空は海を羨みながら海は空を羨む 2
ジャック・アールグレイという人間を俺がどう認識しているのかというと、鐘に五月蠅く、金儲けを第一とし、その邪魔をする者は許さない。
俺は中学の三年間この男としのぎを削って来たといっても過言では無いだろうし、それ故にお互いに天敵として認めあったというのはある。
まあ天敵であるがゆえに俺達はお互いに嫌いあっており、それ故に俺達は三年近くにわたって戦いあった。
その関係も去年の海外研修で終わりを迎え、ジャック・アールグレイはこの世界から姿を消した。
最も、西暦世界に来たといったのは最近の話だが、それでも俺が心のどこかで死んでいなくてよかったと思ったのは事実だ。
こんな男では線引きはきちんとする方だし、最もその線引きがかなりおかしいというのはあるが。
それでも、この男なりに恐らく去年の事は反省したのかもしれない。
マリアが調べた結果ではアメリカに本拠地を置く傭兵企業をしているらしく、そこの社長らしく、彼らしく会社を乗っ取った。
ジャック・アールグレイらしく、金もうけに手段は選ばないという所は変わらず、しかし、心のどこかにあの時の事を反省したのだと信じたい。
というか信じさせてほしい。
レイピアが基本装備だというのは中学二年の事件で知ったことだし、この男がエアロードの力を一時的に使っていた事は知っているが、今現在イザークが作り出した巨人に立ち向かう力を持っているのかというと少し不安。
ジャック・アールグレイのぱっと見の見た目に騙される人間は多く、実際彼の悪行を知っているジュリはともかく、それ以外の人達は俺同様に救世主ぐらいに見ている。
ここで叫んでこの男の悪行を叫びだしたいような気分の中、それでも目の前の巨人はそれを許してはくれなかった。
イザークがどうしてこんな姿になったのかがよく分からず、俺は緑星剣を向けながらもどこをどう切りつければと悩む。
ジャックは鼻で笑いながらどことなく失笑気味であざ笑っているが、俺としてはどうしてこの状況で笑っていられるかが分からない。
「何がおかしいんだ?」
「死んでなお信念になり果ててなおも生きたいと望むとはなと思ってな。情けない。学生に負けて悔しいというのはまあ…分からんでもない。しかし、死んだのなら大人しく死んでいろという気持ちになる」
死んでいるのか。
信念となっても生きたいと願っており、その力が暴走しているというのか、しかしなんでそんな事が分かるんだ。
「俺の異能だな。お前のような異能とは違うが、解析能力の向上といえばいいか、まあ未来が見えるわけでもないしな。お前が貴重な戦力だ」
「一つ聞きたい。俺はお前を心の底から信じていない。だから聞きたい。どうして協力する気になる」
「簡単な話だ。依頼主から金を巻き上げるのにこの男の首は重要だ。問題はこの男を殺した現場で戦ったという実績なんだ。お前が戦うなら都合が良いしな。なあ……異能殺し」
異能殺し。
初めての戦闘の時に俺が呪術を破壊した事をいまだに根に持っており、それ故に俺の事を異能殺しと呼んでいるのだ。
「要するに金の為か?」
「この世界は欲で飢えている。俺からすれば稼ぎやすい場所でしかない。程よくスリルも味わえるしな。それに金の為とは言うが俺から金をとったら何が残るんだ?」
「それを聞きたいけどな。まあいいや。邪魔だけはするなよ」
俺はそう言い残すと巨人の足元まで駆けていく、右足を緑星剣で切り落とそうと水平斬りをお見舞いするが、巨人の体は完全に炎で出来ておりまるで致命打にならない。
巨人は大きな炎の右手を俺めがけて振り下ろすが、俺はそれをバク転で回避するが、それ以上に巨人が地面を叩きつけた衝撃波が物凄かった。
