クレイシス財団 5
師匠から教わった全てを出し切って倒すと誓った戦いから数刻、研究都市は夕方を迎えておりすっかり夕日が傾きつつある。
夜は祭りのような賑わいを見せており、徐々に人が増えていくだろうことは予想できた。
あの後拍子抜けするほどアッサリ終わったのだが、その理由は研究都市長と呼ばれていた開会宣言に来ていた男性が戦いを仲裁したからだ。
その際にアンヌとレインを引き渡す条件として提示されたのがこの大会だった。
俺とガーランドさんとクレイシス財団が参戦させているチームが本選で争う。
その際に俺達が勝てば二人は晴れて自由の身となりクレイシス財団は諦めるが、クレイシス財団が勝てば二人を引き渡す。
最初ギルフォードは激しく攻撃をしていたし、俺だって納得できる話ではないが、こうなった以上は俺達の不法侵入も問題行動になる。
その点も不問に付す形にしたいというのが都市長の意見であり、それについてはこれ以上大騒ぎになりたくないという点でサクトさんが同意した。
俺とギルフォードとしてはどう考えても向こう側が不正をしているのに、どうして俺達が譲歩しなければならないのかという話だった。
下手をすると大会中止になりかねないこの事態、出来ることなら不問に付したいという意見に最終的に同意せざる終えなかったが、この完全兵器と言ってもいい兵器と戦う機会はちゃんと残っているようだった。
『本選まで精々生き残ると言い! その時君はこのパーフェクトソルジャーの相手をすることになる!』
そう言っていた以上は間違いなく本選に出場させるつもりなのだろうし、何より………それって卑怯じゃない?
と抗議したのだが、都市長はこれに関しては不平は一切ないとむしろ断言されてしまった。
ルールには参加者は人間でなければならないなんて記載はないとはっきり言われ、人の形をとっている以上は参加を認めるとすら言われる始末。
悔しいが大会主催者の一人がそういう以上は認めるしかない。
しかし、俺とギルフォードは最後まで憤慨しっぱなしだった。
何故ならレインとアンヌを返してくれなかったからだ。
絶対に手を出さないという条件と待遇はVIPクラスを約束する代わりに、勝敗を決めるまでは大会主催者が預かると言われてしまったからだ。
クレイシス財団から追い出された後、俺とギルフォードは明らかに不満を次々に口にしていた。
「ありえない! ギルフォードの妹位返してくれてもいだろうに!」
「全くだ! 何なんだ!? 人の妹をまるで物のように!」
サクトさんも内心は同じ気持ちなのだろうが、ああいう判断をされてしまった以上はこれ以上文句も言えない。
「諦めなさい。逆に言えばクレイシス財団と真正面から争うことなく取り戻す方法になっただけマシだと思う事ね。このままだと戦争になりかねないのよ? それに……」
サクトさんは俺の方をじっと見ながらまるで小悪魔のような嫌な微笑みを見せてくれた。
「あなたとお師匠様なら何とかするでしょ?」
完全に揶揄われている事は間違いないが、こうなった以上はこれまで以上に気を引き締める必要がある。
ギルフォードもこの大会終了までは協力してくれると申してくれ、明日の俺の特訓などにも付き合うと約束してくれた。
俺はクレイシス財団と戦争寸前までいった今回の事態のおおよその説明をしたのち、今日は休むことにした俺はジュリと共に街中に繰り出していた。
「納得いかない」
「まだ言っているの? 取り戻す方法が分かっただけマシだと思わなくちゃ。あのまま行けば本当に戦争なんて事態になっていたんだから」
「一人の少女を誘拐した企業何て滅んでしまえばいい」
呪詛の言葉を投げかける俺にジュリが苦笑いで返してくれた。
「明日の予定は?」
「午前中はギルフォードと父さんと特訓、午後は師匠の試合観戦の予定」
「じゃあお昼ご飯は一緒に食べよ」
俺は「そうだな」と言いながら大きな広場に出てきた。
