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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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千羽鶴の願い 2

 レクターが大学内で何をしていたのかを問う気にもならず、父さんに首根っこを掴まれながら大学内から強引に連れられて現れた。

 何をしていたのか、どこで暇をつぶしていたのかなんて俺は尋ねる気にもならない。

 千羽鶴もまだ半分もいかないのが現状で、完成するまでは逃げられそうにないからあえて聞かない。

 父さんに連れられて現れたレクターはジェノバ博士の元に連れていかれ、バルをすばやく渡した後ジェノバ博士はマジマジと見つめている。


「海洋同盟産のバルじゃな。間違いない。この裏側に書かれている言葉は海洋同盟ではよく見られる言葉じゃ。『太陽は闇を連れてくる。我らは闇と共に生きる』。これは反政府運動家がよく使う海洋同盟の歴史でよく使われる言葉」


 海洋同盟。

 秘密の多い国だと聞いてはいたが、やはりそういう闇の側面があるのか。


「海洋同盟とは言っても他の国と変わらん。闇という側面を抱えているのも事実じゃ。そういう闇という側面が作り出した姿が反政府運動家というわけじゃ。彼らは戦争という負の歴史の影で海洋同盟の反政府運動家は『バル』という呪術を作り出したわけじゃ」

「どうりで、バルの生産ルートが分からなかったわけだ。しかし、バルはどうやって生産される?」

「特殊な粘土質の土をバルバルの柔軟な骨にくっ付けて輪の形に変えて焼く。するとこの粘土質の土はまるで金属のような強固な土に変わるのじゃよ。バルの名は『バルバル』の骨を使っているからじゃな」

「バルバルが名の由来というわけか………」


 海洋同盟は開国を中々しない国だが、その陰で一部では外にバルを輸出しているのだろう。そうやって稼ぎを出してきた。


「あそこにいる外相は数年前までバルの違法輸出を自らの指揮していたはずじゃからな。自白剤でも使えば確実に吐くはずじゃよ」

「フム………海洋同盟の内閣メンバーに拷問したと知られれば外交問題に発展しそうだが?」

「それについてはさほど問題にはならんよ………今回の一件であ奴は祖国に戻っても処分されるだけじゃ」


 ジェノバ博士の目つきがやや睨みに近いモノに変貌し、外相はそんなジェノバ博士の目つきから逃げるように顔を背ける。


「あいつは海洋同盟の国民からも嫌われているほど有名人じゃ。大学生にでも聞けば奴の噂の一つ二つは簡単に出てくるぞ」

「そうか………詳しい話は大学生から聞いた方がよさそうだな……しかし、なら海洋同盟のコンテナについていた帆とウミヘビのマークは反政府運動家が旧式のコンテナを使っていたようだな」

「フム……そのコンテナはどこにあるのじゃ?」

「コンテナ自身はアクア・レインの荷物庫に入れてある。バル自身は帝都で調査に回している」


 へえ………コンテナはアクア・レインに収容されているのか。


 アクア・レイン………帝国が所有する要塞では最大規模の要塞の1つ、海上要塞では間違いなく世界最大。

 防御力、攻撃力、要塞としての機能、どれをとっても要塞としての機能は異常と言ってもいいだろう。

 このアクア・レインは幾度とない戦争で一度も陥落したことが無いという噂の要塞。

 何度も攻撃を受け、何度も攻撃を受け流し続けてきたその実績は西暦世界でも聞いたことが無いレベルの最大要塞。


「そんな場所に入れているのか………親父も随分警戒を高めているという事か………」

「でも、外相さんをどうするのかな?」

「自白剤でも使って調査をするんだろ?まあ、あの外相の怪しい噂を聞いてからだから……多分明日か明後日………四日目か五日目にでも移送するんだろうな」

「でも、自白剤を使わせるとなるとアクア・レインぐらいでしかできないだろ?」


 俺は完成した折り鶴を机の上に投げ、新しい紙を掴んで大きなため息を吐き出す。

 なんで俺はここで折り鶴を折っているんだろう?


