大学攻防戦 6
ジェノバ博士が自らの研究所から出てくると大学の殆どは火の手が回っており、研究所の外では兵士五人を相手に互角以上に戦っているソラとレクターが奮闘していた。
ソラは緑星剣を横なぎに振り、兵士二人の胴体を横に切り伏せている間にソラの後ろからアサルトライフルで襲い掛かろうとしている兵士にレクターの強烈な拳が食い込む。
最後の二人が怖気付いたのか、二人そろって大学の北の方へと撤退すると、ソラとレクターはケビンと合流して一緒にジェノバ博士と大学生と共に正門へと逃げていく。
大学の東方向ではさらに激しい攻防戦が繰り広げられており、ソラは表情を歪ませていく。
「なんなんだ?何が狙いなんだよ……」
ソラの悲痛の呟きが漏れ出るのを聞くと、ジェノバ博士が持ってきた書類をソラに渡そうとする。
しかし、その前に大柄のレスラーのような厳つい顔面の男が上から降ってきた。
「ジェノバ博士……その書類をこちらによこしてもらおう。大人しく渡さないのであればあなたごといただく」
「やれやれ老人を労わらん奴が多いのう。お前さん達に渡すような書類を私は持ち合わせておらん」
「フン。貴様が『ドラファルト島』に関する書類を持ち合わせていることは既に周知の事実」
「ドラファルト?なんじゃそれは……」
「あくまでもしらを切るというのなら………」
大柄の男は地面に自らの太い右拳を叩き込むと、ソラ達ごと地面を持ち上げようとする、
地面が大きく揺れ、ソラが素早く緑星剣を大柄の男の外表を切り裂こうとするのだが、それを邪魔するように男は左拳を地面に叩きつける。
「ガキが邪魔すんじゃねぇよ!」
地面から突然コンクリートの塊がソラに襲い掛かってくるが、レクターも同じく地面を叩きつけ盛り上がっているコンクリートを抑える。
「ソラ!こいつは俺が抑えるから、今の隙にジェノバ博士を正門まで!」
ソラは一度頷くとジェノバ博士と共に一旦正門まで駆け去っていく、レクターと大柄の男の魔導機の扱い方のレベルは全くの同じ。
「俺の名前はボウガン……ガキ、お前の名前は?」
「レクターだけど?なんなの?」
「いや………お前結構才能があるなと思ってな。お前俺達の組織に来ないか?」
「嫌なこった!お前達みたいな犯罪組織と一緒にするな!」
「なら………怪我ではすまんぞ!」
地面をめくりあげ、ボウガンはコンクリートを大きな両刃の大斧を作り出し、大きく振り回す。
一回振り回す度に大きな風がレクターの体を襲い付け、レクターは両手に装備したナックルに魔導機を使ってコンクリートを纏わせていく。
ボウガンは大きな咆哮を揚げながら大斧を振り下ろし、レクターは真っ向からナックルをぶつけていく。
ソラは正門近くまで近づいていくと、東の方向ではさらに大きな爆発が起きていく。
「外相と理事長がまだ中にいるんです!」
「駄目です!ガイノス帝国軍がすでに内部で救助活動に入っていますので」
「そんな!中には烈火の英雄を見たんだ!あの二人を殺すつもりかもしれない」
軍の制服を見に包む強面っぽい男性とオロオロしている執事姿をしているような男性が言い争いをしているようで、その後ろではジュリがソラに向かって手を振っている。
「ソラ君!こっち!あれ?レクター君は?」
「レクターは中でまだ戦っている!それより外相と理事長がどうしたって?」
「まだ逃げられていないらしくて………副理事長さんがさっきから抗議しているの」
ソラが小声が「なるほど……」と呟くのだが、ソラの後ろで同じく避難していたジェノバ博士が「まずいの」と言っているのをソラは見逃さなかった。
「何がまずいんですか?」
「……フム。烈火の英雄は外相を殺そうと今回の事態を引き起こしたのじゃろう。全く……首相の奴めあれほど面倒ごとを起こすなって言うたじゃろうに」