というか、もうなんというか炎の波と比喩してもいいほどの熱風が襲い掛かってくるし、ジャック・アールグレイは適当な物陰に隠れてやる過ごそうとするしで最悪だ。
ジャック・アールグレイがまるで役に立たない様な気がする。
そう思っていた時の事、ジャック・アールグレイは物陰から飛び出していき目にも止まらない速度で右腕をレイピアで吹っ飛ばす。
どうすればレイピアでそんな攻撃が出来るのかが不思議だが、しかし、それ以上に大きく体勢を崩した巨人は前のめりに倒れる。
俺の目の前に巨人の頭がやってくると、巨人の頭に人一倍大きな輝きが見えた。
その大きな輝き目掛けて俺は緑星剣で縦に切りつけると、何か堅い物を切りつけるような感触、それと巨人の方向が俺の鼓膜を刺激する。
「それが核だな」
「お前……分かっていたな!? それで俺の方に頭を向けさせたのか?」
「いいだろ。結果オーライという奴だ」
適当に言い逃れようとするが、先ほど言っていた解析能力という奴か、パッと見ただけで相手の弱点が分かったという事だ。
「核というのはどこにあるんだ」
「難しいな。あとは心臓部だが。先ほどの戦いでえらい警戒されている。お前が大きな声で私に尋ねるからだ」
「俺の所為なのか?」
巨人は俺達を恐れているのか、それとも死への怯えなのか攻撃をしようとしてこない。
「殺す………根絶やしにする………殺しこそが快楽なんだ……その邪魔をする者は………」
「哀れだな。もう快楽なぞ感じていないだろうに…」
ジャック・アールグレイは本気で哀れな目をしており、死してなお信念になってなお快楽に溺れようとしているイザークにそんな言葉を向けた。
「殺しこそが……その間違いを正そうとしていれば生きていられただろに……!」
「どだん無理な話だな。お前とて人を救おうとする。私は金儲けをしようとする。それと同じことだ。やりたい事が間違いか正しいかは問題じゃない。この男にとってはな。間違いや正しさは周囲が決める事だ」
「だとしたらお前はこの男を正しいと思うのか?」
「思わないな。そこまで俺は堕ちる事は出来そうにない。だからこそ……ここで殺したやる事がやるべきことになるんじゃないのか?」
俺は緑星剣の側面をじっと見つめ、反射して映る俺のマスク姿、この力を手に入れる為に俺は堆虎達を殺してしまった。
それなら俺は結局でこの男と一緒なのではないのか?
そう思ってしまう。
しかし、ジャック・アールグレイが言う正しさとは周囲の人間が決める事、俺は皆から正しいといわれてきた。
三十九人を殺してしまった俺をみんなは受けていれてくれている。
そうか、周囲にいる人間の差なんだ。
この男は孤独なんだ。
「孤独なんだな……誰も認めてくれず、周囲からの信頼を恐怖という形でしか受け入れさせることができない。だからそれが間違いになる」
「フン。それがお前とこの男の差だ。そろそろ決めるか。これ以上被害が出ると私が捕まりそうだ」
俺もこれ以上放っておくわけにもいかない。
緑星剣腰の位置にまで落とし、剣先を斜め下へと向けながら右手に装備、剣全体に力を圧縮するようなイメージを籠めると緑星剣が淡い光を放ち始める。
ジャック・アールグレイが走り出し、巨人の攻撃を回避しながら両足を吹っ飛ばし、倒れてくる巨人の心臓目掛けてレイピアを叩き込むが、巨人はそれを両腕で受け止める。
巨人の両腕が吹っ飛ばされていき、ジャック・アールグレイは倒れてくる巨人から退避し、俺は倒れる前に相手の懐に入り込み相手の胴体目掛けて最大の一撃を叩き込む。
「消えろ………その後悔共に!!」
巨人の体を構築していた炎が周囲の熱量と共に消え失せていき、周囲には焼け野原が残るだけ。
「俺も後悔していたんだな……でもそれもこれでおしまいだ。前に進むよ」
きっとこの戦いは前に進むためには必要な戦いだったんだ。