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東京決戦 7

 真っ暗な空の正体が真っ黒な雲なのだとはっきりと分かったのは、剣を交える前にふと空を仰いだ時の事だった。

 その原因が何なのかと考える前に、目の前にいる忌々しいといってもいい俺の影と対峙しなくてはいけない。

 しかし、この真っ黒な雲は太陽の光を完全に遮断し、隙間からだけしか太陽の光を感じる事が出来ない。


 街灯の光も弱弱しくスクランブル交差点の周りのネオンも今だけは不気味な光に見え、その光も今に消えそうに見える。

 緑星剣を握る力も次第に強くなっていくのが自分でもわかり、その理由が目の前にいる俺の影に対する苛立ち、屈しそうになった自分自身への情けなさ。

 また、堆虎達を頼ってしまった。

 何とも情けない話で、彼女達は死んでなお俺を支えようとしてくれるし、今だって俺に力を貸してくれる。

 あの日誓った言葉、その思いが簡単な言葉で揺らぎそうになった。


 誓ったんじゃないか。

 三十九の星々に、一本の剣として生きた証を死ぬまで背負うと。


 緑星剣の刃先を真直ぐに俺の影の戻元の方を向けるが、相手は肩をすくめて「やれやれ」みたいなポーズをとる。


「苦しみから解放されたいと願いながら、苦しみの道を歩こうとするとは」

「もうお前の手段には乗らない。お前は俺の事を何一つ理解していない。今こうしている間も俺の背中には三十九人がいつだっているんだ。そんな彼女達がいつだって俺を見ているんだよ」


 今更逃げるわけにはいかない。


「三十九人の事を考えない俺なんて俺じゃない。目障りだ……消えろ」

「なら俺が俺になろう」


 跳躍するのはほぼ同時で全く同じタイミングで緑星剣を振り下ろし、金属がぶつかり合う音が衝撃と共にやってくるが、俺はそれに決して怯まず臆することなく睨みつける。

 鍔迫り合いをしながらなんとかそのまま押し倒そうと力と体重をかけるが、全く同じ力で押し返されてしまう。

 これでは埒が明かないと一旦後ろに跳躍するタイミング、踏みとどまってから再び跳躍した後三連撃を叩き込むタイミングまでが全く同じ。


「君は俺。俺は君だ。だから考えが読まれる」


 否定したくなる感情をグッと抑え、俺は力強く剣で突き刺そうと右手を武器ごと伸ばすが、相手が全く同じタイミング同じ距離で攻撃を繰り出すので、ちょうど真ん中でぶつかり合ったのち後ろに弾かれる。


 正直きりがないという感情が心の奥からやってくるが、それ以上にどうやれば勝てるのかと悩んでしまう。

 ここで『ラウンズ』を頼ることは簡単だったが、『ラウンズ』までもがコピーされそうな気がする。

 自分の力で乗り越える事に意味があると思う。

 なんとなくだが、説得しても意味がないような気がするし、何より説得したくない。

 三十九人の努力を生きた意味を蔑ろにするような事を進めるような言葉を吐き出すような奴に説得したくない。

 そう考えた所で俺はある疑問を抱いた。


 俺は三十九人の事を蔑ろにしようとは思わないし、何よりそんな事を考えもしない。

 だが目の前にいる自称俺の影はそれを簡単に口にした。

 俺の心がそれを求めたというのならもっとうまく騙す術があったはずだし、やり方なんていくらでも存在したはずなんだ。

 本当に目の前にいるあれは俺の影なのだろうか?


 そう言えばシャドウバイヤが最後に何かを言っていたと思い出し、記憶を探っていると初めて向こうから俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 首元目掛けて斬りかかる攻撃を俺はバックステップだけで回避、更に二連撃目が今度は胴体を横なぎに襲い掛かってくるが俺はそれを打ち上げる形で回避。


