東京決戦 12
エアロードとシャドウバイヤのブレス攻撃を両手で受け止めつつ、背中から作り出した砲台を二人の竜目掛けて打ち出す木竜。
木竜からの攻撃を真っ当に受けてしまったエアロードとシャドウバイヤ、落下しそうになるのを必死で抑え、エアロードは木竜の真下へと潜り込む。
エアロードの両手に緑色に見えるエネルギーが集まっていき、それを木竜目掛けて思い息り斬撃として叩きつける。
しかし、攻撃を受けてもまるでダメージが入った気がしない中、シャドウバイヤは自らの影を使って木竜を世界樹に封じ込めようとする。
影が槍のような形となって襲い掛かり、木竜の体に突き刺さるが木竜の体は攻撃を受けた所をまるで意にも返さない。
自らの体を切り外しながら拘束から抜け出し、シャドウバイヤの首を強く噛む。
「相も変わらずな奴だ。まるで戦法が変わらない」
「……貴様と違って絡めてでしか戦えないのでな」
エアロードが木竜の後ろから風の剣を作り出して思いっ切り突き刺し、それを横なぎに振って体を真っ二つにする。
しかし、木竜の体は一瞬で元の体に戻っていき、同じようにエアロードの首を絞めた。
「竜の欠片や竜達の旅団の力があるから弱点がある程度補完されたといっても、所詮は聖竜の力の一部の更に一部に過ぎない。対異能は上がって、私の不死力をそぎ落とすまでにはいかないようだな」
「ぐっ……この化け物め!」
「私からすれば君達が貧弱なだけだ……!」
爆撃攻撃を首元に浴びせ、二人はそのまま地面まで落とされてしまう。
竜の体は頑丈にできている為簡単には傷はつかないが、見えないダメージが確実に蓄積していく。
上から急降下してくる木竜を転がりながら回避し、左右から挟み込む形でブレスを浴びせるが、木竜はそれを羽だけで受け止める。
エアロードとシャドウバイヤの目の前が爆炎や煙で視界が埋まるが、その中から木竜の根っこが二人の体を絡めとる。
「あの頃………二千年前に思い知っただろう。お前達と私とでは竜としての格が違うのだと。いくらお前達があの少年から力を得ようと、いくら努力しようと格事態はどうしようもないものだ」
「確かに思い知った………だが諦める理由にはならない!」
「今日こそお前の最後にする!」
口を大きく開けエアロードとシャドウバイヤは限界ギリギリまでブレスを浴びせていく。
木竜は決して抵抗することも無く真正面から攻撃を受け止めていくが、その表情は歪みながらもどこか嬉しそうな表情だった。
俺が王島聡の頸動脈目掛けて剣を斜の軌道を描きながら振り下ろすが、その攻撃を王島聡は素早い動きで回避するが、それでもギリギリまで相手の動きを視認することができた。
右横からやってくるハンドガンの攻撃を剣で弾こうと考えた所で、背筋にゾッとする感覚を得て止めた。
後ろに小さく跳躍し、俺がいた場所の床に小さな弾丸の穴が開いた。
ただのハンドガンじゃないとは思っていたが、貫通力が半端ではない。
普通のハンドガンだと思って剣で弾けば貫通していただろうし、何より当たり所によっては即死の可能性さえある。
王島聡の舌打ちが聞えてくる。
「ガイノス流剣術……斬!」
水平斬りを相手の足元に浴びせつつ、意図的に回避させ俺はそのまま王島聡の鳩尾にケリを叩き込む。
王島聡の表情が歪み、空中で悶えるかと思えばハンドガンを俺の額めがけて引き金を引いた。
弾丸の速度が異様に早く、俺はギリギリで回避したと思ったが頭の鎧の一部を破壊し、右額から微かに血を流し始める。
右目に微かにだが血が入って視界の一部を塞ぎにかかるが、今更そんな事を気にしている場合ではない。
鎧はあっという間に修復していき、王島聡もうまく着地してこちらを睨みつけてくる。
右側の視界が邪魔になるような気がしたが、そこに気を付ければいいのだと再び走り出し俺は剣を縦に振る。
俺からの攻撃を王島聡は剣を受け止めるが、俺の緑星剣と王島聡の剣が衝突した途端火花が散り始める。
剣の削られる音が確かに聞こえてくる。
「ただの剣じゃない!?」
「高周波ブレードという仮想の武器を現実に変えた武装デバイス。切れ味の良すぎる剣だと思えばいいさ。ほらほら……お前の剣が切られていくぞ」
「なめるなよ……!」
俺の頭の中にあるイメージ力を上書きしていく、竜の欠片も竜の焔も魔導機すらも結局でイメージの力。
俺が出来ると想像したことは、俺の意思が本物なら必ずこの力は答えてくれる。
俺は負けられない!
