬鹿と言われたくないぞ!」
「お前よりましだと言っているだろう。お前より馬鹿な奴なんて竜には存在しない」
「そこでお菓子袋に顔を突っ込んだまま寝ている奴よりましでは!?」
そこまで喋っているところで俺が「ちょっと待て!」と突っ込んだ。
「シャドウバイヤは寝ているのか!? だったらせめて顔を出してやれ! どうりでお前達がお菓子袋を取られているのに黙っているはずだ」
「「だってな? こいつ寝ているのにお菓子袋を絶対に離さないから」」
もの凄い強欲な奴を見た。
これでも『竜達の旅団』の竜側のリーダーなのだから竜社会の不思議を見る。
「なんか疲れてきたな。周囲に馬鹿な奴が多いせいかな? レクターといい」
「俺を真っ先に矢面に立たせないでよ! どうせならエアロードでしょ!」
「私を馬鹿代表みたいに扱うな!」
「私はエアロードに一票だ」
「ダルサロッサは黙っていろ!」
俺が新しいお菓子をダルサロッサとエアロードの前に持っていくと二人はお菓子に手を伸ばす。
俺はスクリーンの方を見ていると意外な結果が映されていた。
「待ってくれ! いつの間に麓の二人がやられた!?」
麓で共闘していたはずの二人がいつの間にかやられているうえ、山にいた二人が合流している。
海やジュリも丁度見ていなかったらしく、いつの間にか開いていた距離が埋まっているうえ、あっという間に倒されている。
「もう一方の方は少なくとも走っても一時間以上の距離があったよな? 瞬間移動かって距離があったはずだけど…」
山にはいつの間にか霧が深さを増しており、海が何かをひらめいたような顔になる。
「もしかして霧を使って幻影を造った?」
「観客を騙すためにか? なんの理由で?」
「でもおかしいなって思ったんです。周辺把握能力なんてそう簡単に身につかないものですよね? 開始から三十分ほどたてばそれぞれの位置が分かるはずですけど……」
「観客を通じて試合の中継を入手している奴がいる……か」
俺と海の会話を聞いていた奈美が立ち上がって憤慨しようとするのを俺は奈美の口元に指先を当てることで封じる。
「卑怯とか言うなよ。バレなきゃいいだけさ。それにどのみち予選突破は不可能なんだから言っても無駄だ」
「モゴモゴ! モゴモゴモゴ!」
「それはお前の言う通りで卑怯だとは思うし、大会参加者としては止めて欲しいとは思うけどな。それは後でのことだ。今更言ってもこの予選中は対策を練れないだろう」
レクターが「奈美の言う事が分かるんだ」と感心していた。
「父さんは分かっているんでしょうか?」
「ガーランドが? どうだろうな。俺のエコーロケーションはエアロードの力を混ぜているからな。完全に近いエコーロケーションだけど、あの人のは幾分か精度が落ちるはずだしな。下手をすればバレないかもな。最も、予選開始の三十分前なら参加者の確認が出来るから予めあの人が手を組む可能性を考えていた可能性はあるな」
変な所で勘の鋭い人なのである意味バレている可能性はあるかもしれないが……、しかし、見た感じあの二人は異様な雰囲気を醸し出している気がする。
普通の選手ではないと思わせてくれる相手、もしかしたら有名な人なのかもしれない。
「あの二人は有名だよ。ほら………南の『エル公国』って国の三銃士ならソラ位は知っているでしょ」
「三将みたいな奴らだろ? え? あの二人って三銃士なの?」
「うん。麓に近い方の剥げている人は『剛手』って呼ばれているゴルで、細い今にも死にそうな青ざめた人が『死人』で有名なイヤリーって男性」
その死人っていう名前は不気味過ぎるので今直ぐ改名を要求する。
まあそんな意見が今更通用するとは思えないので、師匠に即効で死人と呼ばれている方を倒してもらうとして、俺はそんな祈りが師匠に届きますようにと必死に祈る。
「ソラは何してんの?」
「祈っている……あのお化けみたいなやつと戦いたくないからな」
何かパッと見が悪すぎるだろうに、青ざめたような顔が余計に不気味に見える。
「何か……あの人病人に見えるけど大丈夫かな」
どうやら奈美にはこの不気味さが伝わらないらしく、むしろあの『死人』と呼ばれている男が病をおして戦いに行っているぐらいの認識らしい。
俺からすれば病人に見えるくせに動きが機敏な上、単純なパワーなら俺達のような士官学生クラスはありそうだ。
それがとてつもなく怖い。
病人に見えるし、おそらくあの青ざめた顔も決して芝居では無いのだろうと分かるからこそ、あのパワーやスピードが怖い。
「ガーランドがどっちを倒すのか………あの死人だけは戦いたくない!」
皆が小声で「そこまでして…」と言うのだが、レクターが余計な事を言い始めた。
「もういい加減ガーランドさんの事を師匠って呼んだら?」
ジュリが「クスクス」と笑い始め、俺はレクターにどすのきいた声で「余計な事を!」と睨みつける。
レクターが「何々?」とジュリに尋ねていく、俺はそれを阻止するべくレクターの襟を強めに掴み、思いっきりビンタを両ホッペに何度もぶつける。
そんな中でも奈美はまるで物怖じせずにジュリに尋ねていく。
俺が大声を出してここで状況を打破すべきではと考えたが、ジュリが「もう諦めたら?」と俺の大声を制止する。
「ガーランドさんにバレなきゃいいんでしょ?」
「レクターか奈美が父さんにばらして、父さんがあの人にばらす可能性が高いんだよ!!」
ジュリと海とエアロードとダルサロッサが同時にレクターと奈美の方を見て、黙って頷く。
二人が「言わない!」と叫ぶがまるで信用がない。
俺がジッと見つめていると、二人は何度も何度も「絶対に言わない」と言うので俺はそんな二人に提案をした。
「言ったら…………大師匠に言って裸締めにしてもらう」
きっとあの人なら絶対にすると思う。
二人は恐怖しながら黙って何度も頷き、俺は二人が笑ったら殺すと直ぐに体を動かせるようにしておく。
「ソラ君はガーランドさんの事を陰で「師匠」って呼んでいるんだよ」
爆笑する奈美とレクター、鬼のような表情で追いかける俺。