「烈火の英雄………そいつがこの大学に?狙いはその二人?」
「どちらかと言えば外相の方じゃろうな。お前さんは聞いたことが無いか?外相の悪い噂話を」
「大学生たちから………でも詳しい事は何も聞いていない」
「そうか………外相を殺されれば罪は永遠に闇の中じゃよ。全く………」
ソラにもその言葉の意味ぐらいはきちんと理解できるし、それがまずいという事ぐらいは分かっていた。
「理事長室はどこにあるんだ?」
「本校一階東方向じゃよ。行けば分かるが………どうしても行きたいのなら一旦北側へと移動してから移動した方がよかろうて」
時間は少し前に戻る。
爆発が起きる少し前、理事長室の茶色い長ソファに腰を掛け苛立ちを赤いカーペットに叩きつけている外相。
反対側の席ではその苛立ちに寿命を縮ませているのでは?と思わせるほどに冷汗をかきまくっている理事長。
その時は突然に起きた。
隣の壁が勢いよく吹っ飛ぶと、理事長室の窓ガラスは叩き割れ天井が崩れ落ちるとドアと窓ガラスの出入り口がふさがってしまう。
二人は完全に気を失い、もう一度目を覚ました時には自分達の体がロープで拘束されている瞬間だった。
目を覚まし目の前のソファに鎮座し、見下すような目線を二人に向ける人物こそ烈火の英雄本人である。
「貴様!これは何のつもりだ!こんなことをして!」
「それはお前自身がよく分かっているだろう?ドラファルト島を吹っ飛ばした張本人が、恨まれるようなことを散々して来たくせに」
「あ、あれは………」
外相は言いにくそうにしており、理事長は助かりたい思いで必死に命乞いをする。
「私は関係ないではありませんか!」
「関係あるさ。あんたもドラファルト島に関する事件の関係者だ。お前はバルの流通ルートに自分が関わっていると隠す事を代償に口を紡いだ」
「そ………そんな!なんでそんなことを」
外相は大きな口を開くのだが、烈火の英雄は外相の大きな腹を蹴っ飛ばし外相は吐き気を出来ないまま苦しみにのたうち回る。
「アンタが殺したんだ」
「ち、違う………!あれは…首相が!」
「言い訳無用。お前が実行犯であることは分かっているんだ」
腰から一本の両刃直剣を抜き出し、外相の口を強く抑えながら押し倒し、喉元に剣を皮が切れるか切れないかのギリギリのラインで振れる。
「お前以外に内閣メンバーで事件に関わった人間がいたはずだ」
「し、知らない!」
「お前ほどの人間が全く知らないなんてことは無い、苦しみながら死にたくはないだろう?」
「………!あ………」
悲痛な表情で迷い、苦しむ外相を前に理事長が助かりたい一心で叫び出す。
「財務省のバーダーも関わっていたはずです!」
「理事長!貴様!国を裏切るのか!? 」
外相の絶望に満ちた表情と、理事長の助かりたい思いで答えた必死な表情は対照的な表情をしており、烈火の英雄は理事長の方に顔を向ける。
「他には防衛相の『ファダ』も関わっていたはずです。これ以外にはもう私は……」
「あんたは知らないだけか?」
「はい。外相は知っているはずです」
完全に裏切られたと感じてしまった外相、烈火の英雄は立ち上がり理事長に近づいていく。
理事長はこれで自分は助かると安心しきっているところを烈火の英雄は腰に装備した一本の剣で体を真っ二つに切り裂いた。
横に倒れた外相の真ん前に理事長の唖然とした顔が転がってきた。
「あ、ひゃぁ!? 」
「お前はこうなりたいわけじゃないだろ?」
「う、裏切れるか!こ、殺したければ殺せ!」
(どうせ話しても殺される!殺したければ殺せ)
「まあいい。今度はこの二人から話を聞くだけさ」
烈火の英雄は外相を殺そうとゆっくりと近づいていき、一本の剣で切り裂こうと力一杯振りかざす。
しかし、その剣が振り下ろされることは無かった。
窓ガラスのあった瓦礫が吹き飛ばされ、烈火の英雄の前にソラが立ちふさがった。