クレイシス財団 2
俺達は一旦研究都市の一角に構えるガイノス政府が管理しているビルに集まって話をすることになったのだが、ギルフォードだけは唯一未だに単独行動に走っている。
俺は師匠に手に入れたブラックボックスを渡すと、師匠とサクトさんはそれをもってどこか懐かしそうな表情を浮かべる。
何が懐かしく、どうしてそんな微妙な表情をするのかと尋ねると師匠は意外な事を俺達に尋ねた。
「お前達は……オークライ機関という名前の機関に聞き覚えはあるか? もしくはそれに関する詳細な名前を」
無論俺は聞き覚えは無いし、ここにいないレクターに電話をするほど無駄なことは無い。
しかし、ジュリだけは唯一神妙な面持ちで黙って頷いて見せた。
「二百年前に技術革新時代に開発された『エブラクト・D・サンクス』博士が開発した三大発明の1つですよね? 当時の技術を百年以上に渡って進歩させたと言われている。たしかいつかは班永久機関になると言われていたけど、博士が亡くなる直前に完成させ、結局研究所の中にも、博士自身から聞く事すら叶わなかったと。結局博士が作った十個のオークライ機関は各国がいまだに開発を急いでいる」
「その通り。これはその上位型だろう。向こうの大陸で解析に成功したという話を耳にしていたが、どうやら完成したらしいな」
噂ぐらいは聞いていたようで、師匠達は小さな声で「噂ばかりは聞いていたが」と呟く。
しかし、そんなとんでも機関ならどうして正式開発に手を伸ばそうとしないのかが不思議である。
流石にそれが開発などをしているのならさすがに噂ぐらいは聞くと思う。
「これを解析している段階で問題が生じたのだ。これを解析し……新しい形として開発されたのが………お前も良く知る機械だ」
俺は一瞬それが何を言っているのかがまるで理解できなかったが、俺は咄嗟に俺が『魔導機』を指していると気が付いてしまった。
じゃあ………オークライ機関が使っている物って。
「天然の竜結晶よ。魔結晶と違って竜結晶は生成される粒子の量の多さが特量なんだけど、その分濃さも段違いでね。その濃さもあって人間に近くに置いておくと恐ろしいほどに暴走する危険性が存在した。だから魔導三国で開発発展を禁止し、その代りに代用品として魔導機が開発されたという事なのよ」
「だ、だったら……エブラクト博士が資料も何も残さなかったのは?」
ジュリの疑問なんて俺でも分かった。
その証拠に師匠とサクトさんが黙って頷く。
エブラクト博士は竜結晶の危険性に気が付き、その開発を辞めたという事だ。
竜結晶はそれ単体が人や生物、植物を凶暴化させるだけでなく魔物と言われる魔を宿す生き物へと変貌させる事がある。
そこで俺はある疑問がよぎった。
「なら魔結晶は事態に影響は出ないの?」
「ああ、あれは周囲の鉱石を変貌させる代わりに出力なんかを低下させる。その代償として人の手で操作できることが出来る」
代償は必要という訳か、しかし、その機能なら納得できる。
ならこのオークライ機関は機能が上昇しているという事は天然の竜結晶が使われているという事か?
「いや……竜結晶を使うにしてもあれ以上の昨日上昇が見込めるとは思えんしな…」
「そうね。だからこそオークライ機関には未来が無いと判断したわけだし。どうやってあ令嬢の機能を上昇させたのかしらね?」
まあ、そのあたりは詳しく調査してもらうとして、師匠たちは何か分かったのだろうか?
