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空は海を羨みながら海は空を羨む 3

 ジャック・アールグレイはイザークの首を持って立ち去ろうとしており、俺はそれを引き留めた。


「どこに持っていくつもりだ?」

「依頼主の所にな。この男はアメリカでは有名人だ。この男の首を持って帰るだけでも数千万をだすという男もいる。これだけでも稼げる。これ以上関わる気もしない。それより、お前はこんな所にいてもいいのか?」


 俺が「どういう意味だ?」と尋ねるとジャック・アールグレイは昔を思い出すように悪そうに笑う。

 この男が何かを企んでいるじゃないのかと疑いたくなる。


「俺がという訳じゃないが……この街には呪詛の鐘がある。そして、その鐘を所持した人間もいる。イザークというこの男も呪詛の鐘を探していた。そして……あの万理という女………」

「な、何が言いたいんだ?」

「声が震えているぞ。もう分かっているんだろ? 早く言ってやった方が良いぞ」

「お前! あの時ずっと聞いていたのか!? だったらどうしてあの時に割って入らなかった?」

「私にとってはこの男の方が重要だ。金に成らないことはしない。知っているだろう?」

「お前のそう言う所が………嫌いだ!」


 俺は集落のみんなやジュリ達に背を向けて走り出す。

 クソ! どうして気が付かなかった!?

 万理が呪詛の鐘の保持者に会おうとしていたことを、その邪魔を呪詛の鐘保持者が邪魔したかった事を!

 どうして気が付かなかった?

 万理があの場に用事があるといっていた時点で考えに入れているべきだったんだ。


 走って間に合うとは思えず、太陽が少しずつ傾き始め夕日が燃え尽きそうになっている集落を明るく照らす。

 必死になって来た道を戻っていき、途中で木の下で昼寝をしていたエアロードを叩き起こして中学まで飛んで行かせようとする。


「起きろ! ていうかなんでここでいるんだ?」

「ふみゅ? お前の後を追っていたら疲れてな」

「中学まで飛んで欲しい! 急いで!」


 エアロードを元の大きな体に戻してから俺はその背中に乗り、エアロードは小野美里市の街中を飛び回り始める。

 中学のおおよその場所を指さし、ものの数分で中学前までたどり着くと俺は必死に中学の校門をくぐり体育館まで走っていく。


 「頼む」と心で叫び、何度も何度も最悪の状況が起きていませんようにと願う。

 体育館のドアを思いっ切り開けると、()()()()()()()()()()()()()()()()

 体育館の中央に万理が仰向けに倒れており、身体には斜めにつけられた切り傷、大量の出血量が遠くからでもよく分かる。


 悲鳴なのかすら分からない様な声を上げながら俺は万理の元まで走っていく。


「万里! 万理! 嘘だ……お、俺が離れたばかりに」


 まだ辛うじて息をしており、俺は万理を担いでその場から移動しようとした所で、俺は前に来た時には存在しなかった物を見付けた。

 万理の名前が書かれている椅子と『袴着空』と書かれた椅子、万理の方の椅子には血がついている。


 俺はその椅子を用意した人間に心当たりを付けた。


「王島……聡! お前なのか?」


 中学を交渉場所に万理が選んだのはここの中学関係者だからだ。

 その上で、俺や万理の名前を知っている人物、同じ中学で同じ学年の人間。

 万理を切った刃物は刀、万理がどうしてもここでしたかった事、切ったのは……海だ。


「王島聡!! お前だけはぁ………!」



 万理を急いで緊急手術が行われることとなり、俺は手術室の外で万理の血で赤く染まった鎧を着ている。

 急いで奈美が息を荒くしながら手術室前までたどり着き俺に抱き着きながら必死に尋ねてきた。


「万理お姉ちゃんは!? 大丈夫だよね?」

「………五分五分だそうだ。出血量が激しかったといわれた」


 奈美は崩れながら「そんな」と呟き、俺はその場から立ち去ろうと外への道へと歩き出す。

 放心状態のまますれ違うジュリやレクターを無視して病院裏の中庭を歩いている最中に水溜まり前で立ち止まった。

 いつの間にか血が付いた鎧は解除され学生服姿の俺が其処にはいる。


「何があった?」

「ガーランド。海が万理を殺そうとした。万理は呪詛の鐘の保持者である王島聡に会いに行こうとしていた。俺の所為だ……俺が万理の目的に気が付いていれば!」


 ガーランドにとって海は実の息子同然の存在で、そんな事をガーランドに言えば彼を苦しめるだけなんだと分かっていても、俺は愚痴を聞いて欲しかった。


「万里は意図的に俺に話さなかったんだ。重要度が万理には分かっていたから。自分の事よりより多くの人を選んだ。でも……俺は万理に自分を選んで欲しかった………ううん。俺は万理に選んで欲しかったんだ」

