空は海を羨みながら海は空を羨む 1
俺が不甲斐無いばかりに怪我人を出してしまった。
悔しさから俺は下唇を強く噛みながら俯いていると、病院一帯はガイノス軍が素早く太陽に明け暮れていた。
ガーランドさんの指示の元民間人の被害は連れ去れたジュリ達三名のみ、俺は今すぐにでも追いかけたい気持ちで病院から出ていこうとする。
「ちょ、ちょっと! 行く当てあるわけ?」
レクターからの言葉を全て無視して俺は街中に繰り出そうとすると、後ろから力強い力で引っ張られた。
つい後ろを振り向くとそこには簡単な怪我の治療を終えたガーランドさんがそこにおり、ガーランドさんは俺の右頬を平手打ちで力一杯叩く。
「いい加減にしろ。焦り、何も考えずに探し出しても見つかるわけがないだろう。皆お前のミスだと思っていない。私自身の油断、ガイノス軍全体の不甲斐なさ、お前に頼らなければ死傷者を出しかねない状況だったんだ。お前はお前自身のやるべき勤めをきちんと果たした」
「でも! 俺がイザークを倒していれば………こんな事にはならなかった!!」
俺自身の不甲斐なさ。
最後の一撃を繰り出した瞬間にイザークが炎で分身を作り出していた事に気が付き、致命傷を与え損ねた。
俺の不甲斐なさが招いた結果だ。
「お前が倒していたからどうした? 今更ありえない未来を語る事に何の意味がある? その未来にいるお前がどれだけ優れているんだ? ありえない未来を想うぐらいなら周囲に目を向けろ」
ガーランドの言葉で俺自身がどれだけ焦りの中にいたのかをはっきりと理解できた。
レクターが何度も何度も頷き近づいてくると、エアロードとシャドウバイヤがどこからか姿を現す。
「あの男だったらお前の集落の方まで行ったみたいだぞ。あの速度ならお前が走れば間に合うだろう」
エアロードがそういうと俺は少しだけ考え込んでからもう一度翻した。
「挽回するチャンスが欲しい。お願い。あいつだけは俺一人でやらせて欲しい」
「まあ、男手が欲しい所だしな。フム。無茶だけはするなよ?」
保証は出来なかった。
俺が走り出そうとするとガーランドがもう一度俺を呼び止める。
「私の事を無理して『ガーランドさん』と呼ばなくていい。お前の呼びやすい言い方でいいぞ。お前が私の事を尊敬できるようになるまで……それでいい」
「行ってくる。レクター、ガーランド」
駆け出していく俺を誰も止めない。
集落への谷間を走っていくと、集落の方から火の手が昇っていくのが見て取れる。
「あの野郎! 集落全体を燃やしているのか!?」
あのまま奴の好きなようにさせるわけにはいかない。
飛んでいけたらと思うが、そんな都合のいいことが起きるわけがなくとにかく走るしかない。
集落のがやっと見える場所まで辿り着き、そこから見える集落全体にまばらではあるが火の手が上っており、俺は怒りで気が狂いそうになる。
俺は空を飛ぶぐらいの勢いでガードレールから飛び出していくと、俺が空中で立ち止まっていると気が付いた。
なんというか、空気を踏むような感触なのだろうか?
よく考えるとエアロード事風竜と契約しているので、空気や風を操る力が生まれているのだろうと仮説を立て、空を飛ぶイメージを浮かべながらさながらスーパーマンのように飛んでいく。
俺の家一体が特に酷いが、それから身を守るように見えないシールドが炎から守っており、俺の家には多くの住民が集まっているのが見えた。
あれはシャドウバイヤだろうか? それともエアロードだろうか?