緑星剣は絶対に折れない!
押し返しながら折れそうになっていた緑星剣がドンドン修復していき、王島聡は驚きを隠せずにいる。
俺はそのまま押し返し王島聡の剣を真上にへと弾き、そのままの勢いで王島聡の左腕を切り落とした。
歯を食いしばりながら耐え忍ぶ王島聡、出血が激しくとてもではないがこのままでは助からないだろう。
だが、ここで躊躇をすれば何も解決しない。
俺は心に鞭を打ち、王島聡の首を目掛けて剣を振ったが、その攻撃は木竜の逞しい右腕が邪魔をした。
「今思えば………君と話をした所からが全ての始まりだった」
「そうだったか……なら最後まで共に戦うか?」
「………どうせこのままだと負ける。なら、最後まで足掻こう!!」
俺の目の前で木竜と王島聡が融合していき、俺はシャドウバイヤとエアロードを探し出す。
すると、地面の方で力尽きて世界樹の根に拘束されている。
「もう………終わらせよう」
その声がしたのを俺の両耳がはっきりと聞き取り、俺は驚きながらもう一度王島聡の方へと向き直った。
そこには化け物がいた。
両腕と両足は木の根っこのようで同時に竜のようにも見えるが、二本の脚で立ちながらも両腕と共に人の形をしている。
顔は王島聡をしているのに所々に木竜の名残を残している。
実際両目は木竜の目、口からは竜の牙を思わせるものが露出しており、頭部は竜の鱗が右半分を覆っていた。
背中からは木竜の羽が生えている。
人と竜が見事なまでに融合したその姿、俺は驚きと衝撃で立ち止まっていた。
もう人でもなければ竜ですらない。
「………そこまでしてお前達は」
「そこまでして我々には成したい事がある。君には分からないさ。英雄ともてはやされる君にはね。世界の敵だと断じられる我々の気持ちなんて」
確かに分からないし、分かろうと努力すらしたことだって無いのだろう。
だが、それなら彼らは俺が英雄だともてはやされ、ある意味押し付けられる人間の気持ちが分かるのだろうか?
「お前達なら分かるのか? 英雄だと勝手に持ち上げ、押し付けられる人間の気持ちが」
「我々には分からない。結局で分かり合う事なんて絶対に不可能なのさ。この世界は分かり合う事なんて不可能」
「………それでも俺は信じたい」
信じていたいんだ。
分かり合えないのかもしれないし、お互いに拒絶し合うのかもしれない。
でも………。
「悲しいんだ。分かり合えないって決めつけて人に厳しくする事しか出来ず、目の前で人が苦しんでいても誰も手を差し出さないなんて……俺は……目の前で苦しんでいる人が居たら俺は手を指し伸ばしたい」
それが見苦しくありえない道なんだとしても、それでも信じていたい。
英雄だからとか、勇者だとかなんていうのは関係ないんだ。
「俺は俺だから……三十九人の意思を背負うと決めた時からどんな苦難な道に迷い、どれだけ足を止めても俺が俺なんだという事だけは変えたくない。これはお前達から学んだことなんだよ。お前達の戦いも俺のこれからになる」
「…………なるほど。聖竜が認めた英雄という訳だ」
小声で何かを呟く王島聡と木竜の融合体。
「ならそれを証明して見せろ。我々を倒す事で………来いよ英雄」
「証明するよ。俺が俺であり続けられることを……なによりこれからも救えるという事を!!」
緑星剣をまっすぐに向ける俺の心はようやく前を向く事が出来た。
戦いは最終局面を迎えようとしていた。