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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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千羽鶴の願い 3

 カールはアベルに必死に食らい付き、なんとかしてジェノバ博士への取材を申し込もうとしており、その近くで俺は最後の折り鶴をテーブルの上に乗せた。


「やっと終わった………なんで俺がこんなことを?」

「自分でやり始めたんじゃなかったの?」

「暇だから折り鶴は折っていたけど………千羽も折る予定なかったし」


 子供達の方は元気いっぱいのようで、やる気の無い俺に変わって鶴を一つ一つを紐に集めていく。

 そのやり方を奈美と海と万理から教わりながら進めており、俺は正直やり切った達成感がその身を満たしてやる気が起きない。


「そうだ。皆はこの折り鶴に何を祈るの?」


 奈美の些細な一言を切っ掛けに子供達は各々の願いを口にするが、いまいちまとまりがない。

 それも無理はない。

 言い伝えレベルの話だし、実際に願いが叶うなんて迷信だ。


 しかし願うだけなら自由だ。


 そんな子供たちの願いの中に確かに俺達の心に届く言葉を聞いた。


「世界が………平和になりますように…………」


 あまりにも純粋で心温まる言葉に誰もが唖然としたが、その中でメイちゃんも同じように「世界が平和でありますように」と呟いていた。

 きっと心無い人たちはその言葉をありえないなんて言うのだろう。

 それでも子供達が願っている言葉、もしこの言葉が現実になればと思う。


「世界が平和でありますように」


 つい俺も小さな声で呟いていた。



 カールは肩を落としながらアベルから離れていく。

 取材が出来るかどうかはジェノバ博士の意見次第、これから聞いてみるのでそこで待っていろなんて言われても待ちきれそうにない。


「ああ!早く取材したい!やっと訪れたチャンス!なんとしてもモノにしなくては!」


 カールは手帳とペン、カメラなどの機器のチェック作業をしているとソラが近くのテーブルから離れて大学前まで近づいていくのが見えた。


「そうよ!今のうちに星屑の英雄に取材しましょう!良い記事が書けようね!」


 駆け寄って行き、心躍る気持ちで近づいていくのだが、そんなカールの目の前にソラの悲しそうで辛そうな顔がどうしても気になってしまい声がかけられなくなった。


「おいカールとやら。ジェノバ博士はソラ・ウルベクト達と一緒なら取材に応じてもいいといっているぞ」

「え?本当ですか!?ですがなぜ彼等と一緒に?」

「さてな……ジェノバ博士の考える事なんて理解できんよ」


 そう言いながらアベルは心底どうでもいいという表情で忙しそうに大学内まで戻っていく。

 結局の所でソラに話しかけなくてはいけないという事態にどうしても躊躇いを覚えてしまい、近づいていくのだが声をかけるのにどうしても一分ほどかかり、何とか声を掛けた。

 それから一時間が経過し、カールとソラの二人は中央の高級ホテル前まで船で訪れていた。


「なんで俺まで一緒に………」


 不貞腐れながらも父親であるアベルから言いつけられて仕方なしに付いてきたソラ、カールは先ほどのソラの顔がどうしても気になっていた。

 言い出すこともできず、結局二人でジェノバ博士が止まる予定の部屋前まで辿り着く。


「あんたの用事だろ?あんたが先に逝かなくてどうするんだ?」

「え、ええ。失礼します」


 ドアを二回ノックし室内に入っていくと、目の前に窓ガラスから入り込む太陽の光が目に移り、豪華な内装が視界に移る。

 カールはつい声を漏らすが、ソラはこの光景になれているのか特に深い感想も無かった。


「それで?儂に取材とは?」

「あ、はい!私はドラファルト島と言われる島の真実を追い求めてみたと考えています。出来る事なら真実を記事にしたいと考えています」

