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辿り着いた未来 1

 東京で行われたガイノス帝国軍の戦いはイリーナとヒーリングベルの歌声によって終わりを迎え、各国は国の立て直しを余儀なくされたが、この時の賠償金を払えるほど日本に余裕があるわけでもなかった。

 その際に率先して支払ったのはガイノス帝国を始めとする魔導連合で、日本を始めとする西暦世界の各国はガイノス帝国が提示する交渉条件を呑まざる終えなかった。

 この中で異彩を放つ国が現れ、中国とロシアは提示する条件を無視し、お金を受け取らない代わりに交渉に参加しない旨を各国に伝える。

 事件が落ち着いてきたのは事件発生から三週間が経過した時の事だった。

 六月下旬を迎え、日本は新総理と共に広島に仮の国会で再スタートを切る。

 東京復興までの間までの場繋ぎ程度であるが、それでも日本は再スタートを切り、全く同じ時期各国のトップも同じように新しい始まりとした。


 特にアメリカはかなりの被害を出したにも関わらず新しい大統領は混乱を極めるアメリカをあっという間に統治して見せた。


 ソラ・ウルベクト達士官学生は翌日には帰国の途につくことになったが、肝心のソラは戦闘のダメージからなるべく早めの帰国を進められたという理由もあり、士官学生は素早く支度をしていた。

 列車のホームではお土産を鞄一杯に詰め込んだ士官学生が多くおり、その中でソラの前には涙を流しながら別れを惜しむ妹の奈美と母親に抱き着く父親であるアベルの姿があった。

