大学攻防戦 8
レクターとボウガンが睨み合う状況が続ている中、大学の東側の校舎が内側から大きな爆発と共に吹き飛んでいき、大きな瓦礫が二人の頭上から落ちていく。
ボウガンは魔導シューターで降り注ぐ瓦礫に魔導構成術式≪爆発≫を付着させるが、レクターはその瓦礫を一つ一つ確実に破壊していく。
レクターは瓦礫の1つを足場に変え、跳躍してボウガンに踵落としを決めるが、ボウガンは体を大きく後ろに飛んで回避。
上から落ちてくる瓦礫が砂埃や破片を周囲に飛び散らしていくが、次々と落ちていく瓦礫一つ一つに別の模様を付着させていく。
『魔導構成術式≪重力零≫』
模様が付いた瓦礫が全て空中で浮かび上がり、ボウガンは自分の足元に魔導シューッターの新しい模様を刻む。
『魔導構成術式≪重力転換≫』
ボウガンの足元から生じつ重力の方向を反対側に変更させ、ボウガンの大きな体が空中に浮かぶ瓦礫の方へと移動して行く。
「魔導構成術式………構成術式の頭の中で計算するだけで簡単に異能を引き出すことが出来る。こういうやり方もできるのさ」
「む………ズルい」
瓦礫を足場に更に上へと移動して行くボウガンと、ボウガンを追いかけるレクター。
二人は空中に浮かぶ瓦礫を足場に完全な空中戦、しかしボウガンの新しい戦術の前に少しだけ押され気味のレクター。
(こうなったら裏の手を使うしかないね!大会でソラ用に用意した戦い方なのに!!)
レクターは腰のポケットから一枚のSDカードのような小さなカードをナックルの魔導機に差し入れる。
魔導機からファンのような音が鳴り響き、小刻みに震え始めるとレクターの体に電流が走るような形で髪の毛が逆立って見える。
『簡易魔導構成術式≪電磁開放≫』
レクターの体がボウガンの視界から完全に姿を消し、その次の瞬間にはボウガンの背中に強烈な痛みが走る。
そして、ボウガンの体が別の瓦礫まですっ飛んでいき、瓦礫に右手を付きながら体を半回転させてうまく着地する。
素早く身をひるがえしてレクターをしっかり視界に入れる。
先ほどまでボウガンが立っていた場所に全身から電気を放っているのではないのかと思われるほど、そんな強烈な印象を受ける立ち姿を見せるレクター。
「そうか………さきほど君が魔導機に差し込んだのは簡易的に発動できる魔導構成術式を記録させた記録媒体か何かだな。そういえば、ガイノス帝国が日本やアメリカと共同開発したと聞いたことがある」
魔導構成術式は『場』や『無機物』などに付着させることで発動させることが出来るが、その反面人間などの生物に発動させるには着ている服などに付着させる必要がある。
そんな特性を利用して魔導機そのものに魔導構成術式を外部で記録させる。
そうすることで魔導機を装備している人間に影響を与える。
しかし、皇光歴の世界には魔導機に外部ユニットを使う事で記録させるような高性能記録媒体は存在しなかった。
そんなこの世界に現れたのが、西暦世界に存在するSDカード等の記録媒体がその全てを変えた。
結果。
完成されたのが魔導構成術式を記録させたSDカードとそれを差し込む最新式の魔導機の誕生だった。
「あるとは聞いたことがあるが………さすがはガイノス帝国の士官生といった所か……」
「これは俺の切り札。誰かにばれる前にあんたを倒す」
二人が戦いを再開させようと睨み合う状況が続くが、その間に東側の校舎から二つの影が飛び出していく。
ソラと烈火の英雄の戦いが終わりに迎えようとしていた。
外相の体を拘束していたロープが先ほどの衝撃で解けてしまい、外相は地面を這いずり回りながら逃げ惑おうとする。
烈火の英雄はそれを決して逃がさないように、剣から斬撃を外相目掛けて飛ばすのだが、それをソラの斬撃が邪魔をする。
空中で衝突した二つの斬撃、熱風という形で周囲に影響を与えていきその熱風を体全体で浴びた外相の怯えは更に大きくなっていく。
「ヒィィ!!」
