大学攻防戦 7
大学構内にある理事長室、燃え盛る部屋で星屑の英雄と烈火の英雄は至近距離で睨み合っていたが、その間で体がロープで拘束されながらも全身で怯えを表現している外相。
そんな外相の事なんてまるで眼中にないように至近距離でお互いに武器を構えた状態、烈火の英雄の鋭い目つきが星屑の英雄であるソラの下にもきちんと届いている。
しかし、ソラの目つきも顔つきも全てはマスクが覆い隠しており、全身の緑色の鎧が目の前に立ちふさがる烈火の英雄を映し出す。
「何故そんな男を庇う。人間の底辺のような男を………」
「この男を庇うわけじゃない。この男が罪を重ねたのならそれは法的な方法で裁くべきだ」
「こいつにそんな方法で裁けると思うのか?」
「ならあんたのこのやり方が正しいと?無関係な人間をたくさん巻き込んだやり方が」
烈火の英雄は武器を握りしめる手の力が増し、同時に怒りを口に出して吐き出す。
「正しさが人を救うわけじゃない!」
「でも………正しさで人を救わないと心が救われない」
烈火の英雄に対して毅然とした態度で反論するソラの言葉には一寸の迷いも無い。
「心を救わないと誰を救っても苦しくなるだけだ。正しさが人を救うわけじゃない。それは当然の事だ、でも正しさが無いと心が救われないから。だから俺は正しさで人救いたい」
ソラの心に迷いはない。
進むべき未来が分からなくても、たとえ時に道に迷いそうになっても、それでもソラは真直ぐ前を向きながら折れること無き強固な意思で突き進むだろう。
「アンタは苦しくなったのか?」
「そんな………そんな事を知ってどうする!?」
「………別に。あんたがこれ以上踏み込んでほしくないならこれ以上踏み込まないさ。でも、これ以上俺の前で暴れ回ってほしくない!」
「俺はそいつを殺す。そうでなければ父さん母さんも………妹だって浮かばれない!生きることも許さないこの男を殺さないと誰も!」
「生きるって…………生きるって難しいんだぞ」
「………!お前がそんな言葉を口にするな!」
烈火の英雄の鋭い一撃が斜め下目掛けて振り下ろされるが、ソラはその一撃を冷静に見極めてから攻撃を受け止める。
魔導銃の照準を烈火の英雄の腹に向け、容赦なく引き金を引くと同時に風の弾丸が大きな強風となって全員に襲い掛かる!
「生きる事が難しい事ぐらい……分かっているさ!」
吹っ飛んだ烈火の英雄は自らを押しつぶそうとする瓦礫を押しのけて立ち上がり、もう一つの剣を取り出す。
両手に両刃直剣を逆さ持ちで構え、二本の剣が真っ赤なオーラのような光を発していく。
(やっぱり『異能』の力を使うのか………色は『赤』、という事は炎に近いんだろうが……俺の『緑』とは相性が悪いんだけど………こればかりは仕方のない事だ)
ソラは緑星剣に緑色のオーラのような発光を纏わせていき、周囲の熱が烈火の英雄に集まり、風はソラに集まっていく。
お互いに力を増していき、ほぼ同時に剣がぶつかり合い衝撃が周囲の壁を吹き飛ばしていき外相の体も外へと吹き飛ばしていく。
お互いに吹き飛ばされまいと全身に力を籠め、力を籠めれば籠めるほどに更に衝撃が増していく。
大学を吹き飛ばしていくのではと思われるような衝撃は外からでもはっきりわかった。
レクターの右ストレートとボウガンの斧による重たい一撃はほぼ互角だったが、それでも重さの分斧が多少勝ってしまった。
しかし、レクターは重さを上手く全身を使って受け流し、左拳をボウガンの無謀な腹目掛けて叩き込む。
ボウガンの右わき腹に深々とめり込んでいく左拳、ボウガンの表情が多少なりと歪むのだが、ボウガンは痛みからくる苦痛を下唇を強く噛むことで耐える。
地面に叩きつけられる斧、レクターは体を捻って背中にまわりこもうとするのだが、ボウガンは全身の筋肉を捻って使い切り、レクターの右サイドに向かって重たい一撃を叩き込む。
