東京決戦 3
何度も何度も心に祈り、そのたびに終ればいいのにと願っているが、それでもそんなものは幻想でしかないと分かってしまう。
そう、分かってしまうのだ。
起きればこっちが現実で、惨酷な真実だけが現実には存在し、夢はあくまでも夢なのだと理解さてくれる。
これも全部夢にしてしまえばいい。
国が滅んでも、全てが夢に帰ればきっと最後には幸せになれるとおもうと……、たとえそれが悪行でも最後まで遂行できそうだ。
そうだ……全部夢にしてしまおう。
現実を悪夢に、夢を真実に変えてしまえばいい。
それが王島聡の夢なのだから。
袴着空という人間はきっと何度も後悔しながらそれでも前に進むのだろうし、その度にウジウジ悩んではそれでも前に進むのだろう。
託されたとか、継承された力だとか、魔導も呪術も本当の所で俺にはよく分からないけれど。
魔導と呪術がどうして誕生したのかすら俺にはよく分からないが、俺は魔導に選ばれ、王島聡は呪術に選ばれて戦う。
人と竜が交わり、魔導と呪術が争うというこの構図を俺達はよくも現している。
俺と王島聡、木竜と他の竜達。
日本崩壊という瀬戸際までやってきている西暦世界、それでも何とかここで食い止めようとしている。
竜の咆哮を上げると同時に西暦世界に多くの軍勢がやってくるてはずだが、それだって結局の所で積み重ねなんだ。
王島聡も俺も三年間を積み重ねてきた。
王島聡は魔王なのかもしれない。
だったら俺はきっと勇者………英雄なのだろう。
俺はたとえ惨酷な悪夢のような現実でも、それでも俺は現実に行きたい。
列車の上からの攻防戦が始まり、ドンドン襲い来る軍用ヘリの大群に対して、劣勢になりつつあるこの状況、全軍の突入タイミング近づきつつある。
焦りから飛ばす剣の軌道が乱れ始めるし、それでなくても疲れが出始めているのに数がドンドン増えている気がする。
市街地が周囲に見え始めたかと思うえばあっという間に俺達の周りには様々なビル群が見えてきて、軍用ヘリがビルに突っ込んでいったりと激しさが市街地を燃やし始める。
「東京駅に近づきつつある! そろそろエアロードとシャドウバイヤの咆哮を揚げるタイミングだ!」
俺が声を張り上げると、ガーランドは首筋に人差し指を当てる事で通信機の電源をONに変える。
「エアロードとシャドウバイヤに咆哮を上げるようにと告げろ」
「列車の速度を上げ過ぎてない? そろそろ速度を緩めないと東京駅へと突っ込んでいく事になるよ」
「ここで速度を緩めれば軍用ヘリがさらに集まってくる。最悪の事態にもなるかもしれないがこのまま突っ込んでいく」
「脱出できるのは数人だけだよ。それ以外はどうするつもり!?」
「中にいるのなら私が何とかする」
そう言って戦いに集中していくガーランド、俺としては不安な気持ちがどうしても心に残ってしまう。
列車の中からエアロードとシャドウバイヤの咆哮が高らかに響き渡り、上空に黒い穴が広がるとその中から超大型飛空空母がその巨体の姿を現す。
あれではターゲットになるのでは?
