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ビヨンド 2

 王島聡の家に関してはさほど手掛かりが手に入らなかった。

 しかし、ここで俺達の元に万理の意識が戻ったと電話が入り、さすがに詳細を聞くほど体力が戻っていないという話だった。

 ここで万理が小さな声で「私の家」と呟いたと聞いたらしく、周囲は聞えなかったといっていたらしいが、ここは万理と奈美を信じることする。

 この場合今の万理の家なのか、それとも昔の万理の家なのかがよく分からなかったが、まず今の万理の家に行き手掛かりが無かったら昔の万理の家に行くことにした。

 という訳で駅前近くにあるマンション、そこに一角に万理の今の家があるらしく、昔は更地だったように思える。

 実際見慣れないマンションが高らかに建てられており、そこそこ高めのマンションのように見えたが、近くに最近できた進学校も活用しているらしく、基本は普通のマンション。

 最もこんな寂れたような街に必要なのかが謎のマンション、駅前で母さんと一旦合流し鍵を貰ってから再び分かれてマンションへと向かった。


 万理の家はそこそこ高めの六階にある603号室、鍵は俺が開きゆっくりと開いていくと中から空気が漏れ出し、更にその奥から人の気配を感じた。

 俺は皆に制止の仕草を送り、ゆっくりとドアを開きながら部屋の中へと入っていく。

 中から漏れ出ている空気は明らかに重く、その空気を変えている『何か』を知りたくて前に進み出ているような状況。

 長めの廊下の一番奥、リビングへと繋がるドアに微かな隙間が出来ておりそのドアをそっと音を立てないように開く。

 リビングには誰もいないが、左にある『万理の部屋』と書かれたドアの奥から物音が聞えてくる。

 部屋の中を隙間から覗いてみると、木製に見えるベットとその横に小さな棚、勉強机とその隣に本棚が置かれておりそこに茶髪の高校生ぐらいの男の子。

 俺は緑星剣を抜き出し、男の背中へと刃先を向けた。


「そこまでだ。お前はここで何をしている? ここは万理の家だ」

「………」


 男は黙って両手を上にあげ、俺は男に対して「持っている物を床に置け」と指示する。

 今の所言う通りにしているようだが、油断ならないのは間違いないが、俺は見たことの無いような背中を見てすら確信のような感情を持てた。

 間違いなく目の前にいるこの男こそが『王島聡』だ。


 しかし、そんな事を口にできるわけがなく、レクターがジュリとマリアを守る形で俺の背に降り、俺は少しづつ近づいていく。

 男は何も語らず、ひたすら両手を前にあげている。


「初めまして……袴着空君」

「……初めまして。王島聡」

「君が来るような予感があったんだ。何故だろうな。君が生きているという話は自衛隊から聞いていたから。でも、正直に言えばこの目で見るまでは信じていなかったというのが真実かな」


 顔を俺の方へと向け始め、世界の全てを恨むような目つきでいて髪も強引に茶髪に変えて不良を演じているようだが、それ以上に体全身から『不幸』という言葉を彷彿させるような人間だった。

 Tシャツの上に長袖の上着に長ズボンは上着の青色に合わせる形になっているが、俺はそれ以上にどことなく古さを感じさせる服に注目がいった。


「海を万理に襲わせたのは……お前か?」

「……誤解しないで欲しいな。元々あの少年は彼女個人に対して思う所があっただけさ。彼女も君個人に思う所があり、それがあの場では有効に働いたというだけだ」

「まるで海が万理が好きだった見たいに聞こえる」

「そう言ったつもりだ」

「それは無いよ。もし海がそう思っていたのならそれは俺に対する対抗心だ。あれは俺が万理から告白されたって聞いていたはずだ」

「どうしてそう思い込む? 他人の気持ちがわかるとでも?」

「誰でも分かるわけじゃないさ。でも、万理や海の気持ちぐらいなら多少は分かるさ。いつだって万理が応援するのは俺、海を応援するのはいつだって奈美だった。海が本当に恋をしているならそれは奈美なんだ。万理に惚れる要素何て……無い。だって……万理は俺の事がずっと好きだったんだから」


