師弟への挑戦状 3
車の越しに感じる殺気が確実に俺を殺しに来ている人間の者で、その殺気の原因を探れば元々は父さんや師匠という事になるのだろうが、それでも吹っ掛けられた切っ掛けは間違いなく俺だった。
俺が飛空艇でのやり取りで俺がアベル・ウルベクトの息子で、アックス・ガーランドの弟子だとばれてしまった事が全ての原因になっている。
だからこそ俺がけじめをつける必要があるし、何よりこんな奴に負ければ師匠に何を言われる変わらない。
しかし、このバルグスという男は特殊な武器を使いこなしているが、そもそもその武器は大会基準の武器なのだろうか?
「この武器が大会基準かどうかを思考していると言う所かな? 残念だがこの武器は大会基準の武器だ。最も作った段階で弄ってもらっているがな」
「最低だな。始めっから正々堂々戦うつもりが無いって事だろ?」
「失礼だな。むしろ君のように正々堂々と戦う人間の方が少ないだろうに」
「馬鹿にするなよ………いかなる事態に陥ろうといざという時に頼りになるのは自分の実力と自信だ」
俺の発言に苛立ったのか、近くにある車をトンファーで叩き壊し、その拍子に車の窓ガラスが粉砕される。
「実力を駆使して………強靭な自信と共に私は挑んだ! それでも負けたんだ!」
トンファーを振り回しながら車をおれの隠れているトラックの頭上目掛けて打ち上げ、俺はそこから飛び出してバルグスへと『風見鶏』を飛ばすのだが、案の定効果的なダメージにはならない。
目が見えない以上に体中の感覚が尖り切っており、一々動きが読まれる。
「それは………お前が呪術に頼ったからじゃないのか?」
呪術は心の弱さに付け込み、強大な強さを手に入れる事と引き換えに大きな隙が生まれる。
大きな力は時に弱さにもなりえるのだと俺は知っている。
呪術で強くなれる人間なんて本当に意味でいないのだ。
風見鶏を連発し、取り敢えず川のある場所まで移動することにし走り始めると爆発弾が俺の進路上にあった建物の外壁を壊す。
おかげで細道を通って逃げようと思っていた計画が台無しに。
仕方がないと諦めて改めてバルグスに向き合う。
隙の無い身のこなし、大きなトンファーを使っているのに素早い動き、索敵範囲の広さといいどうやって師匠が勝ったのか知りたいぐらいだ。
取り敢えず距離をとる事は危険なので、距離を詰めつつ隙を見つけていくしかない。
爆弾弾は遠距離、雷撃弾は中距離、熱エネルギーを使用した斬撃は近距離とカテゴリーするとして、爆弾弾と雷撃弾は連発が出来るが、寝るエネルギーを使用した斬撃は連射出来ないと読んだ。
確実に攻撃をよけて重たい一撃を叩き込んでやる。
聖女アンヌは画面を見ていたために立ち止まってしまい、隣で手を握っていたギルフィードのの妹であるレインは心配そうな顔をしてしまう。
「お姉ちゃん?」
「大丈夫だよ」
この街に来てから感じる違和感に嫌気がさしていたのは事実だったが、それでもそれを知りたいという気持ちもまた存在していた。
しかし、それは今ではないと切り替え改めてレインのお兄さんを探し回る。
ある程度歩いたところでレインは疲れたという事に気が付き、売店で簡単なジュースとアイスを奢ってあげ、近くの席に座りながら休憩しているとレインは素朴な疑問をぶつけた。
「ねえ、お姉ちゃんは嫌い?」
「え? 何が?」
「ソラお兄ちゃん」
アンヌは心の中で「あの少年と繋がりが?」とも思ったが、それは人それぞれだと考えて気持ちを切り替える。
「どうしてそう思ったの?」
「だって……ソラ兄ちゃんを見る時の目がそう言っていたから」
レインは良く人の目を見る。
幼い頃より人の目を見ればその人が誰に対してどんな感情を抱いているのかなんて歩いていど分かった。