そう心配した最中、案の定木竜は超大型飛空空母へとブレスが飛んでいくがそれは見えない壁のようなもので防がれてしまう。
フィールドバリアというべき防壁なのだろうが、授業で習った時には大型過ぎてよっぽどの大型の飛空艇などでしか搭載できないと聞いた。
今回の為にわざわざ搭載できるように調整してきたという事だろう。
『東京駅衝突まであと十分! 脱出可能のメンバーは脱出を開始してください!』
「アベル! 脱出可能のメンバーと一緒に脱出し、それ以外のメンバーは列車の中で何かにしがみ付け! ソラはジュリの元にいてやれ」
俺は列車の中へと戻っていきジュリを見つけ出して座席に下に押し込む。
レクターも同じように列車の中に戻ってくると、座席の下に潜り込み固定した座席にしがみ付く。
外の軍用ヘリが小型の戦闘用の飛空艇と戦い始めるとガーランドが中へと戻ってくるのが俺には音で判断できた。
衝突までもう五分所からあと一分も無いだろうにと思っていると、前方車両から衝突音が聞えたタイミングでガーランドの声が聞えてきた。
「重撃移動術。飛永舞脚」
前方車両からガーランドが走りながら生徒や乗組員が怪我しないようにと衝撃を緩和していき、俺の前を通過すると俺とジュリに衝撃が走った。
そのまま別の列車へと飛び移っていく。
たった一人で複数台の列車を飛び移りながら救っていく。
なんで一人で出来るんだよ。
アベルは全てのウルズナイトと戦車と共に東京駅衝突より少し前に逃げ出す事に成功していた。
街中のど真ん中を抑えたウルズナイトと戦車部隊、ここから少し移動した所に戦闘音が聞えてきたのを感じた。
「アベル大将。ここよる一キロ先で戦闘音。サクト大将の部隊が戦闘していると思われます。ここからですと敵側面から攻撃できそうですが」
「………ガーランドの部隊は?」
「ここから少し離れた場所に確認済みです。しかし、ガーランド大将は列車の中に残っているようです」
ガーランドがいるから心配をしているわけでは無いし、かといって無視するわけにもいかないが、東京駅は現在敵勢力の本拠地と化している。
救出するのなら結局で敵勢力を誘い出す必要性がある上、ここで逃げ出せばサクトから怒られるだろうことは簡単に予想できた。
「アベル大将。お願いですからここの指揮を投げ出してどこかに行かないでくださいね。ガーランド大将がいらっしゃらないのですからあなたがここで指揮をしてもらわなくては困るんです」
部下にも釘を刺されてしまってはここから逃げ出すわけにもいかない。
「ガーランドの部隊を回収後、敵側面から攻め敵勢力を一旦こちら側に引き寄せる」
「了解です。聞いただろ! ガーランドの部隊に最も近い奴は今すぐ回収に行け、敵勢力に近い奴は偵察だ!」
アベルはこういう時のガーランドが少しだけ不安になってしまう。
(昔っから変わらんな。いざとなれば部下を遠ざけてでも人を助けようとする)
まるで自分の生き甲斐とでも言うように戦う姿勢、時折すごいと感じるがその反面不安にもなる。
ガーランドの部下自身が不安になっているように、いずれこの行動が命取りにならなければいいと思うだけだった。
「アベル大将。ガーランド大将の部下の回収に成功しました」
「ではこのまま敵側面から攻めサクトの部隊と合流後、敵勢力を一旦皇居方面まで引き付ける! その隙にガーランドと士官学生が東京駅を占拠する手筈だ。よし。準備が終ったと確認でき次第進撃開始だ」
そう言った所で東京スカイツリーから大量の木の根が東京中に広がっていくのが見えた。
「あれが……世界樹か」
俺は列車の中で目を覚まし頭を左右に振りながら意識をしっかり保ち、ジュリに怪我がないかどうかと確認する。
どうやら列車の衝突は思いの他衝撃が少なく、俺は気絶したジュリをお姫様抱っこで抱き上げながら列車の状態を確認した。
列車は転倒こそしていないのだが、中は酷い状況になっているのは確かだった。
「一人で脱出できない者や怪我人を発見次第私に知らせろ。各自事前に決められていた班構成メンバーを確認するように」
外からガーランドの声が聞えてくるのだが、肝心のレクターの声が聞えてこない。
というより東京駅がえらい暗く感じるのは気のせいだろうか?
それとも東京駅の新幹線ホームというのはこんなにも暗いものなのだろうか?
ジュリを抱えながらレクターを探しに電車の中を探し出すのだが、一向に見つからない。
次第に焦りに変わっていく中俺の目の前に伸びているエアロードとそれを引きずるシャドウバイヤが現れた。
そして、外からはレクターの元気のいい声が聞えてきた。
「何じゃこら!?」
それはこっちのセリフである。