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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
サブジェクト・レクイエム《上》
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クレイシス財団 3

 ソラとサクトがクレイシス財団へ潜入するほんの少し前の事、ギルフォードは炎竜の元へと向かっていた。

 炎竜はライオンと竜を混ぜたようなデザインをしており、大きな鬣は炎で出来ていて、羽を生やしたようなライオンのような炎竜はある場所で昼寝をしていた。

 

「炎竜! 起きてくれ!」

「なんだ? 私は………眠いのだぞ」

「妹が攫われた! 協力してくれ!」


 炎竜ダルサロッサは眠そうにしている顔を起こし、必死な表情で訴えかけてくるギルフォードの表情を体を起こしながら小さな声で「仕方がない」と呟いた。

 ダルサロッサは目を瞑り、まるで祈るように背中に果たしている真っ赤な竜の翼を羽ばたかせていく。

 周囲に真っ赤な粒子が飛んでいき、その粒子が周囲に散布する事十分ゆっくりと目を開いて「見つけたぞ」と呟くダルサロッサ。


「どこにいる?」

「案内しよう」



 ダルサロッサとギルフォードの出会いは海洋同盟の二週間後、真夏の東京でのことだった。

 首相が自ら東京で行われることになったある祭典のような行事、一種の夏祭りのような催しに妹共に参加させてもらう事になったが、ギルフォードだけは反政府組織の元メンバーたちと違いどこか馴染めずにいた。

 自分だけが世界に取り残されているような感覚、メメは日本のコミックなどの文化にはまり、バウワーは警察として忙しくも充実な人生を送っていたらしい。

 しかし、自分だけはやりたいことも見つからず、かといって何かを目立つことをするわけでもない。

 言ってしまえばどこか自堕落な生活を送りかけていた時、「つまらん顔をしているな」と話しかけてきた存在こそが炎竜ダルサロッサである。

 ベンチに一人座り呆けている時、そんな風に話しかけてきたダルサロッサは口にフランクフルトを加えていた。


「………えっと」


 目の前にまるでここにいることが当たり前かのように居座っているダルサロッサ、炎竜に関わらず元来竜とは皇光歴の世界にいるべき存在であり、西暦世界にはいないはず。

 そう考えたからこそ、炎竜がこの夏祭りを下手をすればその辺にいる子供より楽しんでいるのではと思わせる風貌に驚いた。


「竜だからと言って遊んではいかん理由は無いだろう。それより、お前は仮にも一国の英雄とまで言われた男だ。そんな男がそんなしっけた面構えを」

「それこそ関係の無い話だろう?」


 何をしていいのか分からず。

 何をしたいのかすら分からない。

 自分が情けないと分かっているから何もできないギルフォード、ダルサロッサはフランクルとを食べきると、今度は尻尾で隠しておいた綿あめを食べ始める。


「やりたい事、目指すべき目標何てそれこそ簡単に見つからないことだろう? しかし、少なくとも今目の前で楽しんでいる妹………お前は彼女がまた危険な目に合う時、そうやって呆けているつもりか?」

「………どういう意味だ?」

「彼女は闇竜と死竜と同化しかけた際に恐らく力の流れを感じ取る事が出来るようになったのだろうな。機竜や聖竜が言うにはそういう話だ。それは後天的な異能の発生。しかも、天然ともなれば貴重だ。そんなもの知られれば彼女が何に襲われるか分からんぞ」


 ギルフォードは今まで知らなかった。

 妹レインが必死に隠そうとしていた事なのだろう。

 やっと一緒に過ごせるようになった兄に心配をさせたくないという気持ちがあったからこそ、何も言わない、何も心配させたくない。

 あの小さな体にどれだけの重責を背負わせ、どれだけの自分がそれを見ようとしなかったのかを今更思い知った。


「お前には守る力がある。今度こそそれを示す時では無いのか?」

「………」

「今更かもしれんがな。お前達の一族の盟約を示すときだろうと思ってな」

「一族の盟約?」

「ああ。お前達の一族とは遥か昔、それこそ海洋同盟が生まれるはるか前にある契約をした。しかし、お前達一族に私達炎竜は正直ガッカリした。だから契約を半分反故にさせてもらったが、エアロードやシャドウバイヤ達から事の成り行きをテレパシー越しに聞いてな。改めて盟約に従うことにした。見せてもらうぞ。お前達の生きる道の先を」


