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東京決戦 9

 エアロードが「これ以上は怖い」というので諦めて降りた場所からなるべく直線状に、かつ木竜に見つからないようにを心がけながら歩くことになったのだが。

 そんな俺達の目の前に鉄巨人と比喩してもいい存在がいくつも立ちはだかってしまう。

 無論そんな存在に一回一回挑んでいると体力がいくつあっても足りないので、なるべくは回避しつつどうしても戦わないといけない相手だけ戦うことにした。

 小走りでなるべく早めにと急ぎながら三十分の地点でエアロードがギブアップを宣言した。


「情けないな。それでも戦闘最強の風竜なのか」

「……………!」

「顔でお前は飛んでいないからいいだろうに………と言っているぞ」

「フン。普段からグウタラ生活をしているから体が訛る」

「……………!」

「お前にだけは言われたくないと不満げですが?」


 エアロードはずっと飛び続けており、その結果エアロードは俺達に休憩を申し出た。

 今日は戦闘するだけだったため鞄も持ってきておらず、背中に背負うと俺が付かれるので却下。

 シャドウバイヤは優雅に飛び回っており、見慣れない風景に興味津々。

 汗をタップリ掻きながら地面に四肢を付け、息を整える暇もないほどに疲弊しているエアロード。


 俺としてはこの後の作戦に仕えるのではと思うので、一旦休むことにした。

 ポケットの中から財布を取り出し近くの自販機に近づいていって適当な飲み物を購入する。


「ほれ。スポーツドリンク」

「……………ジュースがいい」

「贅沢言うな。そもそもそんなに汗だくなんだから脱水症状になるぞ」


 キンキンに冷えたスポーツドリンクをエアロードの右ホッペに軽く当てるとエアロードは気持ちよさそうな顔に変わる。

 どうやら冷えていて気持ちよかったらしく、俺が離すと物足りない様な表情に早変わり。

 俺は「自分で持て」と言ってエアロードに押し付け、俺は同じスポーツドリンクをシャドウバイヤに押し付けた。


「ここからでもはっきりスカイツリーはよく見えるな。とは言っても殆どは木の根っこでぐるぐる巻きになっているようにしか見えないけど」

「あれが世界樹だな。あれでもまだまだ一割無い程度かな。まあ、完全体の世界樹何て誰も見たこと無いがな」


 世界を覆うほどに大きな存在になる世界樹、その中はきっと魔物の巣窟になり、その中で王島聡は妹と永遠に一緒にいられるのだろうか?