間違いなく竜達の力による結界なのだろうが、あれがどれぐらい持つのかが分からない以上突っ込んでいった方が良い。
イザーク目掛けて緑星剣を振り下ろすが、イザークはその攻撃を紙一重で回避し俺の側面目掛けて思いっきり炎の一撃を叩き込む。
俺の体が吹っ飛んでいき、家の門前で一旦止まる。
黒い鎧がいったん解除してしまい、頭から激しい痛みが走り血が流れ始める。
「お、お兄ちゃん!」
「ソラ君!」
「ソラさん!」
ジュリ達以外にも多くの人達が俺の名前を叫んでおり、俺が生きていることは既に周知の事実のようだ。
どうせ奈美辺りが話したに違いない。
「鬱陶しい! ここで殺してやるからな」
「殺されるのはお前だ………! 挫けない。諦めない。どんな時も生きた証を胸に俺は戦う! この背中にある三十九の星々に誓った!」
立ち上がりエメラルドグリーンの星屑の鎧を召喚しなおし、緑星剣をまっすぐにイザークの方へと向ける。
「お前を倒す! ここにいる大切な人たちをみんな守る!! 何よりお前が傷つけ! 殺してきた人たちの敵は必ず取る!」
「鬱陶しいガキだ! 殺されたければ掛かってくるがいい」
イザークは殺意を表情一杯に現し、俺は決してひるむことなく立ち向かう。
地面から溢れ出る炎が舌からの攻撃を予知してくれ、俺は大きく後ろに跳躍し炎の攻撃を回避、全身の神経を研ぎ澄ませてから前のように無暗に突っ込んでいったりしない。
イザークは少し遠い所に着地、地面に右手を触れていると俺の周りに炎が溢れ出ていく。
先ほどと同じ攻撃をするつもりなのだと分かり、俺は緑星剣を地面に突き刺す事で攻撃をキャンセルする。
イザークは舌打ちをしながら右掌に炎の球体を作り出し、それを十個ほど連続で放つ。
その攻撃をしっかり目で刻み込み、攻撃の全てを緑星剣の軌道内に入れる為に思考をフル動員する。
俺の後ろには多くの人がいる。
ここで引くわけにいかない。
剣先に意識を集中し、炎の弾丸を全て叩き落とすつもりで最初の一撃を縦に振り、そのままの勢いで斜め上目掛けて振り上げる。
炎の弾丸が風によって軌道を微かに変えていき、俺の右横を通り過ぎようとするが、俺はそれを横なぎの攻撃で左側の弾丸ごとまとめて切り落とし、更に力一杯に前に踏み出していき三発の弾丸を二連続水平斬りで切り落とす。
最後の三発目指して走り出し、斜め上振り上げながら空中を舞いながら水平に切り落としてから着地する。
イザークは驚きのまま表情を固めていき、今の隙にと俺は一きりに距離を縮めていく。
「バケモノめ!」
「お前にだけは言われたくない! この人殺し! 何人の人間をその手に掛けた!? お前が殺した数だけ悲劇が起きている! お前こそ化け物だ!」
この男は生かしておいちゃいけない。
存在するだけで周囲の人々に不幸をもたらし、自分はその不幸の上で高笑いを浮かべるような男だ。
水平斬りをイザークの喉元目掛けて切りつけるが、イザークは体を大きく後ろに伸ばす事で回避しようとする。
「逃げるな! この卑怯者!!」
「わ、私が卑怯だと!?」
「卑怯だろ! 貴様だけ安全な場所で戦い、あまつさえ貴様は自分の仲間すら当たり前のように犠牲にする。それが卑怯じゃないと!?」
「この………!!」
逃げようとする心と、俺からの罵倒に反応しようとする心がせめぎ合い結果イザークは動かない。
俺は力一杯に緑星剣に力を籠め、思いっきり水平に斬りつける。
イザークの首が空中を舞い、俺はその場で膝を付く。
「ハァ……ハァ……」
息が乱れていき、正直疲れ切っておりその場で横になってしまえたらと思うが、それ以上にジュリの声が俺の思考を再び活性させた。
「ソラ君! 後ろ!」
俺は跳躍しようと両足に力を籠めるが、無様に転がるだけ。
しかし、それでもダメージを受けずに済んだんだと思うとまだましに思えた。
「嘘だろ!? 首を切ったはず」
首を切ったはずだし、あれで生きていられる人間がいるとは思えない。
そう思いはっきりとみると首から上は無いが、全身が炎と化しているように見える。
「な、なんなんだ……!?」
イザークの体は集落中にまばらに散っている炎をかき集めまるで大きな巨人のようにも見えるほどの巨体に変貌していく。
「何だ何だ? お前は今更ここで怖気づくのか?」
俺にとって忌々しいといってもいいほどの天敵、しかし、生きているだろうとどこかで確信していた人物。
精悍で、髪は黒く七三分けに近い感じではあるが前髪が長いせいで真面目にはまだ見えない。
「ジャック・アールグレイ」
「どうした? 私としてはこいつを殺そうと思っているのだが? これでも指名手配犯だからな。殺せば金になる。お前はそこで大人しくしていればいい」
ふざけるなと叫びたくなる気持ちで俺は立ち上がる。
「お前こそそこで座っていればいいさ」
「それでこそ私の天敵だ」
かつての天敵と共に化け物を討つ!