 それがダルサロッサとの出会いだった。



 ダルサロッサはバイクの後ろでバイクに捕まりながら風を涼んでいると、バイクを操作しているギルフォードの表情は怒りに満ち溢れていた。

 あの時、あれほどダルサロッサに毛を付けておけと言われたのに、それでも油断していたのにも関わらず目を離し、その上誘拐されている。


「しかし、お前の妹の異能はどうやってバレたんだろうな」

「話だと、聖女を連れ去ろうとしたって話だから、バレたわけじゃないんだろうな。多分、一緒に誘拐されただけ」

「だとしたら知られる前に回収したいところだな。知られたらマズイだろう。聖女の癒しの力ほどじゃないにしても、力の流れが分かるあの力は少々厄介だ」


 イオリは魔王と融合しかけた影響で力の流れが分かるようになってしまった。

 ダルサロッサにはその力の流れを逆に利用しイオリのおおよその位置が分かり、その結果クレイシス財団の本拠地地下に幽閉されていると判明した。


「正面から入るわけじゃないよな?」


 ダルサロッサは念の為と聞いておこうと思ったが、ギルフォードは真正面から突っ込むつもりだったのだとダルサロッサは呆れながら知った。


「お前………基本賢くないな」


 ダルサロッサは最近一緒に暮らすようになったから知ったことだが、ギルフォード自身は基本賢くない。

 こういう時に正面から正々堂々と挑もうとする気さえある。

 そう言う所は嫌いではないが、せめて多少形賢く会って欲しいと思う。


「待て待て。今探るから頼むから真正面から挑む事だけはやめてくれ」


 ダルサロッサは急いで他の進入路を探し始める事数分で裏口から上手くいけば侵入できるかもしれないと、少し遠くに止めて裏口まで急いで近づいていく。

 ダルサロッサが裏口の鍵を溶解させ、上手く侵入していくと中は意外ともぬけの殻のような状態だった。


「ここは本当に本社なのか?」

「どうやら下に人が集まっているようだな。上の本社ビルに見える部分は見せかけだろう。下に降りた方が良いな」

「これってアナログだよな? なんでこんな古臭い鍵を使っているんだ?」

「元々この裏口は侵入者の進行ルートを絞る為にあるんだろうな」

「それって要するに俺達の侵入がバレるって事だろ?」


 階段まで歩いた所で立ち止まってダルサロッサの方を振り返るギルフォード、ダルサロッサはさも安心しろと言わんばかりの表情をしている。


「まだバレていない」

「なんでそう言い切れる?」

「私の力でお前の姿を消す事が出来る」


 そんな事が出来るという事を今初めて知ったギルフォード、ダルサロッサは小さな体でスタスタとギルフォードの前を歩き出し、階段を上手い事を降りていくダルサロッサの後ろからついて行く。

 いつの間にかダルサロッサが戦闘を歩き出すようになり、その後ろからついて行くギルフォードは目的のフロアの一個前までたどり着いたが、それより下に降りる手段が見つからなかった。


「他に階段があるとみるべきか、それともエレベーターみたいなものがあるとみるべきか」

「エレベーターならさすがに無理だろ」


 流石にこの状態で歩き回ればその辺の研究員に見つかるだろうし、何よりセキュリティーの高いエレベーターを使えば確実にバレる。

 しかし、ダルサロッサが急に階段からフロアに出る為のドア前で立ち止まる。


「なんだ?」

「この向こうに……」


 ギルフォードの脳裏に「やはり侵入がバレたか?」と思ったが、そこから飛び出る言葉は予想だにしていなかった。


「………馬鹿がいる!」

「誰が馬鹿だ!?」


 ドアの向こうから聞こえてきた声、其の正体は風竜エアロードとその奥で呆れ顔で立っている変装中のソラ・ウルベクトだった。


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