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辿り着いた未来 2

 今年も七夏祭(ななかさい)と呼ばれる祭りの時期がやってきた。

 今年は異世界との交流が始まっているという事もあり、初日からその賑わいが予想され、士官学院でも今年何をするのかが話し合われたわけだが、基本は帝国政府の指示通り参加は各々の自由とされており、学校に参加するか各自で参加するか選択できる。

 毎年レクターが「何かしたい!」と言い出すので個人参加の屋台をしており、今年は中等部に参加した海と教職員のマリアやエアロードやシャドウバイヤもいれて賑やかなメンバーになった。

 それ以外にもガイノス流道場生巻き込んで厄介な話になったが、個人個人の仕事の分量は減ったので良いとし、何をやるのかをしつこく議論している時問題のある人が会議に割って入ってきた。


「今年は食べ物で屋台をするぞ! 代表者は私で!」


 父さん事アベル・ウルベクトが話に入って来たのを俺は全力でスルーしたかったが、勝手に司会進行を乗っ取った上、話に混じってくる。

 この強敵に俺は諦めるというコマンドを選択し、後ろの席でボーっと眺め始める。

 すると、会議にガーランドまでが参加、何事かと聞いてみると物凄くしょうもない話であった。


 父さんとガーランドが今年は軍の出し物に参加しないというと、陸軍の出し物代表者にいじられたらしく、父さんがそれに憤慨、ガーランドと一緒に外で出し物をしてギャフンと言わせたやるといって出てきたらしい。


 もの凄くくだらない理由を前に俺はあきれ果て、隣で疲れ果てているガーランドの苦労が偲ばれる。

 この人は人生を非常に楽しんでいるに違いないし、この話を聞いて共感するレクターは同レベルで馬鹿だと判断できた。

 食べ物で屋台をするとして、問題は料理のメニューのバリエーションと役割分担である。

 父さんが勝手に代表者になるとして、屋台で料理を作る人間とお客さんと相手をするウェイトレスと買い出しや在庫管理係の三つに分ける事になった。

 俺として比較的楽な在庫管理係になりたかったが、料理が出来るからと勝手に料理担当に回される結果に。

 問題のメニューであるが、料理のできない父さんとガーランドに任せていたら面倒なメニューにしかならないので、ここは料理のできるメンバーで決める事になった。


 屋台の場所が一番いいベストポジションで、南中央駅前広場の出入り口に近く食事をするスペースに近いという事もありメニュー次第で売り上げトップも夢ではない。

 そういう意味では料理組の役割の重要さは大きいだろう。

 いささか不公平だと思うけど。


 料理のメニューは最初のうちに夏だからアイス系が良いじゃないかという話になったが、こっちの夏は日本の夏に比べてかなり涼しい方なので、むしろホットなメニューな方が良いんじゃないかと提案した。

 そこで俺は厄介な事を言ってしまったと後悔した。


「日本の食べ物を屋台に出せば、ガイノス帝国の人は興味を持つし、日本からの観光客も手を出しやすいんじゃない?」


 俺は顔で「しまった」と表現し、突然のように俺に振られる提案に俺は苦笑いを浮かべながら「そ、そうだな…」というしか出来なかった。

 しかし、こんな時にうまい提案が出来るわけがなく、若干考え込んでしまった時、ジュリとレクターに『タコ』の話をしたことを思い出した。


「たこ焼き?」


 たこ焼きの作り方の詳細を教えた所で、この世界にはそもそも『タコ』が存在しないという欠点に気が付いた。

 タコに似ている生物をジュリに聞いてもまるで見当もつかないらしく、日本側から仕入れられないかどうかとガーランドと父さんに相談すると、向こうの政府と話し合う会場が近いうちにあるらしく、安く提供してもらえないかどうか相談してくれるという話になった。