「それで? お前達はクレイシス財団の元へと向かうのか?」
当然の事だ。
レクター達が第一予選の結果を見てくれている以上は俺達だけで解決する必要性がある。
「なら丁度良かったわね。クレイシス財団は現在本拠地をこの研究都市に移しているわ………ここがそこよ」
「俺達は目立つので同行出来ないが、お前達ならうまくやれるかもしれんな。既にギルフォードには本拠地の居場所を話している。しかし、ジュリ……お前は駄目だぞ」
「え?」
「真正面からの戦闘になる。私も明日の予選に影響が出るからな。お前はここからオペレーターをしてもらうぞ」
ジュリは残念そうな、それでいてどこか物足りない表情を浮かべるがこればかりは仕方がない。
あんな兵器を造れるような場所だ。
「その代り私が同行するから安心しなさい。ジュリちゃんはそこから私達の補佐をよろしくね?」
「分かりました。私が行っても役に立てないってことですよね?」
「そういう意味じゃないわよ。でも、こういう潜入もしくは混戦になるかもしれない状況に置いて、ジュリちゃんは混戦では私達でも守り切れる自信が無いのよ。ジュリちゃんだって自分の身を守り切れないでしょ?」
潜入だけなら大丈夫だが、混戦になった場合狭いあの場所ではむしろ俺達の足を引っ張る可能性すら存在している。
そんな危険そうな場所にジュリを連れていくわけにもいかない。
「待っていてくれ。必ず戻る」
「うん……信じてるね」
上位のオークライ機関を開発したと思われるクレイシス財団は現在本拠地をこの研究都市に移しているらしく、俺達は一旦その本拠地に真正面から話を聞くことにしたのだが、案の定話を聞いてくれるわけがなく、厄介払いをされてしまった。
仕方が無いと俺達は第二案である場所へと急ぐことになった。
このクレイシス財団の本拠地は行ってしまえば地下に広がっており、地下施設には複数の研究部署が存在している。
開会式で話をしていた白衣の来た老人が協力してくれるらしく、俺達は地下施設に変装して侵入することになった。
あくまでも施設の研究員という事もあり、簡単なウィッグとカラーコンタクトなどを使って変装し、バレないことを確認の上で侵入するためのポジションについた。
「そういえば。どうしてあの老人が俺達に協力してくれるんですか?」
「そうね………私達も詳しく聞かないことが条件なんだけど。この大会を邪魔されても困るんだって。まあ、あの人は自分の研究に専念できればいいぐらいの気持ちなんでしょうけどね」
「気になるな………」
大会中にも感じたあの違和感。
やはりこの大会には何かある。
「聖女さんが誘拐された理由って?」
「その辺は軍が調べている事だけど……何せ何一つガイノス政府が関わっていない話だからね。まるで情報が無いのよ」
まあ、それはそうだろう。
しかし、そんな危険な機械をあえて機械人形に搭載していた事が気になる。
「そうね。何か分かればいいんだけど……」
サクトさんの真剣な面持ちとは裏腹に、俺達の目の前にはクレイシス財団への出入り口へと近づいていた。
そんななか俺は近くにギルフォードの気配を感じていたが、周囲にはそれらしい人間が一人もいない。
首を傾げて更に詳しく周囲を探っていくと、ギルフォードは既に内部に忍び込んでいた。
どうやって内部に侵入したのか、それにどうやってこの場所を突き止めたのか……俺達が調べている間にギルフォードはどうやってここまでたどり着いたのかを俺は知る必要性がある。
そんな時だった。
俺の腰辺りに動く物体を確認したが、ここでそれをしていたら恐らく完全にバレるだろう。
サクトさんが手に入れておいた財団へと入るためのカードキーを差し込んで財団内部に入り込むと、俺は近くに空き部屋に入り込んで誰も無い事を確認した後に腰回りに多を伸ばして原因を引っ張り出した。
「いつからいたんだ? エアロード?」
「何故バレた?」
「腰回りにモゾモゾされたら気付く。で? 何でいるんだ?」
「…知り合いがいるのが分かったのでな。邪魔はせん」
「誰がいるんだ?」
「………炎竜。ダルサロッサ。ライオンなどのネコ型と竜の姿を融合したような見た目をしている竜だ。どうもここに侵入しているらしい」
「どうして侵入していると読める」
「あいつが捕まる様なヘマはしない。問題は……誰かと一緒に行動しているらしいという事だ」
俺はそれに一人だけ心当たりがあった。
ギルフォードの表情を想像してしまった俺だった。




