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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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千羽鶴の願い 1

 レクターは半壊した校舎内を歩きながら瓦礫を乗り越え、通路の邪魔をしている荷物を退けながら一つ一つの侵入者の遺体を確認する。

 やはり死体には全く同じ刺繍が刻まれている事を確認しながらいったん外に出ていく。


「やはり水鏡の反響なのか?」

「はい。この刺繍は別にマーキングを付けた水辺と対象に付けた刺繍を繋げる移動術です。体に刺繍を付けた対象が水面に飛び込むと、遠距離にあるマーキングの付いた水辺に移動することが出来ます」

「海洋連合で古くから使われてきた移動術。だがこの移動術は大きすぎる距離は移動できない」

「その通りです。アベル大将。このことから奴らはこの街内か、この街の周辺に逃げ込んでいる可能性が高いものだと判断できます」


 水鏡の反響。

 この世界にはいくつか存在する遠距離移動術の1つ、ソラが扱う瞬間移動術とも非常に似ているが、ソラにしか扱えない瞬間移動術とは違い刺繍とマーキングさえあればだれでも扱える。

 しかし、ソラの扱う瞬間移動術とは違い基本的には一方通行であるという欠点が存在するが、ソラの瞬間移動術以上の移動範囲を得ている。


「じゃあ、最初に戦ったおっさんも、さっきの人達もみんなこの移動術で逃げていったのか………あれ?俺なにか忘れているような………?」


 すっかりバルをジェノバ博士に渡す事を忘れているレクターが思い出すのは三十分後の事である。



 俺が近くの椅子に座り、テーブルの上で何故か折り鶴を千羽も折らなくてはいけなくなってしまった。

 そもそものきっかけは俺はレクターがジェノバ博士にバルを渡すまでの間暇だったことと、ちょうど目の前にハサミやカッターナイフがあれば折り紙に使えそうな紙があった事が原因だった。

 そんな状態で俺は暇だから折り鶴でも折って待っているかな?

 今思えば何も考えていない理由、しかしこの理由が後に………本当に何故か千羽もおらなくてはいけない理由になっていった。


「お兄ちゃんは何折っているの?」


 一人の少年が俺の手元まで歩いて覗き込み、手元に完成された折り鶴を片手で掴みながらそう尋ねてくるので、俺は「折り鶴だよ」なんて言う。


「折り鶴ってなに?」


 ここで俺は発言ミスをしてしまった。


 千羽鶴の由来や千羽折る理由などまで語ってしまったのが理由だったりする。

 するとこの少年が「僕も折る!お兄ちゃん降り方教えて!」なんて尋ねてくるが、俺は「紙が無いからなぁ」なんて誤魔化してみたのだが………。


「紙だったここにたくさんあるよ」


 そんな住民の無慈悲な一声と、山のように積み重なった使わなくなった大量の紙、そして折るつもりになった子供達に急かされる中、俺は折り鶴を教えながら千羽鶴を折る事になってしまった。


 どうしてこんなことに?


 自分の選択ミスを呪いながらも子供達に降り方を教えながら自らも鶴を折る。

 ブツブツ文句を言っても始まらないし、大して状況が変わるはずも無いので俺は少しでも早く折り鶴を追って終わらせようとするが半分もいかないという現実を前にして俺は少しづつやる気が萎えている。


「何を折っているの?」


 ジュリが大きな胸を強調しているのではと錯覚させるような姿勢で覗き込み、一部の子供達が「胸でっかい!」なんてからかっている。

 ジュリは急いで態勢を変え、顔を真っ赤に変わってしまう。


「折り鶴だよ。千羽折ると願いが叶うって言われているとか、広島では平和を祈って千羽折るとか教えていると………子供たちが折るって言いだしてな」

「へえ………私にも教えてもらってもいい?」

「俺はいいけど………」


 ジュリも俺の隣で折り始めるといよいよここから逃げるわけにもいかなくなり、かと言って疲れたなんて言ってこの場から去るなんて出来なくなってしまった。

 

 しかし………レクターの奴ジェノバ博士にバルをわたすだけの事でどれだけ時間が掛かるんだ?