「アクア・レイン………か。ジュリも見たこと無いんだよな?」

「うん。教科書には何も書いてないし、資料にもまともに乗っていない機密事項の多い要塞でもあるから」

「へぇ………」


 そんな秘密性が高いのか………行ってみたくないなぁ。

 要塞何て響きは中々西暦世界では聞くことが無いような気がするが、単純に日本にはないだけのような気がする。


「これでようやく半分か?まだ半分………」


 自分でやり始めたとはいえやるせない気がする。

 ていうか千羽もおる気がしないので、いい加減逃げたい。


「レクターの奴はまだ正座中か。まあ、何をしたのかは知らないがあのバカの事だから父さんの仕事の邪魔でもしたんだろ」


 俺達の後ろから奈美の声が聞えてきたような気がした。


「やっぱりお兄ちゃんがいる!」

「後ろから妹の間抜けな声が聞えてくるけど………気のせいかな?」



 ジェノバ博士が大きなため息を吐き出し、バルをアベルに返却する。

 

「あの烈火の英雄があなた達を襲った以上あなたには我々で少々窮屈な生活をさせる事になりますね」

「それは構わんが……あの馬鹿外相と同じ場所は嫌じゃからな」

「………はぁ。分かりました」


 アベルのため息何て中々聞けるものじゃない。

 面倒だと感じている証拠だろう。


「高級ホテルを用意させます。それでいいでしょう?あの外相についてはおそらくアクア・レインに収容されるでしょうから」

「まあ良いじゃろう。あの外相と同じ場所でなければどこでもいいわい」


 ジェノバ博士が軽蔑するような視線を外相に向けながらゆっくりと立ち上がり、その場から立ち去ろうとする。


「それと気を付けておくことじゃな。あの烈火の英雄が簡単に諦めるとは思えん。何かもう一つ作戦を考えると見るべきじゃな」

「フム。何故あそこまであの外相を必要に狙うのですか?」

「………烈火の英雄の故郷をあの外相が壊したからなどと言えばお前さんにも理解できるかの?」


 アベルはガイノス軍が拘束しながら連れていかれる外相に顔をだけをそちらに向ける。

 アベルにとって休日が潰れそうな気配を感じる最中、眼鏡をかけた赤髪の女性が眼鏡を片手で補正していた。



 眼鏡をかけた赤髪の女性『カール・テルマ』はガイノス帝国内で記者活動をしているフリージャーナリストである。

 彼女は二年前から海洋同盟関連の記事を巡ってこの街に頻繁に通っている。


「やっと事件ぽい事態に遭遇したんだもん。ジェノバ博士に話を聞くいいチャンス!でも………ガイノス帝国軍が監視しているんじゃ簡単じゃないよねぇ」


 手帳を片手に船に乗り込むジェノバ博士を視認したカール、赤い前髪を片手で払いながら駆け足で船の1つに乗り込もうとするが、それをソラが足で邪魔をする。


「きゃ!?なにするのよ!」

「いや……勝手に船に乗り込んだらそれこそ軍に捕まるでしょ?それを目前で止めさせたの。感謝しなよ」

「私はジェノバ博士に話を聞きたくて!」

「軍に許可を出せばいいだろ?」


 ソラは折り鶴をテーブルの上に投げ捨てながら顔をカールの方に向ける。


「軍が許可を出すわけ………あなた星屑の英雄ね!少し話を聞いてもいいかしら!?」

「ハァ?いいけど………」


 興奮するカールは机の上に山積みになっている折り鶴がどうしても気になってしまった。


「それは何かしら?」

「?気になる事ってそれ?まあいいけど……」


 ソラが折り鶴の由来や、千羽鶴の事を話しているうちにジェノバ博士はすっかり視界から消えていった。

 カールがそのことに気が付き大きな悲鳴を上げた。


「ああ!ジェノバ博士が居ない!そんなぁ………やっと見つけた海洋同盟の裏話を聞けるチャンスだと思ったのにぃ」

「海洋同盟の裏話?」

「知らない?海洋同盟は色々と裏話があるんだけど………その中でもとくに有名なのは海洋同盟の消滅したドラファルト島事件よ。なんでも海洋同盟に存在する島々の中に消滅した島が有らるらしいのよねぇ!今日はその噂だけでも聞きたかったんだけど……」


 カールは悔しそうに親指の爪を噛むカール、ソラは『ドラファルト島』という言葉に微かな反応を見せる。

 烈火の英雄の真実への一歩を踏み出すべきか、そう悩んだ時ソラは折り鶴を指先で強くつつく。


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