 そのアベルを引きはがそうとガーランドが必死になっている。


「あと一か月もすれば向こうで会えるだろ? それまで我慢しろ」

「分かってるけど………!」


 再開を約束すると列車に乗り込もうとした時、遠くに荷物をもった剣道場の師範代を見つけ出した。

 師範代は優しそうに微笑みながら手を振ってから振り返り立ち去っていく。

 ソラは黙って頭を下げる。


「ソラ君大丈夫? やっぱり車椅子で帰った方が…」

「そこまで深刻じゃない。それより、イリーナはどうするのか聞いたのか?」

「? そこで奈美ちゃんがソラ君以上に駄々をこねてるよ」

「殴ってこようかな………妹の方を」


 ソラはその光景を見ながら苛立ち、イリーナは困った表情をしながら両手でヒーリングベルを抱きしめている。

 ソラの方からはヴァースの表情が見えないのだが、その代りにヒーリングベルが困った素振りを見せている。


「ソラ……腹減った」

「何かないのか? 我々は戦闘で戦ったのだから報酬があるべきなのでは?」


 エアロードとシャドウバイヤがソラの足元でまるで苦情だといわんばかりに文句を言っているが、ソラはそんなエアロードとシャドウバイヤを睨みつける。


「これから人の家にただ飯を喰い、寝泊りまでをしようとする二人の竜が何を言っているんだろうな?」


 ソラの一声に二人は黙り込む。

 電車から出発の音が鳴るとイリーナがヴァースやヒーリングベルと共に急いで乗り込む。


「妹が我儘で悪かったな」

「いいえ。再会を約束しましたから。ヒーリングベルもごめんね」

「良いのですよ。これから一緒に過ごすのですから。それよりそこの二人はどうしてそんなに不満げなのですか?」


 ヒーリングベルはソラの隣で不満げにしているエアロードとシャドウバイヤに向けて疑問を抱き、ソラが簡単に説明した。

 するとヒーリングベルは二人の前に立ち、これでもかと説教を始め、エアロードとシャドウバイヤはその説教を正座をしながら真面目に聞いている。


「私ガイノス帝国ってどんな場所か楽しみです」

「イリーナは向こうに行ったら事務所に入るんだったか?」

「はい。ヴァースは私の護衛役になってくれるらしくて……これもソラさんのお陰です」

「………俺は何もしていないさ。ちょっとだけ戦っただけだよ」


 ソラはこの戦いが自分の手柄だと自慢するつもりなんて無いし、それで褒められてもうれしくもない。

 日本の新聞やガイノス帝国の新聞では東京決戦から二日しか経過していないにも関わらず英雄の名で呼ばれている。


「向こうでは夢が叶うといいな」


 イリーナはソラの言葉に微笑みながら返した。



 たった数日だというのに俺はまるで一週間以上向こうにいたような錯覚を覚え、後ろでは父さんが一か月ほど会えないのだという精神的ショックから項垂れている。


「おい。この程度の事で一週間引き籠るなよ」


 ガーランドからの言葉に父さんは大きなため息で返し、俺は携帯の時計をジッと見つめていることにした。

 父さんや下で叱られたショックから落ち込んでいるエアロードとシャドウバイヤを無視する形で俺はジュリとガーランド方をジッと見つめる。


「ねえ。俺達海と万理のお見舞いに行って来てもいい?」

「ああ、私達はこのまま軍の仕事に行く。事後処理などがあるからな。お前も来るんだぞアベル。お前は報告書を書いてもらう必要があるんだからな。ほれ、抵抗するな」


 襟元を掴んだまま引きずられる父親、否定しないたなぁ。


 俺達は父さん達を無視して駅前でお見舞いの品を購入後、北区の総合病院までさっさと向かうことにした。

 真っ白な建物に決して高くない三階建て程度の綺麗な病院、それは病院というより女学院とかそういうイメージの強い建物だと思った。


「………いくら悪い事をすればこういう病院を建てようと思うんだろうな」

「ソラ君! 北区は法律で高すぎる建物が作れないの。街の景観を崩すからって」

「にしたところでもう少し病院っぽく出来ないかね? なんというか………もう何年前の建物だよって感じがする」

「建てられてからが結構長いからね。ていうか……イリーナちゃんは?」

「? 事務所でしょ。それよりレクターが居ない方が気になるが?」

「レクターなら学校に呼び出しを受けておるからさっさと向かったぞ、今は儂とお主らの三人だけじゃ」

「「………マリア(マリアさん)居たんだ」」

「おったんじゃよ」


 マリアがいたという事に今気が付いた俺達、レクターが居ないことに安心感しか存在しない。

 取り敢えず病院の中に入って受付をしている時の事、右隣から脇腹目掛けて物凄い衝撃を受けた。

 一瞬でご飯をリバースしそうになりながら、この感覚に懐かしさを感じてしまった。


「久しぶりだね、メイちゃん……」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんだ! どうしてここにいるの!?」

「メイちゃん久しぶりだね。マリアさんは初めましてですよね? サクトさんに引き取ってもらっているメイちゃんです」


 ジュリがメイちゃんとマリアの間を取り持ち、二人はお互いに簡単に挨拶をした所でどうしてメイちゃんがここにいるのかという疑問を聞くことにした。

 元気がいいメイちゃんが風邪だとは思えないし、家族で用事がある様な人に心当たりがない。

 というか、ガーランドさんと違って家族との付き合いや仕事をきちんとこなすサクトさんが家族が倒れているのなら日本までやってこないだろう。


「新しいお姉ちゃんに会いに来たの!」

「新しいお姉ちゃん?」


 ジュリが尋ねる言葉は俺が言いそうになっている言葉、何も聞いていなかったし。


「万里っていう人!」

「サクトさん……」


 またあの人は……そう言う事をしているのか。


 万理と逢いたいが、怪我が酷く家族関係者以外に接触禁止とのことだった。

 メイちゃんは家族という事で面会が出来ていたのだろうが、俺達は一旦諦めメイちゃんが病室に戻るというので万理用のお見舞いの品を渡した。

 そのまま海の病室の場所を聞き出し、二階の端にある綺麗な中庭が見える一室に入院しているそうだ。

 元々ガーランド家が代々使っている病室、今日は奥さんが来ていたらしいが退院するときに部屋の確保の為にと一旦出ていったらしい。


 ちょうどいいと俺達は部屋のドアに手をかけて中に入ろうと思った所で、俺は一旦戸惑ってしまう。


『大丈夫だよ』


 堆虎達の声が聞えてきた。

 背中を押された気がし、俺はゆっくりと部屋のドアを開いて中へと入っていく。


 ベットに横になって窓をそっと眺めている海、俺の方を見付けると気まずそうな表情をしている。


「…………」

「………家族とうまくやれているか? それだけが心配なんだけどな」


 海は涙を流しながら俺に向かって何度も謝り始める。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「………お互い様だろ? 俺もお前もきっと誰にも許されないんだと思うんだ。だから謝らくてもいいさ。その代り俺達は一緒に万理に謝りに行こう」

「………はい」


 海の涙を受け止める。


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