 海都オーフェンスから少し離れた所にある入江の奥、そこは完全に反海洋同盟を掲げる『反政府組織ジャーベル』の拠点になっていた。

 水面から飛び出るように多くの人々姿を現していた。


「ツイてないよなぁ………まさか星屑の英雄が待ち構えていたとはな………なあ英雄さん」


 ボウガンは体ごと烈火の英雄の方に向け、烈火の英雄は水辺から体を起こしてゴツゴツした石場にシッカリ足を付ける。

 

「そっちも失敗したみたいだが?」

「まあ………最近のガキは随分つえぇな………ありゃ結構倒すのに難儀しそうだ」

「あのレベルの奴らがもうニ、三人いたらさすがにこちらの作戦に支障が来たしそうだが………」

「メメの奴も苦戦してしまったらしいし、作戦を練り直すか?」


 ボウガンは木製の椅子に腰を落とし、大きな木のコンテナから酒瓶を取り出してラッパ飲みし始める。

 烈火の英雄は大きなため息を吐き出しながら『作戦書類』に手を伸ばす。


「そうだな………あの外相だけでも殺したかったが……軍にここまで派手に見つかってはこの場所もすぐに見つかるだろうし………」

「次の作戦。確か空港で帰国する外相を襲撃する手筈だったか?」

「ああ、今回の作戦で外相は直ぐに帰国しようとするだろうと予想していたからな。もし失敗したら次で仕留める作戦を立てていた。しかし、ガイノス軍に捕まった以上、下手をすれば奴は刑務所行き……もしくは軍内部で厳重に監視されている可能性が高い」

「はぁ?だったらどうするよ?メメとあいつは今回の戦闘で一旦離脱だぜ。戦闘継続できる面々もかなり絞られる。俺とお前だけでアクア・レインを突破すんのか?」

「まさかだ。あそこは帝国最大級の要塞であり、同時に海上で存在する刑務所としてのレベルも非常に高い。奴の今までの経歴や今回の襲撃、それにジェノバ博士の存在を考えれば間違いなくあそこに収容されるだろう」

「だろ?だったここで諦めるか?いっそ無視するのも手だと思うぜ」

「最低でもジェノバ博士を押さえておきたいな………」

「でもよ………あのガキ共やガイノス帝国軍の見張りの中を突破するのは流石にやばいだろ」


 それは真実でもある。

 ボウガンの言う通りソラ・ウルベクト達やガイノス帝国軍の監視を突破してジェノバ博士を捕らえる、それは不可能のレベルに高まっている。


 彼らはやり過ぎてしまった。


「なら目標を外相に変えよう」

「はぁ?やっぱりアクア・レインを突破すんのかよ!さっき不可能だって言ったじゃねぇかよ」

「確かにそう言ったが、その二つを諦めるという事は今回の作戦の意味を半分失ううえ、本当の警戒が無意味に高まらせる事に繋がる。しかし、外相を襲うだけならまだ不可能じゃない。まずは外相がどうなるのか………だ」


 計画書をライターで燃やし始める烈火の英雄。


「アクア・レインに収容された場合は?まあその場合は海洋同盟が黙っていないだろうけどな」

「いや………それこそ存在しない可能性だな」


 そっけない返事をする烈火の英雄に対してボウガンは眉を二回ほど動かす事で苛立ちを現す。


「海洋同盟は俺達の存在を無視できない。せめて『星屑の英雄』だけでも本島に呼びたいはず。その為に外相が邪魔になるなら最悪切るさ」

「ああそう言う事か………ふうん、ならあのおっさんの命はどのみち風前の灯火だったか。ざまぁねえな!」

「だからこそだろ………アクア・レインに収容されようがされまいがどっちに転ぼうが奴を殺すチャンスはやってくる。それに………生かして連れてこれれば奴地震から引き出せる情報があるはずだろ?」

「なるほどなぁ!で?どうする?」


 烈火の英雄は口元を斜め上に持ち上げながらこれ以上なくドヤ顔を作りながらゆっくりと口を開く。


「…………まずは」


 ゆっくりと開かれる口から出てくる言葉をボウガンはその両耳で確かに聞き分けながら、ボウガンはその恐ろしい作戦を前にワクワクする気持ちを抑えられなかった。


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