「フム……やはりその一件か。しかし、海洋同盟の政府が隠しているドラファルト島の一件を知っているとは、中々な情報網を持っているようじゃな」


 ジェノバ博士は頭の中で知識をまとめ、ソラとカールに席に座るようにと促す。


「ドラファルト島の一件を喋っても良いが、この一件を記事にできるかどうかは儂にも判断できんぞ」

「構いません!教えてください」

「まあ、そこまでの覚悟で来ておるのなら構わんか………ドラファルト島。いずれはソラ。そなたにはきちんと話しておこうと思っておったしの」


 ジェノバ博士は自らの鞄の中から海洋同盟の地図を取り出した。

 十個以上の諸島の集まりであり、その島々に大きな橋でつながっている珍しい土地をしている。

 その海洋同盟の地図が二人の目の前に現れた。


「ドラファルト島とは………丁度島の東の端に存在していた古い島じゃよ。海洋同盟の島は基本的に高く街もそれに合わせて造られている。行ってしまえばチェスの駒のような島が橋でつながっているのだが、このドラファルト島は数十年前まで人目に触れる事すらなかったほどの古ぼけた島じゃった」


 ジェノバはもう一つ小さな古ぼけたような写真を取り出すのだが、その写真には小さな家と人々が写っている。


「この写真は?」

「ドラファルト島の住民たちじゃよ。この島の住民たちは漁業で暮らしていた。この海洋同盟では漁業を仕事にする人間は別段珍しくない。しかし、国が大きくなれば会社を大きくするものもあらわれる。この島の人達もその流れからは逆らえなかった」

「要するに大きな会社の縄張り争いに負けた?」

「ソラの言う通りじゃ。彼らは小さな縄張りの中で漁業をするようになった。それは金に成らない仕事ばかりをするようになった頃じゃ。この島の地質に儂が興味を抱くようになった。この写真はその時の写真じゃよ」


 ソラとカールはその写真を覗き込むとその人達の中に紛れ込む形で若かりし頃のジェノバ博士が一緒に写っている。


「この島の洞窟の奥地で見つかった粘土質の土は高温で焼けば金属と同じ強度を誇るようになる上加工が自由な土じゃった。しかも粘土質の土に草木を練りこめば更なる加工が期待できた」

「待ってくれ!その話を聞くと……」

「そうじゃよ。お前さんが持ってきたバルの生産元の1つはこのドラファルト島の粘土質の土が一つじゃよ。この島の粘土質な土はたちまち海洋同盟中に広がっていき、この洞窟の調査が頻繁に行われるようになったが、その一方で本格的な採掘がはじまるようにもなった。しかし、その陰で島の住民たちの中には採掘に反対派と賛成派で真っ向から争う結果になった」

「皮肉ですね。同じ小さな島の住民たちで争うなんて」

「その島の地質に別の人物が前を付け始めた。それはあの外相じゃった。しかし、派閥争いは結果ら見れば反対派の勝利で終ったのじゃが………あの外相はそれが気に入らなかったのじゃな。反対派を金で買収しようと試みた」

「うまくいかないだろうな。金より大事なものがあるからこそ反対したわけだろ?」

「その通りじゃ。最後には島を爆撃すると脅しもかけた。それでも彼らが一歩も引く気はなく、最後には徹底抗戦を訴えだし、島への勝手な侵入まで禁止する始末じゃった。しかし、それがまずかったのじゃな。思い通りにならない状況に苛立ち最後には島に襲撃部隊を送り込んだのじゃよ。その日は………烈火の英雄が海洋同盟内で起きていた反政府運動家との最終決戦の日じゃったよ」


 皮肉な話だとソラ自身はそう思った。


(皮肉な話だよな。祖国を救う傍らで本人は故郷を失ったのだとしたら)


「烈火の英雄が島に戻った時には島では大虐殺が行われた後、最後には島で起きた一部始終を抹消する為に国は大きな爆発を引き起こして事件を捏造した。まるで反政府運動家の活動が原因だといわんばかりにな………政府がこの一件をひた隠しにしているのは事実じゃ」

「先ほどの襲撃は?」

「それが下地にしてあるのじゃろう。恐らく烈火の英雄は反政府運動家と合流し自らの意思で国を滅ぼそうとしているのじゃ。全く………あのバカ者め」


 ジェノバ博士は大きなため息を吐き出した。


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