 たこ焼きでおおよその中身を決め、タコを手に入れたのちに細かいメニューを決める事になり、その日はそこで解散になった。


 在庫管理組はシステム内容の詳細を決め、あとは仕入れ先を把握後素早く仕入れられるかを検討したらしい。

 ウェイトレス組は衣装を決めたのち、直ぐに仕立て屋に相談に行ったと聞いた。


 よく分からないうちに結局俺が巻き込まれる形で決定された。



 自宅に帰った後、俺は父さんに説教をしつつ食事。

 今ではすっかり周囲をエアロードとシャドウバイヤが囲む姿は見慣れた光景になった。

 

 何故かジュリとレクターが止まりに来ているという事はスルーし、仲良く食事をしていると父さんの携帯から着信音が鳴り響いた。

 父さんが食事の席を外し、部屋の片隅で話し始めるとものの数分で帰ってくる。


「お前が言っていたタコ、明日には持ってこれるそうだ。明日の午後にでも持ってくるといっているぞ」

「早かったね」

「まあな。それとたこ焼き器? とやらも持ってきてくれるそうだ」


 仕事が速いなぁ。


「ソラ君は作れるの?」

「小学校の頃にお祭りの出店を手伝った時に作っていこうそこそこな頻度で作ったことがあるよ。まあ、母さんの方がうまいけどね」


 こればかりは母さんの得意分野だったりする。

 あの人洋食を「作らない」というだけで、料理全般は基本強い。


「楽しみだねぇ。じゃあ明日はたこ焼きを実際に作ってメニュー作り?」

「まあな。早めに決めないと困るだろ? それよりレクターはどこの担当なんだ?」

「? 料理担当だけど?」

「………? 居た?」

「居た」


 全く記憶にない。


「だって料理関連でソラやジュリには勝てないから黙っていただけだもん!」


 納得の話。

 まあ料理が最低限出来る程度なので話に混じるほどの知識も無ければ、適当な事も言えなかったのだろう。


「海君も料理担当だけど出来るんだ」

「海の義理の両親が結構酷い人で、海はよく自炊していたよ。俺や母さんがよく料理を押していたよ」


 懐かしい話でもある。

 昔はよく俺の家で海や万理を招いて食事をしたものだ。


「そういえば万理っていうソラの幼馴染は? 参加しないの?」

「サクトさんの言いつけで女学院の出し物に参加するんだってさ」

「言いつけ?」

「なんでもサクトさんの家ではそういう決まりらしくてね。文武両道、仕事と家の事は両立するのが決まりなんだって。学校で出し物をするならそっちに参加するのが決まり」

「まあ、サクトはあれでも厳しい方だからな。本人も軍の警備と出し物に参加するといっているらしいしな」


 父さんがああいうのだからあの人はそっち路線で行くつもりなのだろうな。

 しかし、ガーランドが参加するとは思えなかった。


「当時の警備に父さん達は参加しないの?」

「しない。ガーランドは普段から働き過ぎだと皇帝陛下と最高議長から指摘されてな。強制休暇らしいぞ」


 強制休暇という斬新な単語を聞き流しながら、俺は心で「なら普段から休んでいる父さんはもっと働くべきでは?」という言葉を飲み込んだ。

 この人に何を言っても無駄なのはこの三年の付き合いで良く知っている話で、下手な事を言えばまた引き籠るので何も言わない。


「レクターの家は良いのか?」

「? 出し物なら出さないよ。別にうちの家では何もしないし」

「そうじゃなくて……家の面倒とかいいのか? って話だ」

「母さん達が七夏祭中はいる予定だから大丈夫でしょ」


 そう言ってレクターはジュースを飲みほしたのちデザートに手を伸ばす。

 因みに話をしている最中、エアロードとシャドウバイヤは腹を膨らませながらテーブルの上で横になっていた。


「七夏祭初日はソラ君はお母さんのお出迎えに行くんだよね」

「ああ、ジュリは本当に屋台で良いのか? 正直人数は十分確保されていたはずだけど」

「うん。初日が肝心だしね。初日は家族で楽しんできて」


 ジュリが微笑む最中、父さんは俺の隣で気持ちの悪い顔をしながら母さんと奈美の事を思い出していた。


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