 やはり違和感がある。

 戦い方は確かに俺を模しているし、俺が仕掛けようとする攻撃を模しているようにも思えるがこれでは決着がつかないのは事実。

 俺を殺すというのであれば、俺の行動を理解しているのであれば俺を上回る行動がとれるはずだ。

 ならそれをしたくない理由、それをしなくても勝てる理由。


「お前……()()()()()()()()()()()()()()()()() そうやって俺に成り代わるつもりなのか?」


 初めて動揺と怒りをはっきりと体中で感じだ。

 力一杯襲い掛かってくる縦斬りの攻撃を真正面から受け止め、攻撃を受けた瞬間に頭の芯から冷静になっていくのが分かった。


「さっきの会話だってそうだし、今までの攻撃だってそうだし。お前は俺の行動を理解しているのならやり方だっていくらでもあったはずだ。なのに、お前は直接手を下す方法を避け、ひたすら俺が自滅することを望んでいる。お前にとって力での勝利はある意味敗北なんだ」


 籠めてくる力が更に増していくのが分かるが、それでも俺は負ける気がしなかった。

 昔ガーランドから授業で教わったことがある。


「全く同じ力、全く同じ技術を持っている人間で勝負をした場合勝つのは相手の思考を乱したものだ。隙を作り出す事が勝利になる。あらゆる勝負において隙を作ったものが勝つんだ。人の多さや少なさ、技術の上下、弱点などはその補完に過ぎない。戦いや戦場において重要なのはあくまでも思考をを乱す事だ」


 方法なんていくらでもある。

 負けず嫌いな相手は長期戦になれば焦り始めるし、一件油断をしない相手だって必ず心に隙間がある。

 それを理解することが戦術だと教わった。

 まさかあんな将来役に立たない様な話が役に立つ日が来るなんて。


「思えばお前は最初っから俺に死を望んでいたし、戦いになってからも随分長期戦になるように仕掛けている。お前は俺を殺せない!」

「………! 所詮は影さ。影らしく影らしい手段で乗っ取ると決めた。だがしかし、バレたのならこのまま直接殺してやる」

「……乗り越える時なのかもな。今の自分を超えて明日を見付ける為にも………! 今を超える時!」


 攻撃を上へと弾き後ろにバク転しながら一旦距離を取り、影は俺との距離を詰めようと走ってくる。

 俺は冷静に攻撃リズムを予測し、相手が繰り出す三連撃を上手く捌きそのままタックルを決めて相手の体勢を崩し、相手の首元に真直ぐ斬撃を伸ばす。

 しかし、相手は体勢を崩した状態でも攻撃を弾く。

 そしてお互いに絶妙な距離が生まれた。


「「…………」」


 嫌な沈黙が流れていき、お互いに剣を低めに構える。

 今俺が出せる一撃、それを一回の斬撃に込める。


「「ガイノス流剣術水平斬撃技『斬』!」」


 跳躍し距離感を潰しながらお互いに剣に力一杯の力を籠める中、相手は俺のへの殺意で一杯一杯になっているように感じた。

 しかし、そんな中俺は何故か木竜になり果てたファンドとの戦いを思い出していた。

 あの時ガーランドが俺に告げてくれた一言は俺にジュリを守る力を与えてくれた。


 敵より早く、敵より長い射程で、敵より強い力で振り切る。


 一回の呼吸で肺に大量の空気を送り込み、何故かその時体力だけでなく力までが増していき、瞬発力が一気に向上して相手より明らかに早く動き始める。

 剣先で風を掴むようなイメージで剣の射程を伸ばし、驚きがマスクで隠している相手に思いっきり力一杯の一撃を叩き込んだ。


 風の剣が相手に鎧に食い込んでいき、ヒビ割れていく鎧が砕け散ると中から俺そっくりの顔が微笑みながら光になって消えていくのが分かった。


「なんだ………出来るんじゃん。忘れるなよ?」

「お前………誰なんだ? 何なんだ?」

「世界樹が作ったお前の影さ。その感覚を忘れるなよ。その感覚がお前を勝利に導くんだ」

「………初めっからお前はその為に挑んだのか?」

「あのルートからだと辿り着けない可能性があったからな。お前が外にいれば……きっと皆たどり着ける」

「!? だからお前は………」

「言っただろ? お前の影だって………勝てよ」


 その言葉を最後に俺の影は完全に光の粒子になって消え、空へと還っていく。


「勝つよ……」


 エールありがとう。


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