何とかギリギリで防御したレクター。
レクターの体が思いっ切り大学の壁にめり込んでいく。
「ガキが調子に乗るんじゃねぇ!この程度!」
レクターは肺から酸素を吐き出してしまい、地面に両手をつきながら肺一杯に酸素を入れる為に大きく空気を吸う。
その間にボウガンは一気に近づいていくが、レクターは地面に両手をついた状態で魔導機で地面を操作する。
地面から複数の槍が斧を持ち上げたボウガンの無防備な胴体に襲い掛かり、鋭い槍から多少の血が流れ始め、レクターは空気を肺に入れてしまう。
体力がもう一度元に戻ったことを確信すると、魔導機の物質操作機能を完全に解除しボウガンの鳩尾に右ストレートを叩き込む。
ボウガンは痛みと、深々と突き刺さった槍のダメージによって口から血を吐き出す。
しかし、足腰に力を籠めて何とか耐え忍び、ボウガンはコンクリートで出来た斧を解除し、右腕の服の襟を捲り上げる。
右側にあるのは本人の名前通りの簡易型のボウガンが仕込まれている。
「魔導構成術式解除。魔導シューターを発動」
「それって………ボウガン?」
「正確には魔導シューターという海洋連合が開発した兵器だ。威力はお前自身の体で確かめるといい」
シューターの弦の部分を手元まで引きながらレクターの左拳によるフック攻撃をステップで回避する。
同時に架空の矢をボウガンは想像し始め、シューターの弾丸は音をたてないようにレクターの額めがけて飛んでいく。
しかし、レクターの持ち前の身体能力で回避するのだが、矢が当たった大学の壁に奇妙な模様が浮かび上がる。
「この弾丸は有機物には効果を及ぼさない。しかし…………無機物に付着した場合付着した場所に模様が浮かび上がりその模様は爆弾に変わる」
模様が真っ赤に発光していき、模様が大きな爆発に変わるとほぼ同時にレクターは体を丸めながら攻撃を回避する。
「それがあんたの本当の武器?」
「ああ、これが俺様の本当の武器だ。俺のあだ名は『爆弾男』。その名の通り俺はあらゆる無機物を爆弾に変える魔導の力を使いこなす」
ボウガンはシューターの弾丸を連続で五発レクター回りの地面に打ち付けるが、レクターは右拳に力を込め、全身の筋肉の流れをタダ地面に叩きつける事のみに費やす。
「ガイノス流武術!鋼紛!」
レクターの右拳が地面を粉々にしてしまい、同時に爆弾の模様が小さく分裂してしまう。
爆発も小規模のモノに変化してしまい、さほどダメージを与える事は出来なかった。
「魔導構成式を模様という形で構築し、その模様を使って遠距離攻撃をする技術は別に海洋同盟だけに使われている技術じゃないでしょ。確かエリーも使っていた技術だし、遠距離攻撃だけじゃない、触れる場所に模様を描く技術は幅広いから」
「その通り。その構成術式を正しく理解することがこの技術を取得する方法だ。お前のように脳筋で戦うような人間には一生不可能な技術だ」
レクターは脳筋という言葉に不愉快さを感じてしまっており、頬を膨らませながらも反論できずにいる。
レクターがこの戦法に対応できたのも、学校の実技授業で遠距離戦法を使うエリーが散々使ってきたからだった。
体が本能の部分で対応できるぐらい仕込んだのは、ソラとエリーだった。
『レクター。お前は頭を使う戦法が苦手なんだ。せめてこういう戦い方がある位は頭に入れておいた方が良い』
その時の訓練が自然とレクターの体を突き動かした。
『いい?こういう魔導構成術式を模様という形で使う技術の弱点は無機物にしか付着できないという事と、付着している無機物を多少壊してしまえば威力が半減してしまうという点なの。本来は色々と対抗策があるはずなんだけど………アンタにできる事は付着場所を粉砕する事ね』
レクターとボウガンは一定の距離で睨み合う。
戦いは次のステップに動こうとしていた。