 王島聡の目がほんの少しだけだがピクリと動き、睨むようにも見えるし、単純に興味を失ったようにも見える。


「それこそ思い込むという事だとは思えないか?」

「長年一緒にいるんだ。分かるさ。海が何を考え、万理が何を考えていたのかなんて」


 奈美が何を考えているかなんてそれこそよく分かるさ。

 初めて会った時から海をそれとなく気に掛け、口を開けば海の話をする事の方が多かったのだから。

 海の切なさや不幸な生い立ちなどもそう思わせるのかもしれないが、奈美はああ見えて人の一側面だけで判断は決してしない。

 可哀そうだから同情はしない。


「俺がよく分かっている。俺達の四人の絆を引き裂こうとした。俺はそれだけは許せない」

「………絆。絆ね。僕にはよく分からないな。僕達家族に絆なんて存在しなかった。父は僕や妹をストレス発散の道具としてしか扱わず、母はよく夜遊びばかりで金遣いは荒い。妹は病弱でまともに病院に行くこともできなかった」


 分かった。

 これは嫉妬だ。

 この男は俺に対して、俺の発言に対して嫉妬をしている。


「分かる? 僕達兄妹は誰にも助けてもらえなかった。祈っていたんだ。いつかはまともになるんだって、妹と一緒に僕は幸せになるんだって。でも………そんなものはどこに存在しなかった!」


 怒りを顔全体で現しながら後ろから片手で振るタイプの鐘、見ただけで俺はそれが何なのかぐらいはっきりと理解できた。


「これをあのバス現場で見つけるまではな!!」

「じゅ、呪詛の鐘。お前が呪詛の鐘の所持者だったのか!?」

「これは万理という女の父親が持っていたものだ。まあ、話を聞けば元々あのバス事件自体が政府が起こしたものだったらしいし、万理の父親はその事件を引き起こす実行犯役だったわけだ」


 クソ。ここで万理がどうして俺が生きているのかを理解できたのか、それがはっきりと分かった。

 そういう話だったんだ。

 万理は父親の死後その事に気が付いてしまったんだろう。


「バス事件現場にいたのか?」

「ああ、父親が怪しいそぶりを見せていたし、弱みでも握れれば具来の気持ちだったけど、でも、僕の親父と万理の父親が呪詛の鐘の取り合いをしている現場を目撃できたからね。まあ、そのままバス事故に巻き込まれて両方とも死んだけど」


 その時にゲートが開き俺達は移動したという訳だ。

 しかし、この話はここでは終わらないだろう。


「僕の目の前に偶然呪詛の鐘が転がり込んできたときは本当に奇跡なんじゃないかって思ったよ。父親は死に、僕の手にこれがやってきた」

「お前はそれで警察や生徒を殺して回ったわけだ」

「最初はそんな事をするつもりはなかったさ。警察や自衛隊関係者は乗っ取っておきたかったからそうする予定だったけど、生徒に関しては完全に偶然さ。まさか、警察が僕を怪しみ始めるとはね」


 警察は最初の段階で王島聡に辿り着いたのだろうが、王島聡は呪詛の鐘を持っていたはずだ。

 警察を乗っ取るのならそれだけで十分だが、時間はかかるだろう。

 その間に警察の目を他に移す必要があった。


「だからお前は生徒の一人を自殺に追い込み殺し、学校を連鎖崩壊に導いた」

「僕がしたのは最初の一回と学生裁判の時だけだよ。それも、裁判の時は彼らが激しく言い争っていたけどね、あのままだと死人は確実に出ていたと思うよ。所で……僕がどうして懇切丁寧に喋っていると思う?」

「……君とこうして話すのは初めてかな?」


 俺の体が横から襲い来る衝撃に吹っ飛ばされるのに一秒もかからなかった。


 あれは………木竜?


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