烈火の英雄の前で情けなく逃げていく外相は瓦礫の上を這いながらようやくの想いで外へと逃げていく。
それを目だけで確かめたソラは魔導銃の引き金を二回連続で引き、照準を烈火の英雄の後ろの瓦礫に向ける。
飛び出る風の弾丸は瓦礫を大きく吹き飛ばし、砂埃を巻き上げ周囲の炎を一点に集めていく。
「狙いは外相のクソ野郎が逃げる為に邪魔な炎を集めるか………だったらなぁ!!」
二本の剣に意識を集中させ、一点に集まっていく炎を自らの剣に集中させていく。
二本の大きな炎の渦がその目の前で出来上がっていき、ソラはそれに負けじと大きな風を一点の緑星剣へと集まっていく。
二人はほぼ同時にお互いに武器を振り下ろし、凄まじい衝撃は大きな爆弾へと変貌していき二人の体が校舎を突き破りながら外へと飛ばされていく。
ソラと烈火の英雄の意識は一瞬の間だけ失っていたが、目を覚ました瞬間にソラは自分の体が空中を待っていたことに気が付く。
意識を集中させ体を空に浮かせる。
少しだけ距離を開けて烈火の英雄は炎を使って空中に浮かんでいる。
二人は再びぶつかり合い、衝撃が大学の外にいる避難している人々にも被害が渡っていき、大学周辺にいる民間人の多くが『星屑の英雄』と『烈火の英雄』の戦いをその目に刻みつけている。
「すげぇ………」
「これって人間が戦っているのか?」
ぶつかり合い、距離を取って、再びぶつかり合う。
そんな戦いを数度繰り返している間に二人共息切れが始まっていき、疲れがお互いに技の切れを低下させていく。
斬撃が来るという危機感があったのか、それとも偶然なのか身を後ろに引いた瞬間に烈火の英雄が居た場所に大きな斬撃が通り過ぎた。
二人の顔が同時にそちらの方に向くと、建物の屋上に『アベル・ウルベクト』とその周辺にガイノス帝国軍の軍勢が集まっていた。
「クソ。アクア・レインの駐留軍か………作戦は失敗だな」
烈火の英雄はポケットの中に入れている缶ジュースのような物を取り出し、差し込まれているピンを抜いて空に投げる。
眩い閃光が視界や音を封じるが、そのタイミングで複数の『何か』が水面に落ちる音が聞こえてくる。
閃光の眩さとは別にソラは烈火の英雄の居場所を気配で追いかけるが、最後に視界が開かれソラの目の前に広がっていたのは何もいない水面のみだった。
結局の所で彼らがどこから現れ、どうやって去っていったのかがまるで分からず、ガイノス帝国軍は校舎の殆どが崩壊してしまった大学の中での調査が始まっていた。
先ほど理事長と思われる遺体も発見されてしまった。
特に資料室から中心に東側は全壊してしまっており、大学の貴重な資料などは修復不可能なダメージを被り、多くの学生は膝を打ちながら彼らの仕打ちに涙を流す。
ソラはそんな彼らの姿を遠くから眺める事しかできず、ガイノス帝国軍の調査を外から眺める。
(分かっていた。俺はあくまでも学生であって、軍人じゃない。戦うこと以外に何もできない自分が嫌になる。だからと言って軍人になりたいとは思わない)
肩を落としながら近くのベンチに腰を落とし、ため息を吐き出しながら顔を大学の方へと向ける。
(そういえば………レクターはジェノバ博士にバルを渡したのか?忙しかったし………あいつの事だから忘れてそうだけど)
すっかりジェノバ博士にバルを渡す事忘れていたレクターは今頃になって戦っていた場所を探し始めた。
研究所前まで引き返し、研究所の出入り口のドアの近くに隠れる形でバルを発見して持ち上げたときだった。
目の前に転がる侵入者の死体の腕に十字と四角の刺繍のようなものが見えた。
最初はただの刺繍だと思い無視していたのだが、別の死体にも同じ刺繍が付いていることに気が付いた。
「全部の死体に同じ刺繍があるのかな?」
呟いた言葉を聞いている者はいなかった。
刺繍を確かめに行くか、それともバルを渡すのが先かを葛藤した結果レクターは刺繍を優先した。
欲望に勝てなかったレクターはそのまま刺繍探しの為に壊れた校舎の中へと入っていく。