 木竜の嘘という話では無いのか、もし嘘なら説得できるのではとこの期に及んで穏便な話を思いつくが、その程度で彼らの不幸を払拭できるわけがない。


「王島聡や木竜にとってこの世界は何色に見えるんだろう」

「…………さあな。灰色……モノクロかもな」

「全部がモノクロの世界。色が付いていない色彩の存在しない寂しい世界。辛いな……」


 彼らにとって世界はモノクロだったのかもしれない。

 白黒でつまらない世界なんて俺だったらと考えてしまう。


 俺にとってズレた感覚で生きてきたが、ジュリや父さんやレクターと出会いそんな感覚はなりを潜め、その代わりに王島聡は不幸に、海は罪悪感に捕らわれてしまった。

 今更自分の歩いた道に後悔や罪悪感を抱かないと決めた身、王島聡が俺の愛する世界を壊そうとするのなら俺は守る為に戦うだけなんだ。


「決めた覚悟をここで確かめる事が出来た。きっとこれは必要な時間なんだ」

「………この情けないエアロードを見る時間が必要なのか?」

「………きっと必要だったんだよ。多分」


 自信をもって答える事は出来ない。

 五分経ってもまるで体力が戻らないエアロードであった。



 結局俺が背負って歩く羽目になってしまい、スカイツリー近くまで近づいたのは良いが、周囲に鉄巨人サイズの化け物が五体も徘徊している。

 というか好きだね鉄巨人みたいな化け物。

 もういい加減見飽きた。


「なんか見飽きたな。あの化け物」

「エアロードは体力が戻ったんならいい加減自分で飛んでくれないか?」

「あれを駆除する必要があるな」


 体力を無駄に消耗する戦闘ををここで繰り広げなければならないんだと思うとウンザリするし、何よりこんな所で無駄な時間を過ごすのかと思うともっとウンザリする。

 俺は緑星剣を呼び出し、なるべく体力を消耗しないようにと攻撃は回避することにし、星屑の鎧はなるべく召喚しない方針で行くことにした。


「エアロードとシャドウバイヤもさすがに戦闘に参加してくれよ」

「よいが。このサイズだと出来る事に制限が……」

「囮になってくれればいいさ。その隙に俺が破壊するから」


 エアロードとシャドウバイヤが最も近い鉄巨人にブレスで攻撃を浴びせ、鉄巨人はエアロードの方を標的にしながら大きく太い刀を振り下ろす。

 エアロードは鈍い攻撃を華麗にかわし、俺の方まで近づけた所で俺は横から鉄巨人に緑星剣で切りつける。

 鉄巨人の胴体は固く簡単には斬れない。


 心の奥から「切れろ!」と何度も何度も念じながら緑星剣を押し付け、力一杯籠めた一撃は最後には鉄巨人の右腕を切り飛ばした。


「良し! このまま行ける!」


 うまく着地し体勢を大きく崩した鉄巨人に先ほどまでの容量で水平斬りで右足に決める。

 大きく崩れながら俺は胴体に乗っかり、その状態で縦斬りの容量で鉄巨人を真っ二つにしてしまう。


「この要領で行くか。できれば安全を喫して残り四体も倒したいな」

「良いが。この作戦疲れるぞ。私達はこの後も戦いがあるのだが」

「それは俺も同じなんだが?」


 何故エアロードは俺がまるで戦わないみたいな言い方をするのだろうか?

 むしろ俺が中心に戦うのに、まるで自分だけが戦わされているみたいな。


「ほれ。さっさと行け!」


 俺はエアロードとシャドウバイヤが引き連れて俺が倒すという作業を繰り返して十分、ようやくスカイツリーへの侵入を試みようとしていた時だった。

 木の根を通じてジュリ達の危機が映像という形で俺の脳裏によぎった。

 最初こそ幻覚かと思ったがエアロードとシャドウバイヤも見えたというのでこれは現実だと認識することにした。

 問題はどうすればその場所までたどり着けるのかという話だ。


「スカイツリーの近くに出入り口があると思うが……」


 焦りながら探していると木の根に囲まれる形で作られた大きな門、俺はそれを両手で力強く開けていく。

 木の階段を二段飛ばしで降りていき、最後に存在している大きなドアを俺は力一杯に開いた。



 ガーランド達の戦いは苦戦の連続だった。

 数で押されていく中、イリーナだけでも出入り口に送り出したい一行だが、血路が切り開けないままの状態がもうかれこれ何十分も続いている。

 ガーランドとレクターが殆どの敵を引き連れているのに、この物量差に負けそうになっている。

 この作戦はイリーナに呪詛の鐘をヒーリングベルに戻してもらわないと完成しない。

 何が何でもイリーナを出入り口に連れていこうと皆が必死になる中、ヴァースがイリーナとジュリを抱えた状態で走り出した。

 ガーランドはレクターにヴァースの援護に向かわせるが、ヴァースの方が圧倒的に早く中々距離が埋まらない。

 ヴァースは体中に傷を負い、それを修復していくが次第に流れる血の量の多さから再生能力が一時的に薄れていく。


「もういい! やめてヴァース!」

「守ル………誓ッタ!」

「ヴァース…………やめて」


 ヴァースはジュリとイリーナを抱きかかえたまま前のめりにコケてしまう。

 鉄巨人の殆どが集まっていき、ヴァースを殺そうとする。


 レクターもガーランドですらも援護に向かえない中大広間のような空間にソラが出口から入ってきた。


「刺殺の束!」


 ソラが剣を地面に差し込むと大広間に大量の緑星剣の束が魔物を一撃で封じ込めていくが、これは一時的なしのぎにしかならない。


「ジュリ! イリーナを連れてソラの元に向かえ! 今は作戦を成功させることだけを考えろ!」


 ガーランドからの言葉に黙って頷くジュリ、ジュリはヴァースから離れたがらないイリーナを張りてで引っ叩く。


「しっかりして! あなたをここまで連れてきたこの人の覚悟を無駄にしないで。信じて! 仲間を! 絶対に守ってくれる!」

「…………行ってくるね」


 イリーナとジュリは走り出していき、ソラに手を伸ばす。

 それは刺殺の束を解除しジュリの手を強く握りしめて門に手をかける。


「行って来い! お前の役目を果たせ!」

「分かってる! 絶対に助ける!」


 ソラは黙って門を閉じた。


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