レインが見るアンヌがソラに向ける目線には「嫌い」に近い感情が見えた。
「………どうだろう? 本当はね。私が悪いって分かっているんだけど、なんだろうな………好きになれないだけなのかな?」
レインには少しだけ難しい話で、首を傾げながらよく理解できていない表情を作りアイスを食べていると遠くから「レイン?」と名を呟く男の声が聞えてきた。
真っ赤な髪の男がジュースを売り歩きながら近づいてくるのが見えてくると、レインはアイスとジュースを持ちながら駆け寄る。
「お兄ちゃんは仕事だから席で大人しく見ていろって言っただろ?」
「お兄ちゃんと一緒が良い!」
「そうは言ってもなぁ……俺もバイトがあるし」
本気で困った顔をしているギルフォードを見かねてアンヌが近づいていきながら提案する。
「でしたら私の特別観客席でお仕事が終わるまで引き取りましょうか? お仕事が終われば連絡ください。それまでは一緒にいますので」
ギルフォードは一瞬だけ疑うような視線を向けるが、レインが懐いているのは事実で、その上ギルフォードは連れて歩き回るわけにはいかないと感じ一旦任せることにした。
ボウガンは近くのベンチに座り込んでビーツを片手に第一予選を観戦していた。
「下らんなぁ………しかし、あのガキ……やはり不死殺しか? 何かが違う気がするが」
ビールを全部飲んでしまうとビール缶を遠くに投げ入れようとするが、豪快に外したビール缶はアスファルトの上に転がる。
ボウガンの後ろでカールが「ププ!」と笑って反応し、ボウガンは首を後ろに逸らしながらカールを睨みつける。
すると、四つ走行のロボットがボウガンが投げたビールの缶を回収した。
「便利なロボットだな。で? お前なりに調べたんだろ? 今回のターゲットは誰だ?」
「気にしなくていい=ボウガン。あくまでも必要なのはこの都市で行われている実験結果=重要」
「実験結果……ね。でも、結構前に失敗しているんだろ?」
「当時百人の子供を使った実験=失敗」
「で、今回は武術大会を使った実験に切り替えたか………しかし、阿呆の一つ覚えだな」
「今回は失敗しない=閣下の推測」
「何故言い切れる? やけに確信をもって告げるが……?」
カールは読んでいた本を閉じボウガンにある一枚の紙きれを渡す。
その紙きれを見ていたボウガンは面白そうな高笑いを揚げていた。
「おいおい……随分面白い物を作ったな。いや……このもう一方は少し興味があるぞ」
そこには一人の人工人間と呼ばれる人工的に零から作られた人間の完成図、そしてあるコンピューターの設計図が掛かれていた。
素早い動きで敵の隙を作ろうと思ったが、雷撃弾が結構厄介で少しでも足に掠めれば身動きが鈍くなる。
確実によけようと思えば自然と相手から距離を取ってしまうので難儀な所、俺はかなり苦戦しながら距離を測りかねていた。
「竜撃風の型………つがいの風!」
バルグスは俺の攻撃を「甘い」とだけ言って回避し、雷撃弾を容赦なく俺へと放つが、俺はその攻撃を雷の型の『避雷針』を使って回避する。
しかし、この方法での回避には限界があるので何度も何度も使える方法じゃない。
「竜撃風の型。突風」
緑星剣をバルグス目掛けて伸ばし、剣先から伸びる風の刃がバルグスの心臓部を襲撃し、その素早い攻撃は流石にバルグスもよけきれなかったようで、微かにだがバルグスのHPケージが数ドットだけ削れていた。
バルグスの目つきが変わったようにも思えた。
「やっと顔つきが険しくなった?」
攻撃範囲の広さは俺だって負けていない。
しかし、この方法では勝ち目が薄いのは事実、こうなれば師匠に事前に許可を貰ったあの戦法でい行くしかない。
俺は剣をアスファルトに叩きながら音を確かめる。
そろそろ決着をつける時だ!