「………」

「海がどうしてそんな事をしたのか……多分俺が原因なんだ。俺が三年もいなかったからここまで拗れてしまったんだ。王島聡に全部好きなようにさせてしまった。万理も海も……俺は救えなかった」

「万里という少女はともかく、海に関してはお前が諦めるには早いんじゃないのか? 話せ。私やここにいるアベルに。お前と海のお話を」


 その声に反応して振り返るとそこには確かに父さんも一緒に立っている。

 話すだけなら自由だ。



 幼い頃、俺は父さんを知らなかった。

 母さんの部屋に飾ってある写真盾に映る姿が俺の知る父親の全てで、母さんがアルバムを出して見せてくれた時、初めて父さんが剣道をしていた事に気が付いた。

 同じ時、西洋の剣のかっこよさに憧れたという事もあり、俺は剣道をしたいと母さんにせがんだ。

 すると、母さんは昔父さんと同じ道場の門下生だった人が師範代をしている新しいが道場近くにできたって教えてくれて、俺はその道場を目指して歩いていた時に海に出会ったんだ。


 最初は根暗な奴だなっていうのが正直な印象だった。


 だって剣道場前の林から隠れるように中を見つめているし、俺が剣を振っている時とか、教えを乞うている時ですらも海は隠れていたから。

 でも、その内俺は万理と小学校一年生で出会い、同じ剣道場に誘った。

 万理と全く同じ時期に剣道場に通うようになったのが奈美で、俺達が三人で楽しそうにしている姿を羨ましそうに見ていたのを奈美がオズオズと声を掛けたのがきっかけだった。


 四人だけでも楽しくしていたよ。

 俺と海が試合にもならない様な試合を繰り返し、猪突猛進してくる海を俺がうまくよけながら海の頭を叩く。

 そんなくだらない様で楽しい毎日を繰り返していた。

 その内道場生が増えていくと次第に俺と海の間に見えない溝ができるようになったんだ。

 その原因が何だったのかなんて今でもはっきりわかったわけじゃない。

 でも、俺は自分勝手な剣道を繰り返していたし、海は真面目な性格もあり大会で着実に成績を残すようになった。

 その内剣道場の中で俺と海、どっちが強いのかという噂が上るようになる。

 切っ掛けになったのは俺が全国大会に出場することになったからだ。


 海から試合を申し込まれたのはそれから年を経過し、小学校卒業前の時だったけど、俺はそれから逃げる口実を師範代から得た。


 あの時の俺は試合の中で誰かを傷つける事を嫌がっていた。

 海は俺と違って皆から期待されている身、俺が怪我でもさせたらと思うと怖かったんだ。


 剣道場を止めたときに奈美とも揉めたし、万理からの告白を断ったこともあって万理とも会いずらくなった。

 でも、時間が解決すると思って何も考えないようにしていたけど、そんな時にバス事故が起きた。



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「結局一回拗れた人間関係が簡単に修復できるわけもなく、海は多分俺が剣道場を去ったことに責任を感じていたんだろう。今の海に何を感じているのかなんて俺には分からない」


 海に勝つこと自体は楽だし、王島聡を倒せば結果から見れば事件は解決できる。

 でも、それでいいのかといえばいいはずがない。


「海に勝て。魔導に頼らず、お前自身だけの力で挑むんだ」

「私とガーランドが切磋琢磨していったように、これからでもお前と海が切磋琢磨していけばいいだけだ」


 真正面から魔導に頼らずに勝つ。

 海を開放し、その上で王島聡を倒す。

 俺にとって明確なもう一つの目的が出来た。


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