周囲にはオープンカフェのようなモノも店として出しており、中には様々な国の料理が出店として出店している。
色んな出店のいい匂いが漂ってきて鼻孔を擽ってくれると異様に腹が減ってしまう。
今思えばお昼ご飯もまともに食べていないので物凄くお腹が空いてしまっており、腹の虫が張りっぱなしである。
「その辺のオープンカフェに入る? それとも……」
俺はシニカルに微笑みながら「それともの方で」と答えた。
近くの出店では綺麗な紙で包まれたハンバーガーと飲み物、それ以外にも様々な食べ物をターブル上に並べる。
魚とチーズの揚げ物やポテトフライなどもテーブルに並べていると少々豪華に見えてくるから不思議だ。
片っ端から手を出して腹満たすまで俺は無言で食べていた。
食べきった後俺は大きく息を吐き出し、ジュリはそんな俺の方を見て微笑んでいる。
「なに?」
「ううん。エアロードやシャドウバイヤみたいだなって思って」
それは嫌な見解だな。
「そういえばあの二人は?」
「え? ダルサロッサって炎竜と話す事があるからってどこかに行ったよ」
珍しいなと思うが、実は飯を買い過ぎたので出来れば食べてもらいたかったのだが。
何せテーブルの上にはまだ半分以上が残っている状況で、これを持って帰る訳にもいかない。
すると、エアロードの「呼んだか?」という声が後ろの方から聞こえてきた。
「ご飯食べない?」
そう言って振り返るとエアロードとシャドウバイヤとダルサロッサが並んで歩いているという不思議な光景に行き当たったのだが、不思議と特に違和感を感じなかった。
これが慣れなのだと驚きつつ、俺はご飯を指さす。
これまた素直なお腹をしているようで、三人の腹から綺麗な腹の虫が鳴り響く。
無言でムシャムシャと食べている三人の竜をしり目に俺とジュリ大会の大地予選突破者のリストを見ていた。
「あれ? ケビンさんが参加している?」
俺の指摘にジュリが「本当だ」と呟いているので恐らく午後に参加していたか、第二次予選で参加するのかもしれない。
俺は「やりずらいな」と呟いたが、二人の自由が掛かっている為本気で戦うしかない。
「それ以外にも知っている顔があるかどうかだけ見ておきたかったけど、特に存在しないな……ていうか個人企業からの参加者もいるんだな」
「結構自由な大会だよ。傘下に至っては国代表で参加する人もいるし……」
「まあ俺と師匠がそうだし」
俺と師匠はガイノス帝国代表の一人として選ばれているらしいと今初めて知った。
これを師匠が知っていたのかどうかを問い詰めたい俺、ジュリに「この中で有名な人っている?」と尋ねるがジュリも黙って首を横に振る。
「御免ね。私も武術とか詳し訳じゃないし…、レクター君なら知っているかもだけど」
「あれに頭を下げるなら知らない方がまし」
交換条件に何を言いだすのか分かったものじゃないし、何よりレクターに借りを作りたくない。
エアロードが口回りを舌なめずりで拭きとり、三人が俺の方を見ると揃って「足りない」と言ってくれた。
その自分勝手な言い分に涙が止まらない俺。
仕方がないと俺は一人適当な食べ物を探しに歩き出し、安そうな出店を見付けて並んでいると後ろからジャック・アールグレイの嫌な気配を感じ取った。
後ろをあえて振り返らず真後ろにやってきているジャック・アールグレイに殺気を向ける。
「器用な奴だ。安心しろここでお前と争うほど愚かじゃない」
「お金しだいだろ? 何をしに来た?」
「おいおい……私がここにいては駄目か?」
それを言い出したらきりがない。
「……私の部下が実力を測る為に参加をしているのでな。どうも面白事になっているようだし、この際正々堂々と宣戦布告をしておこうと思ってな」
「邪魔をしたらここで……」
「争うのは私じゃないぞ……」
後ろから気配が完全に消えるまで俺は殺気を放ち続けていた。